« 店情報: 田楽料理「でんがく屋(でんがくや)」(鎌倉) | トップページ | 店情報: バー「ザ・バンク(THE BANK)」(鎌倉) »

日本独自の調理法 … 田楽料理「でんがく屋(でんがくや)」(鎌倉)

「鎌倉に『田楽』という囲炉裏料理の名店がある。」という噂を耳にしたのは、もう数年前のこと。それ以来、なんとか一度行ってみたいものだと思い続けていたのです。そんな話を横濱(ハマ)の酒場通・iiさん、湘南方面にも詳しいG.Aさんのおふたりと飲んでいる場で話しをしたら、なんとiiさんは学生時代から「田楽」に通っており、数十年来の常連さんだという。「なんなら今から行ってみますか?」と本当にその場で連れていってくれそうな気配のiiさん。「いやいや。せっかくの「田楽」ですから、ドライな状態(酒類を飲んでいない状態)でうかがいませんか。」「それじゃ、店の開店と同時に入るのがいいので、土曜日の4時に予約して行くことにしましょう」とその場で話がまとまって、今日、いざ鎌倉となったのでした。

「でんがく屋」と書かれた白いのれんをくぐり店内に入ると、店内は右手に囲炉裏を囲む10席と、左手に2人掛け×2卓の小上がり席。囲炉裏は右手奥が女将さんの場所で、左右に3人ずつ、女将さんの正面に4人が座れるようになっていて、我われ3人は左側の角を囲むように陣取ります。開店直後とあって、我われの他は年配の男性常連客ひとりのみ。このお客さんは囲炉裏の右手側(店で言うと入り口側)の角に座っているのですが、囲炉裏を囲む席のうち、右手側のこの場所(3人分)だけが小上がりの畳席になっているのです。

炭火もまだ熾(おこ)りはじめたばかりで、炭の上には茶筒くらいの大きさの煙突がのっけています。「ああすると、気流の関係でうちわでパタパタしたりしないでも炭火が熾るんですよ」と教えてくれるiiさんとG.Aさん。

秋田出身だという女将さんは、年配の方ながら、まさに秋田美人はかくありなん、といった感じのキリッと美しい容姿で、ズバリと人の目を見て話をされます。「じゃ、はじめての方に説明するわね。ここでは炭火を使ってお豆腐や野菜、お魚などを田楽にしていきます。田楽と言うのは材料に味噌を塗って炙る料理法で、味噌はこちらにある3種類。柚子(ゆず)が入った柚子味噌、山椒(さんしょう)が入った山椒味噌、そしてこちらの、若い方々はプレーンなんて呼んでらっしゃるけど普通の味噌ね。最初は豆腐(1個600円)から焼きましょう。はじめての方はどの味噌がよろしい?」。フムフムと話をうかがっていたら、いきなり訪ねられて、「え? どうしましょう」と迷っていると、「では柚子味噌のものと、山椒味噌のものをお作りしますので、3人でわけて召し上がってみてください」。そう言うと串に刺さった豆腐2本に、それぞれ柚子味噌と山椒味噌をたっぷりと塗って囲炉裏の炭火の脇に突き刺します。なるほど。火の上で炙るんではなくて、火の横で、輻射熱だけで炙っていくんですね。

やわらかな火のある景色はなんだか心なごみますね。G.Aさんは「じっくりじっくりと作られる田楽を、ゆっくりゆっくりと飲みながら待つ。若いころはこの間(ま)がもてなかったんですよねぇ。飲みながら待ってるうちにすっかりできあがってしまうんです(笑)」。女将さんは味噌の焼け具合を見ながら、ときどき串を刺し直して豆腐の別の面を火に向けたり、串の角度を変えて火のあたり方を変えたりと、ゆるゆるといろんな話を聞かせてくれながら、目と手はいっときも田楽から離れません。

我われも最初のビールは飲み終わり、iiさんとG.Aさんは焼酎のお湯割りを、そして私は燗酒(500円)をいただきます。焼酎は、まず焼酎のみがグラスに入れられて登場し、それに茶の湯でもするように炉端に置かれた鉄瓶の中の湯が柄杓で注がれます。この光景もなかなか風情がありますねぇ。日本酒の燗もここでつけてくれるのか、と期待しながら待ってると、燗づけの終わった徳利が奥の厨房から出てきました。

ちなみに囲炉裏まわりは女将さんがひとりで切り盛りされており、奥の厨房で娘さんが働いておられるようです。iiさんなんて、その奥にしかいないはずの娘さんにも顔を覚えられているのですから、本当に大常連さんですよねぇ。

さて田楽。全体が焼けたっぽく見えたところで再び豆腐に味噌を塗って火の横に刺します。これが仕上げの味つけなんですね。この味噌も香ばしく焼けたところで完成です。

柚子味噌の豆腐と山椒味噌の豆腐をiiさんとG.Aさんがそれぞれ三等分にわけてくれます。焼きあがった状態で黒っぽくみえるのが柚子味噌、橙色っぽく見えるのが山椒味噌というのがおもしろいですねぇ。言葉だけから感じる色合いの逆ですよね。

どれどれと口に含むとこれがおいしいのです。言ってみれば味噌を塗って焼いただけの豆腐なのに、味噌の風味が口いっぱいに広がって、輻射熱(遠赤外線)だけで焼いたからか豆腐の中までほんわりとあったかい。うーん。すばらしいなぁ。

女将さんはニコニコとほほ笑みながら「あなたは驚いていらっしゃるけど、これが昔からの日本の調理法なんですよ。世界に誇れる日本の食文化です。」ときっぱり。どの世界もそうですが、自らのお仕事に自信をもって一所懸命に取り組まれている姿は感動的ですらあります。

続いて焼きあがったのは里芋(さといも、1串600円)。これも柚子味噌と山椒味噌で。里芋もまた中までホコホコで、これはまさに天然の電子レンジとでも言ったところでしょうか。すばらしいなぁ、囲炉裏での炭火焼き。

そして、まるで泳いでいるかのようにクネッと串に刺されて炭火の横に立てられたのは秋刀魚(さんま)です。これは普段のこの店にはないメニュー。年に1度くらい、常連さんたちが集まって「秋刀魚の日」というイベントを行う日にだけ食べられるものなのだそうです。それを今日は無理をお願いしてメニューに加えてもらったのだそうです。うーっ。ありがとうございます、iiさん。そしてスペシャルメニューに応じてくれてありがとうございます、女将さん。

ここ「でんがく屋」は鎌倉にあるだけに、炭火で焼く魚も名物のひとつ。魚の焼き方は2種類あって味噌を塗って焼く“魚田(ぎょでん)”と、今焼いてもらっている秋刀魚のような“塩焼き”です。秋刀魚はないものの、地元でとれる地魚など数種類が時価(1,500円より)で提供されるのです。

クルリと向きを返された秋刀魚の片面は実にいい焼き色です。なによりすごいのは秋刀魚を焼いているのに煙がひとつも出ないこと。「煙は脂が火の上に落ちるから出るのよ。こうやって焼くと脂は(頭を下にして刺されているので)口のところから下の灰のうえに落ちて、火には落ちないでしょう。だから囲炉裏は煙突のない家の中にあっても大丈夫なのよ。日本人の知恵ね」。うーむ。すばらしい。さすがに現代の密閉性の高い建物だと吸排気をきちんと考えないと一酸化炭素や二酸化炭素がこもってしまいそうですが、大昔から長年にわたって工夫されて成り立った調理法なんですね。

さぁ。秋刀魚ができあがりましたよ。カリッとした表面の皮を突き刺すとフワーッとあがる湯気。これはまた絶妙な焼き加減ではありませんか。こんなうまい秋刀魚は食べたことがない。んー、幸せ。あっという間にペロリと秋刀魚を平らげて、「あら、みんなきれいに食べたわね。」と女将さんに褒めらる3人でした。

ふと気がつくと店内は満席。こうなると、なにしろ一品一品を焼き上げるのに時間がかかることもあってなかなか回転はしないんですね。常連さんたちはお酒や焼酎を飲みながら豆腐+もう一品程度(茗荷や椎茸などの野菜が人気の様子)を食べて、すっと席を立つのですが、それでも軽く30分ほどはかかってしまうのです。今は炉端まわりだけが満席ですが、さらに多い場合は常連さんは後ろの小上がり席のところで待ってたりするのだそうです。

秋刀魚を食べ終わったところで第1弾として注文した一連の品物が終了。焼酎やお酒をおかわりし、中休みとしていただいた「香のもの」(700円)をつまみながら第2弾の注文です。第2弾はなんとレバー(650円)とハツ(650円)。iiさんも、G.Aさんも、そしてもちろん私自身もモツ好きなので、これは絶対にはずせない品々でしょう!

レバーとハツはそれぞれ鶏のもの。それらが串に刺されて炭火の横で炙られていく様子を見ながらいただく「香のもの」は胡瓜、茄子、茗荷、人参、山芋、大根(いぶりがっこ)の6種盛です。

炭火の横で炙ること約10分。レバーとハツができあがってきました。大きな串にびっしりと刺されたレバーやハツは、一般的な焼き鳥屋さんの串の2~3倍ほどはあるでしょうか。じっくりと焼く手間も考えるとこれが1串650円というのはそう高くないかもしれません。モツにおいても囲炉裏焼きの効果は絶大に発揮され、中まで熱が入ったミディアム状態に焼きあがり、レバーやハツのうまみを引き出しています。

続いていただいたマルイカ(地元ではメトイカと呼ぶらしい)も名物のひとつのようです。胴体の中にゲソがたっぷり詰まっていて、しかもそのゲソの1本1本にまできちんと火が通っているのはまさに炭火の輻射熱ならでは。うーん。すばらしい調理法ですね。

絶品は最後にいただいた鶏肉(650円)。表面の皮の部分のカリッと感が最高です。しかも、使い古された言葉ではありますが「それでいて中はジューシー」というのはこのことか、と改めて思い知る鶏肉のうまさです。

午後7時前まで約2時間半の囲炉裏端は3人で20,800円(ひとりあたり7千円弱)でした。どうもごちそうさま。やっとくることができた「でんがく屋」は、想像どおりのくつろぎ空間でした。冬場の鍋もおいしいそうですので、今度は鍋のシーズンにやってこなければいけないですね!

060930d1 060930d2 060930d3
のれん / ビールとお通し / 囲炉裏の様子

060930e1 060930e2 060930e3
豆腐の田楽 / 焼酎の湯割り / 猪口選び

060930f1 060930f2 060930f3
日本酒(燗) / 秋刀魚の支度 / 炉端の秋刀魚

060930g1 060930g2 060930g3
豆腐(柚子味噌) / 三等分していただく / 豆腐(山椒味噌)

060930h1 060930h2 060930h3
里芋(柚子味噌) / 里芋(山椒味噌) / 秋刀魚も焼けてきた

060930i1 060930i2 060930i3
秋刀魚(塩焼) / 食べ終わって骨だけ / 香のもの

060930j1 060930j2 060930j3
レバーとハツ / 鶏レバー / 鶏ハツ

060930k1 060930k2 060930k3
鶏ハツ1個のアップ / マルイカ / 中にたっぷりのゲソ

060930l1 060930l2 060930l3
マルイカのひと切れ / 鶏肉 / 囲炉裏全景

店情報 (同じときの「陸ボケ日記」9月30日分参照)

《平成18(2006)年9月30日(土)の記録》

|

« 店情報: 田楽料理「でんがく屋(でんがくや)」(鎌倉) | トップページ | 店情報: バー「ザ・バンク(THE BANK)」(鎌倉) »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/11427/12375826

この記事へのトラックバック一覧です: 日本独自の調理法 … 田楽料理「でんがく屋(でんがくや)」(鎌倉):

» 囲炉裏を囲んで(1) … 田楽「でんがく屋」(鎌倉) [居酒屋礼賛]
「囲炉裏を火をながめながら、ゆっくりと燗酒でも飲もうかなぁ」  そんな思いで、やってきたのは、鎌倉にある田楽料理の店、「でんがく屋」です。  店に着いたのは午後6時。白地に黒で「でんがく屋」と書かれた暖簾(のれん)をくぐり、開けっ放しの入口から店内に入ると、なんと先客は年配の男性ひとりだけ。  この店に来たのは、これで2度目。最初にきてから、途中でもう1度やってきたのですが、囲炉裏端10席、後ろ... [続きを読む]

受信: 2007.10.14 14:40

« 店情報: 田楽料理「でんがく屋(でんがくや)」(鎌倉) | トップページ | 店情報: バー「ザ・バンク(THE BANK)」(鎌倉) »