« 店情報: 小料理「長兵衛(ちょうべえ)」(鎌倉) | トップページ | 店情報: 小料理「野菊(のぎく)」(鎌倉) »

鎌倉文士の社交場!? … 小料理「長兵衛(ちょうべえ)」(鎌倉)

横須賀方面での仕事の後は、横須賀で飲んで帰ることが多かったのですが今日はちょっと趣向を変えて、横須賀線での帰り道に途中下車して鎌倉に立ち寄ってみることにしました。できれば「でんがく屋」に行ってみたいのですが、満席のことが多いと聞くこのお店、はたして空いてるでしょうか。

鎌倉駅に到着したのは午後5時半過ぎ。いそいそと「でんがく屋」に向かい、入口引き戸を開けてみると……。あぁ、やはり満席でしたか。奥のほうに2席ほど空きがあるのですが、それもどうやら予約席のよう。美人女将が「ごめんなさいね」と胸の前で両手を合わせてすまなそう。さすがに人気が高いですねぇ。平日(月曜日)の早い時間帯、年配の男性客が多いんじゃないかと思っていたのですが、店内は中年の女性客グループ(2~3人連れ)が二組ばかりいて、思ったよりも女性密度が高い。なるほどねぇ、酒場としてもさることながら、田楽料理を味わう食事処としても人気があるんですね。

「でんがく屋」が満席というのはある程度想定できたことなので、あらかじめ次善の候補店を選んで来ていたのです。その店は八幡宮参道から路地を入ったところにある居酒屋「長兵衛」。かつて久米正雄、大佛次郎、川端康成、小林秀雄、里見弴、永井龍男他の鎌倉文士が集ったというのがこのお店です。ひとりで書斎にこもっていることが多い文士たち。夜になるとこの店にやってきて友と酒を飲み交わしたんでしょうね。

私の前を歩いていた男女ふたり連れが吸い込まれるように「長兵衛」の店内へ。そのまま出てこないところを見ると、どうやら空席はあるようですね。ちょっと安心しつつ引き戸を開けます。

「いらっしゃいませ」と迎えてくれたのは左手カウンターの中にいる店主らしき男性。店はその奥さんらしき女性と、もうひとりは娘さんなんでしょうか、3人で切り盛りしているようです。店内は左手に「く」の字(左右は逆)型をしたカウンターで8~9人ほど座れそう。右手は小上がり席になっていて、2人用座卓が4卓と衝立(ついたて)がひとつ。これをうまく組み合わせて使うようです。今は奥側の2卓をくっつけて、4人組のグループが入っていて、その手前に衝立を置いて、こちら側の2卓との境界にしています。

そうそう。忘れてならないのが入口を入ってすぐ左側の壁にへばりつくように置いてある2人用のテーブル。左カウンターに8人、右小上がりに8人と入る中、この2人用テーブルだけがぽつんとインディペンデントな空間となっていて実に味がある。この席にとっても引かれたのですが、さすがにこの場所は店の中でも特殊な空間のような気がして、初回の今回はおとなしくカウンター席にしておくことにしました。

カウンター席は、左右逆の「く」の字の奥側に3人連れ、角を曲がって手前側に私の前に入ったカップルが座っています。私はその中間のちょうど「く」の字の角のところに座り、まずはやっぱりビール(サッポロ黒ラベル中瓶、580円)ですね。お通し(席料込みで550円)は、しらすの佃煮です。そうそう、しらすもこのあたりがいい漁場ですもんねぇ。

店の奥の壁にあるメニューには「生しらす」があることが書き出されています。先ほど入ったカップルはその生しらす(520円)を選択。小鉢に透明なしらすがこんもりと盛られ「お醤油をおとしてお召し上がりください」と出されます。

それじゃ私は「生しらす釜あげ」(520円)をもらいましょうか。先ほど同じように透明な生しらすをひと盛り、今度は小鉢ではなくて、取っ手付きの小さなこし網のような器に入れ、沸かしたお湯の中でそのまま茹でて、小鉢に盛って、おろし生姜を添えてくれます。透明だった体は白く変わり、ほんわかと湯気が立っているのがおいしそうですねぇ。

こうなるとやっぱり燗酒です。「菊正宗(440円)を燗でお願いします」

ほんのちょっと醤油をたらして、まずひとつまみいただく釜あげしらす。口の中にほのかな甘さが広がるところへ、追いかけるように燗酒。小魚の繊細なうまみと燗酒のなんと合うことよ。生しらすをそのままいただく鮮烈さももちろんいいのですが、こうやって釜あげにするとうまみ、甘みはより増してくる。もつ焼き屋さんでレバ刺しもおいしいけど、ちょい焼きにしてもらったレバもまたうまいのと似ているように思います。それにしても、お通しのしらすの佃煮もまた燗酒に合うなぁ。

私のとなりに入ってきた常連さんらしき男性は、生しらすの玉子焼き(750円)を注文。そうそう。メニューを見ててこれも気になったんですよね。玉子を溶いた中に生しらすも混ぜ込まれて、独特な形状をした玉子焼き専用フライパン(?)で仕上げられます。これまたふんわりと湯気がのぼっておいしそうですねぇ!

次に入ってきたのは女性ひとり客。カウンターの手前側、一番端っこに座って、これでカウンターは満席です。先ほどのカップルの女性に、私の奥側に座っている3人連れにも女性がひとりいますので、店内のお客さんは現在全12人中女性が3名。ちょうど四分の一というところですね。今入ってきた女性客は、ご夫婦の常連さんの奥さんらしく、ここでご主人と待ち合わせてるのだそうです。

中野の酒房「北国」も井伏鱒二をはじめとする文士が集ったと言われる酒場で、現在は地元の年配男性客や夫婦連れなどのお客さんが多いのですが、ここ「長兵衛」もそれと似たような空気を感じます。

燗酒(菊正宗、440円)をおかわりし、「ゆどうふ」(520円)を注文すると、小鍋でコトコトと湯豆腐を作ってくれます。カウンター内の厨房スペースがけっこう広いというのも、ゆったり感をかもし出しますね。

削り節、おろし生姜、刻みネギの入った小鉢が出され、鍋敷きがわりの丸皿の上にできあがった鍋が置かれます。小鍋の中にはシンプルに豆腐が4切れ。そのひと切れを小鉢にとって、さっと醤油を回しかけていただくとあったかいこと。冬は湯豆腐ですねぇ。

ガラリと引き戸が開いて入ってきたのは男性ひとり客。この人も常連さんのようで、私のとなりの男性客や、ご主人の到着を待ちながらビールを飲んでいる女性客とひと言ふた言、言葉を交わし、入口すぐ左手のインディペンデントな二人席に腰をおろします。そして注文したのはブリ刺身(1,050円)。

数種類ある刺身メニューはすべて千円を超える価格帯。どんなブリ刺しが出るのか興味津々で見ていると、立派なブリのサクを取り出してスィーッ、スィーッと気持ちよく薄切りに。んーーっ。ツヤツヤと輝いて見るからにおいしそうなブリですねぇ。そうかぁ。こうやって薄く切るとまたおいしそうだなぁ。厚切りは豪快だけど、けっこう脂っこかったりしますもんね。

「で、腕のほうは大丈夫なの?」と常連さん。「まだリハビリ中ってとこですかねぇ。でも、毎日包丁を握ってるから、イヤでもリハビリができてますよ」と答える店主。見れば利き腕に包帯が巻いてある。怪我でもされたのでしょうか。しかしリハビリ中と言いながら、あのブリ刺しが引けるとはすばらしい腕前ですねぇ。

湯豆腐の最後のひと切れをいただいて、1時間半ほどの滞在は3,050円でした。観光地・鎌倉にありながら、ここもまたゆっくりとくつろげそうなお店です。

061225a 061225b 061225c
「長兵衛」 / 生しらす釜あげとビール / ゆどうふと燗酒

店情報

《平成18(2006)年12月25日(月)の記録》

|

« 店情報: 小料理「長兵衛(ちょうべえ)」(鎌倉) | トップページ | 店情報: 小料理「野菊(のぎく)」(鎌倉) »

コメント

こんにちわ、お久しぶりです。今年もよろしく。

鎌倉へ行かれたとのこと。楽しかったでしょうね。
さて、『でんがくや』へ行かれたとのことですが、この店確かに看板に「でんがくや」の表記があるのですが、正確には『田楽(でんがく』が正式名称です。
30年近く前から利用していますので間違いありません。
当時絶世の美女と感じていた女将さんも、美しいことは間違いないのですが、かなりお年を召されました。
一見でも歓待してくれる素晴らしい店ですが、確かに早い時間から込み合うことが唯一の欠点で、もし訪問することが決まっていたなら予約してしまうことが間違いないでしょう。
一人だと居心地が悪いこともありますので、もう一人調達して予約して言ってみてください。
逆に『長兵衛』は一人の方が使いやすいでしょう。
私が通い続けていた頃は、典子さんという眼鏡が似合う女将が一人でカウンターに居りましたが、今のご主人はその弟さんです。

投稿: 徹っちゃん | 2007.02.04 18:47

徹っちゃんさんオススメの鎌倉の2店。どちらもさすがでした。
鎌倉や横浜は、観光地でもあるのに、地元の人たちに密着したような素晴らしいお店も多くておもしろいですねぇ。
どちらのお店も、またぜひ行ってみたいと思っています。

投稿: 浜田信郎 | 2007.03.04 21:01

ついに伺うことができました、鎌倉界隈

「長兵衛」に一人入り、さよりと日本酒(大七)を
楽しみつつ、お通しのセリのきんぴらと一緒に
楽しみました。

やはり一人美味しく食べるには限界があり、
胃を鍛えるか、同伴するかしないと食べたいものが
食べられません♪

「田楽」は火曜定休だったので
後日また改めないといけません

いちどご一緒していただきたいものです♪

投稿: ayayan | 2008.02.20 14:55

>ayayanさま
いいですねぇ、「長兵衛」。私もしばらく鎌倉に行っていないので、ぜひまた伺ってみたいです。
鎌倉ということでは、由比ガ浜の野生「まめ狸」というお店も気になっているところです。

投稿: hamada | 2008.02.24 19:53

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/11427/13743706

この記事へのトラックバック一覧です: 鎌倉文士の社交場!? … 小料理「長兵衛(ちょうべえ)」(鎌倉):

« 店情報: 小料理「長兵衛(ちょうべえ)」(鎌倉) | トップページ | 店情報: 小料理「野菊(のぎく)」(鎌倉) »