« 料理というより腑分け … 「奇天烈な店」(1/4) | トップページ | 2年寝かした魚の胆汁 … 「奇天烈な店」(3/4) »

塩でいただく本マグロ … 「奇天烈な店」(2/4)

「カレイの煮こごりです。ゼラチンを使わず煮汁だけで煮こごらせてますから、置いておくだけで溶けていきますよ」

4品目となる小皿の上には、茶色に透き通った煮こごりが2本並びます。箸でちょっと切り分けて口に含むと、チュルチュルと溶けて、口の中いっぱいに濃厚なカレイの味わいが広がります。んーーー、これはすごいっ。お酒、お酒。

この煮こごりは、最初から煮こごり用として繊細に作られていますが、昔の煮こごりの味って、これに近かったですよねぇ。夕飯で多めに炊いた煮魚の汁が、翌朝になると美しく煮こごっている。それを奪いあうように切り分けて、炊き立てのごはんにのせると、ごはんと接したあたりからどんどん溶けていく。全部が溶けてしまわないうちに、大急ぎでごはんをかっこんだものでした。

「マグロの皮の煮物です。ウロコを落とした皮を巻いて甘辛く煮たものです。はじめていらっしゃったので、いろいろとご説明していますが、そのうち説明しなくなりますからね」

あははは。この店のことが、フィクションとして描かれた『奇天烈な店』(村松友視・著)でも、常連客の源さんと鈴木さんが、親方(店主のこと)に黙って出された料理を前に「なんだろう?」と、やり取りするシーンが数多く描かれてますよね。

5品目のマグロの皮の煮物は、直径2~3センチ、高さ5ミリほどの円盤型のものが、小皿に2個。上から見るとロールケーキの断面のように、クルクルっと渦巻いている。なるほど、このねちっこい弾力感が皮らしいですね。

6品目は、これは一目でわかるノレソレです。ただし、その出され方がすごいっ。

黒く細長いミニまな板皿の上に、ノレソレの体長の半分くらいのクッキングホイルを敷いて、その上に頭を左にしたノレソレが、きれいに整列している。ちょうど身体のまん中あたりがクッキングホイルの上にのっているので、身体に薄く点々と付いている模様や、体内の骨の様子もよく見えます。それ以外の頭のほう、尻尾のほうは、黒いお皿の上にあるため、はかないほどの透明感がより増して感じます。すばらしい演出です。

ミニまな板皿の端っこには、小さな小さな醤油皿がのっていて、一味のよく効いた、ピリ辛のポン酢醤油が入っています。

1尾1尾、いとおしむように持ち上げては、ピリ辛ポン酢をつけてチュルリ。

このノレソレは三陸沖辺りでとれたものなんだそうです。季節とともに、ノレソレ(=アナゴの稚魚)の捕れる場所も、だんだん北上していくんでしょうか。

「はいどうぞ」とカウンター越しに、これまた頭を左にきれいに盛りつけられて出てきたのは白魚(7品目)。この白魚は厚岸(あっけし)産のものなんだそうです。
「厚岸のものじゃないと、ハラワタに苦味があったりしてダメなんですよ。味が濃厚でしょう」と、店主も満足げな笑顔です。

続いて2~3センチ角位の、とても小さい小皿で出されたのは、直径8ミリ、高さ1センチほどの小さい円筒形が2個。なんだ、これは!? そんな様子をニコニコと見ていた店主、ややあって、

「これは石鯛の腸に、同じ石鯛のレバーを詰めて焚(た)いたものなんですよ」

やぁ、そうですか。これも食べてみたかったもののひとつです。件の『奇天烈な店』では、穴子の胃と腸の煮物として、同様な円筒形が細長い皿にずらりと並んでいる様子が描かれているのです。

石鯛のレバーの腸詰煮(8品目)は、腸のしっかりとした弾力感の中に、レバーの濃厚な味わい。たまりませんねぇ。

9品目は、これも見た目でわかるマグロの刺身。本マグロの中トロらしいのですが、なんと「塩がのってますからそのままで」と店主。言われるままに、脂のたっぷりとのったマグロの刺身を、そのまま何もつけずに口に運ぶと、なるほど確かに、いい塩味がついています。鼻の奥からはフワリと漂うニンニクの風味。なるほど、とろけるようなマグロは醤油より、このニンニク塩でいただくほうが合うなぁ。

塩が効きすぎているでもなく、足りないでもなく。まさにこの刺身を食べるための絶妙なる味加減なのです。

分厚く切られた、すごく脂ののったマグロなのに、1枚、また1枚と、気がついてみると、あっという間に6切れほどの刺身を食べ終えてました。

マグロ刺身を食べている途中に入ってきたのは4人組み。両親と、そのお子さんふたりといった構成ですが、お子さんふたりも大人で、いっしょにお酒を飲み始めます。もしかすると、お子さんふたりではなくて、息子さん夫婦、あるいは娘さん夫婦なのかもしれませんね。いかにも常連さんらしく、店主やおかみさんと親しそうに会話を交わしながら、まず出された何品かを食べはじめます。

ここまでガガガッと連続的に食べ進んできたのですが、この常連ご家族が入ってきて、ふとまわりを見る余裕ができたところで「待てよ」と、ある不安が心をよぎりはじめます。

そう。お勘定のことです。さっきの本マグロの刺身ももちろんそうですが、これまでいただいた内臓や皮だって、それだけ単品で市場で売っているわけではない。あれだけしっかりとした内臓や皮を手に入れるためには、かなり質のいい、鮮度の高い魚を仕入れる必要がある。そのことは、目の前のネタケースに並んだ魚介類を見てもわかります。

なにしろ、店内にはメニューも何もいっさいないので、どの程度のお勘定になるのかの皮算用もできません。

他では食べられないような、珍しい逸品がいただけるのだから、それなりに値も張るに違いないと、今日は財布の中に3~4万円ほど入れてきているのですが、もしかすると、それでは足りないかも。クレジットカードも使えそうにないしなぁ。まぁいいか。いざとなったら「ごめん」と断って、近くのコンビニATMに走りますか。

ということで、魚の肝ならぬ、私自身の肝も据わったところで、「お酒のおかわりをお願いしまーす!」

つづく) / [→第1話に飛ぶ

《平成19(2007)年5月4日(金)の記録》

|

« 料理というより腑分け … 「奇天烈な店」(1/4) | トップページ | 2年寝かした魚の胆汁 … 「奇天烈な店」(3/4) »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/11427/15219117

この記事へのトラックバック一覧です: 塩でいただく本マグロ … 「奇天烈な店」(2/4):

« 料理というより腑分け … 「奇天烈な店」(1/4) | トップページ | 2年寝かした魚の胆汁 … 「奇天烈な店」(3/4) »