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年中変わらぬ25種類 … おでん「丸太ごうし(まるたごうし)」(浅草)

吉田類さんの最新刊『酒場のオキテ―「酒通」の「粋」がわかる本』(青春文庫、580円)。全国の酒場を描いた、5章立てのこの本の、第1章全体が「大衆酒場の作法~浅草の老舗回廊」ということで、浅草の店々を紹介しているほど、この町が東京の下町を代表する町のひとつであることは、疑う余地もありません。

久しぶりに、その浅草で飲もうと、都内での仕事を終えたあと、地下鉄で浅草までやって来ました。折りしも、浅草は明日から三社祭とあって、すでに祭のムード満点です。

070517z3まず向かったのは、しばらくぶりとなる「松風」。喉潤しのためのビールはあるものの、基本的に日本酒の店。店主自らが、お燗番として、カウンター内の燗付け場で絶妙な温度に燗をつけてくれるのですが、お酒は徳利3本限りと、とてもストイックな店なのです。

ところが、店に着いてみると、入口に「お知らせ」と書かれた張り紙がある。

「当店は、松風会々員及び事前予約のお客様に限りご利用になれます。手不足の為とはいえ皆様にはご迷惑を掛け申し訳ございません。約1年後の閉店を前にしたお馴染み様へのサービスとお考え下さい。平成19年5月 松風店主」

なんと! 名店の誉れ高いこの店まで、あと1年ほどで閉店してしまうんですねぇ。うーむ。松風会の会員でもないし、予約もしていないので、今日は入れそうにありません。残念ながら、次のお店へと向かうことにしましょう。

ここから再び地下鉄浅草駅方面に戻り、馬道を北上したところにあるのが、大正15(1926)年創業という、おでんの老舗「丸太ごうし」です。店の前の張り紙には「伝統の味・昔おでん・東京の味」と書き出されています。

店内は入口すぐ右手に、おでん鍋があって、直線のカウンター6~7席分。左手には4人掛けのテーブル席が縦に5つほど並んでいます。奥に座敷席もある模様。

午後6時前の店内は先客はなく、店主らしい親父さんに「いらっしゃいませ」と迎えられて、カウンター席に腰をおろします。その親父さんの声に呼応するように、店の奥から「いらっしゃいませ」と出てきたのは、奥さんと娘さんらしい女性ふたり。店は、この3人で切り盛りしているようです。

まず瓶ビールをお願いすると、「アサヒとキリン、どちらにしましょう?」と親父さん。ここは浅草、川の向こうにはアサヒビールタワーがある土地なので、アサヒをいただきましょう。ビールは、アサヒもキリンも、大瓶が600円です。

クィ~ッと最初の1杯を飲み干して、おでん選び。他のお客さんもいないので、おでん鍋の前に立って、やりいか、焼とうふ、ちくわぶの3品をお皿に取り分けてもらいます。

おでん鍋からはカツオ節と醤油のおいしそうな香りが立ち上っていますが、お皿に取り分けられたおでんは、思ったより淡い色合いで、味も濃くありません。

胴の中にゲソも詰め込んで煮込まれたヤリイカは、食べやすいように、お皿に取ってから三つくらいに切り分けてくれています。冬から春先にかけてが旬のヤリイカながら、この時期にいただいてもおいしいですねぇ。

「うちは年中ネタを変えないんだ」と店主。おでんは季節を問わず、お決まりの25種類を用意しているのだそうです。
「そのかわり、季節ごとの料理を出してるからね」

壁に張り出されたメニューを見ると、能登のモズク(300円)や空豆(300円)、ワカメ/ウドのヌタ(400円)といった季節の小料理のほか、たこぶつ(500円)、帆立貝刺身(500円)、若あゆ塩焼(500円)、やりいか刺身(500円)、天然いなだ刺(500円)、あじ刺身/たたき(550円)、かつお刺身/たたき(550円)、天然・鯛刺身(600円)といった季節の刺身類も、お手ごろ価格で並んでいます。

おでんの25種類は、こんぶ、たまご、揚ぼうる、ごぼう巻、げそ巻、うずら巻、しゅうまい巻、焼ちくわ、つみれ、すじ、はんぺん、ほたて貝、ばい貝、たこ、やりいか、ちくわぶ、しらたき、がんもどき、焼とうふ、こんにゃく、じゃがいも、里いも、大根、キャベツ巻、ふくろで、一品が100円から500円くらいなんだとか。

そんな中から、第2弾はハンペン、キャベツ巻、里芋の3品をもらうと、「これはおまけね」と、おかみさんが昆布をひとつ添えてくれます。

さぁ、それじゃ、飲み物も日本酒にしますかね。

冷酒・賀茂鶴(300ml瓶、850円)、生酒・司牡丹(300ml瓶、850円)、樽酒・賀茂鶴(徳利、650円)、元祖・剣菱(徳利、450円)、純米・白雪(徳利、450円)、土佐・司牡丹(徳利、450円)と並ぶ中から、樽酒の賀茂鶴を燗でお願いすると、おでん鍋の横で、ぬる燗に仕上げてくれます。

おでん鍋の上のフードには、「いつも春 丸太ごうしの 酒の酔」という、サトウハチローが昭和5年に作ったという句が張り出されている。大正15年創業ということは、今年で創業来81年ですもんねぇ。戦争の時期も間にはさんで、すばらしい歴史です。

そこへ入ってきたのは、男女3人連れ。
「何年かぶりに来たんだけど、ちっとも変わってないなぁ。安心したよ」と言いながら、テーブル席のひとつに座る男性。連れの若い女性二人は、はじめて来たようです。
「まずビールをもらって、料理はおでんも含めて、おまかせでお願いします」と男性。

その注文を受けて、親父さんから、娘さんには「おでんの盛り合せね」と、そしておかみさんには「豆を出してあげて」と指示が飛びます。

さっそく土鍋を用意して、おでん鍋から具を取り分ける娘さん。おかみさんは生の空豆をゆでる準備をはじめています。ほほぉ。ここの空豆(300円)は、ゆで立てを出してくれるんですね。
「すみません。私も空豆をお願いします」と、さっそく便乗注文です。この空豆は四国産。もうすぐ空豆の季節も終わって、枝豆にバトンタッチされるんだそうです。

両親の手伝いをする娘さんは、20代前半のメガネ美人。仕事が一段落すると、大きなマグカップを両手で包むように持って、お茶を飲みながら、ニコニコと話し相手をしてくれます。
「この間、調理師免許を一発で合格したんですよ!」とうれしそう。

若い後継ぎができて、この店もこの先さらに50年ほどは安心ですね。さっき、「松風」の閉店情報を見たばかりなので、こうやってお店が継続していくことの重要さを改めて感じます。

「こんばんは」と入ってきた男性ひとり客は、かなり常連さんのようで、スッとおでん鍋の前あたりに陣取ると、チラッとメニューに目をやって「カツオの刺身(550円)をもらおうか」と一言。おかみさんが「ビールでいいの?」と聞くと「うん」と答えながら、目はスポーツ新聞へ。

カウンター内の厨房では、大きなカツオが1本登場し、娘さんがまな板に向かいます。おいおい。大丈夫かよ。人ごとながら、大きなカツオに対して、あまりにも華奢な身体に、ちょっと心配したのですが、これはまったく無用でした。さっきまでニコニコしていた顔が、一転して真剣な表情になり、カツオの頭の後ろのところにザクッと大きな包丁を入れると、お腹の内臓と共に、頭がスッと胴体から離れます。ザッ、ザッ、ザッと半身をおろし、後はスィーッ、スィーツと刺身に引いていきます。ホホォ、と見とれるうちにカツオの刺身のできあがり。うまいもんですねぇ。横で見ている親父さんも、すごくうれしそう。

「おとうさんは、一発で合格しなかったんだから!」とふざける様子は、もう若い娘の表情に戻っています。

カツオの解体ショー(?)も終わったところで、賀茂鶴の燗酒をおかわりして、つまみには自家製のお新香(300円)を注文すると、出されたのはウリ、ナス、カブ、キュウリ、大根、ニンジンの6品盛り。これはこれは。お酒にもぴったりですねぇ。

それにしても、営業時間が午後9時半までというのは、早過ぎないですか?

「先代が、『そのくらいには飲み終わって、後は自分の家で飲むもんだ』と言いましてね。ずっとこの時間に終わってるんですよ」

ふーん。そうなんだ。じゃ、私もそろそろ腰を上げますか。

1時間半の滞在はビール大瓶1、燗酒(樽酒)2本に、おでんが6品、小料理2品で、3,700円でした。ということは、おでんは6品で1,200円、1品あたり平均200円だったんですね。観光地・浅草なのに安いなぁ。

「どうもごちそうさま」と席を立つと、
「ありがとうございます。またいらしてください」と気持ちのいい笑顔で見送ってくれます。

明日から三社祭で、このあたりもにぎやかになるんだろうなぁ。

070517a 070517b 070517c
ヤリイカ、焼き豆腐、ちくわぶ / ハンペン、キャベツ巻、里芋におまけの昆布 / 空豆

070517d 070517e 070517f
樽酒・賀茂鶴を燗で / サトウハチローの句 / 自家製のお新香

店情報

《平成19(2007)年5月17日(木)の記録》

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コメント

  のっけからべらんそえでご無礼いたしやす。べらんめえのブログを書いておりやす喜三二ッて名乗りのけちなぢゞいでごぜえやす。
 丸太ごうしッて見世はどんなとこだいト気になっておりやしたもんで。こちらさまのお文ィ読ませてもらいやしてよく分かりやした。あっしもぜひ訪ねてへと思いやす。お礼申しやす。ではごめんなすって。

 喜三二

投稿: 喜三二 | 2008.05.21 09:07

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