メニューにはない品々 … 豚料理「味珍(まいちん)」(横浜)

どの酒場もそうですが、常連さんになればなるほど、いろいろとワガママもきくようになるし、他の人は食べられないようなものを、ちょいと出してもらったりもできるようになるもの。
「今日は味珍(まいちん)で飲む予定です」
というメールをいただいた、濱の酒場通・iiさんも、「味珍」では「大」の字が5つも6つも付きそうなほどの大常連さん。その大常連さんぶりは、常連さんぞろいで知られる「味珍」の本店2階でも、他の常連さんたち全員が、やって来たとき、帰るときに、店長とともにiiさんにも挨拶するほどなのです。(もっとも、iiさんの場合、「味珍」に限らず、そういう大常連のお店が数多いのです。)
店に到着してみると、すでにiiさんをはじめとする、5人ほどの飲み仲間が、本店2階の片隅に1卓だけある、小さなテーブル席(本来は4人程度用)を囲んでいるところ。さすがにここには入れそうにないので、カウンターの一番テーブル席寄りの端っこにでも座ろうかとしていると、
「大丈夫。まだ入れるから!」
とiiさん。カウンター席の椅子を持っていって、ギュッと詰めると、こんな小さいスペースに6人が座れちゃいました。ここに6人座ること自体、すでに大常連さんならではの技なり。
まずは、かけつけで瓶ビール(キリンラガー中瓶、500円)をもらって乾杯。他のみなさんは、すでにヤカン(焼酎のこと、350円)に進んでいます。
小皿に練り辛子と酢、そしてラー油を溶いたら、すでにテーブルの上にずらりと並んでいる豚の胃、耳、尾、舌(各700円)や、中国風の白菜漬物、辣白菜(ラーパーツァイ、300円)をいただきます。大勢で来ると、いろんなものが食べられるのがいいんですよね。
こういう普通のものの中にも、常連さんならではという品物が混ざっているのです。それは舌(タン)。この店で、普通にタンをたのむと、薄くスライスしたタンが出されるのですが、目の前にあるタンは、小さく立方体状にカットされたもの。この切り方自体は、それほど常連さん度が高くなくても、「タンをぶつ切りでお願いします」と注文すれば、やってもらえるのだそうです。
今回は、そのタンのぶつ切りを、腐乳(ふにゅう、150円)をお酢で溶いたタレでいただいているのです。iiさんたち、常連さんは「石井バージョンでね」と注文されるのですが、これは、もともと石井さんという常連さんが開発(?)したタレだから、そう呼ぶようです。
これだけは、なかなか真似できません。というのも、石井さんご自身が、この店の大常連さんであり、お店にもしょっちゅういらしているからです。ご本人がいるのも気づかないような状態では、「石井バージョンで!」と注文するわけにはいきませんもんねぇ。
「味珍」の豚は、独自の醤油ベースのタレで長時間煮ることで、香辛料を使うことなく内臓肉独特のクセを取っているのが特徴なのですが、その分、味わいも比較的あっさり目。石井バージョンのタレでは、これに腐乳ならではのコクが加わって、味わいが深くなるのです。
「頭(カシラ)のぶつ切りもおいしいんですよね」
と、カシラ(700円)も、ぶつ切りで追加注文。これも通常はスライスで出されるものを、ぶつ切りにして出してくれます。
「ここの牛もつ煮込み(550円)は食べたことありますか?」
と、iiさん。
「いや。前に牛すじ(450円)はいただいたんですけど、煮込みは、まだ食べたことがないんですよ」
「そりゃ、ぜひ食べたほうがいいですよ。えーと、煮込みをひとつと、今日はインチキ煮込みはできるの? できれば豚足2つと尻尾1つで!」
と、さっそく注文してくれるiiさん。煮込みは、1階にある大鍋で煮込まれているそうなのですが、そこから小鉢に盛られた1人前の煮込みと、インチキ煮込みを作るための小鍋いっぱいの煮込み汁が届けられます。
牛もつ煮込みは、牛のシマチョウあたりをじっくりと煮込んだもので、大きめに切られた豆腐もいくつか入っています。味はけっこう濃い目ですが、汁まで完飲できるくらいの濃さ。ヤカン(350円)にもよく合います。
そして出されたインチキ煮込みは、先ほどの小鍋いっぱいの煮込み汁で、カットした豚足や尻尾を煮込んだもの。もともとが醤油ベースでじっくり煮込んだものを、冷ましていただく、この店の豚足や尻尾。煮込み汁に入れてさっと煮るだけで、よく煮込まれたあとの、トロトロの状態になってしまうんですね。やぁ、これは表メニューであるとうれしい一品です。特に豚足が、驚くほどうまいっ。
このインチキ煮込みは、店の忙しさなどによってもできたり、できなかったりすることがあるのだそうで、iiさんほどの大常連さんでも、いつでも食べられるとは限らない一品のようです。
「馬刺し(800円)や皮蛋(ピータン、300円)も食べてみたいな」という声に、
「馬刺しと、ピータンはサラダと盛り合わせてもらえる?」
と注文をするiiさん。そのままピータンをもらうよりも、くらげサラダ(350円)と一緒に盛り合わせてもらうのがオススメなのだそうです。
なるほどなぁ。おいしく飲み食いするためには、こうやって店にあるいくつかのメニューを組み合せてみたりする工夫も必要なんですね。
そういえば、うちの近所の「やき屋」でも、冷奴にイカ塩辛を載せて食べたり、珍味わた和えのタレにイカ刺身を絡めて食べたりと、常連さんたちはいろんな工夫をされてますもんね。
そうやって工夫した品物が、先ほどの「石井バージョン」のように、その開拓者の名を冠して呼ばれるようになれば、常連冥利に尽きると言うものです。
たっぷりと飲んで、食べて、3時間近く過ごしても、ひとりあたり2千円程度ずつというお勘定。人数が多ければ多いほど、いろんなものが安価に楽しめるお店です。
大勢で来る場合は、向かい側にある新店2階が、「味珍」4店舗の中で一番大きい(テーブル席が多い)お店ですので、そちらを目指すといいかもしれません。
ただし、この店に限らず言えることですが、常連さんが開拓されたメニューの数々は、常連さんと一緒のときか、何度も通って自分も常連さんになってから注文したほうがいいと思います。
さて、横浜。これだけの人数が集まって、「味珍」だけでおとなしく終わるはずもなく、このあとさらに石川町の「車橋もつ肉店」から、野毛の「福田フライ」へとハシゴして、木曜日とは思えないほど、たっぷりと飲んだのでした。
一部のメンバーは、「福田フライ」を出たあとも、さらにどっかに向かっていたような……。(爆)

ピータン&くらげサラダ / 「車橋もつ肉店」 / 「福田フライ」
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