« 店情報: 酒亭「伊勢藤(いせとう)」(神楽坂) | トップページ | 3週目のクリーム帆立 … 酒亭「善知鳥(うとう)」(阿佐ヶ谷) »

これぞまさに古典酒場 … 酒亭「伊勢藤(いせとう)」(神楽坂)

カウンターで燗酒


 都内での仕事を終えて、やって来たのは神楽坂の「伊勢藤」です。縄のれんをくぐり、右手の木戸を押して店内へと入ると、木曜・午後6時前の店内にはカウンター席に3人ほど、奥の座敷席に2組ほどと、比較的静かな状態。私もカウンターのまん中あたりに座ります。

「お燗でよろしいですか?」

 カウンター内の囲炉裏前に座る、作務衣(さむえ)姿の店主から声がかかります。この店の飲み物は「白鷹」の上撰(525円)、ただ1品のみ。選べるのは燗をつけて飲むか、冷や(常温)で飲むかということくらいなのです。

「はい。燗をつけてください」

 注文するのはこれだけ。肴(さかな)は、黙っていても日替りの1汁4菜(いちじゅうよんさい、1,575円)が出されます。まずはこれをいただいてから、足りなければ別に用意されている、豆腐、納豆、くさや、たたみいわし、皮はぎ、丸干、えいひれ、明太子、いなご、いかの黒造り、味噌田楽などのつまみ(各420円)を追加すればいいのです。

 今日の1汁4菜は、なまこのゴマ和え、玉ねぎ酢漬け、ホタルイカと野菜の煮物、煮豆(枝豆)、そして豆腐の味噌汁。この1汁4菜だけで、3~4本のお酒は十分に飲めると思います。3本目からは、お酒をおかわりするごとに、ちょっとした肴が1品ずつ出されるので、追加のつまみは、どうしてもそれが食べたい場合にのみ注文するといった感じですね。

 ここ「伊勢藤」は酔っ払うのは御法度。静かに酒を肴を味わう酒亭なのです。だから、酔って声が高くなっているお客さんには「お静かにお願いします」と声がかかります。かといって、決して堅苦しい店ではなくて、静かなおしゃべりであれば、いくらでも大丈夫。今日は、店主にいろいろなお話を伺いながら飲み進みます。

 現在の店主は、おじいさん(初代)、おとうさん(二代目)の後を継ぐ三代目。とはいえ、二代目のときから店で手伝いをされていたので、この店で働いてすでに20年になるというベテラン店主です。

店の奥には白鷹の樽 店は昭和12(1937)年の創業。ただし、戦時中に神楽坂一帯は焼け野原になってしまったため、現在の建物は昭和23(1948)年に建て直したものなんだそうです。したがって、店は創業71年、建物も築60年になるという老舗酒場なのです。

 そんな話を聞かせてくれながらも、囲炉裏の前での正座姿を崩さない店主。営業時間中はずっとこの姿勢なんだそうです。すごいですねぇ!

「最初のころは20分ほどしか、もたなかったんですよ。何年もやってるうちに、だんだんと慣れてきました」と店主。

 それにしても、冷房のない店内で、真夏でもこの作務衣姿で囲炉裏の前にいるのは大変なんじゃないですか?

「これも慣れなんですよ。昔は薄い作務衣を着てみたりもしたんですが、薄いのだと汗が目立ってダメなんですね。裸になったとしても暑いんだから、それなら普通の作務衣にしようと、夏でも同じ格好でいるようにしたんです。開けっ放しにした窓から、ときどきスッと風が通るのが、本当に気持ちがいいんですよ」

 店主は、店が休みの日(土日祝)には、自らも燗酒のおいしいお店にも出かけるほどの日本酒好き。3本目となる燗酒をおかわりすると、厚手の錫製のチロリでじっくりと燗をつけてくれます。

「カウンターのお客さん、一のかわりです」

 と奥の厨房に伝える店主。「一(いち)のかわり」というのは「3本目です」ということで、厨房からは「一のかわり」用のつまみである浜納豆が出されます。量的には小鉢に数粒程度のちょっとしたものなのですが、塩気が強くていいつまみになります。

 店主の話では「三のかわり」(5本目)で空豆が出されて終了らしいのですが、中にはもっと飲む人もいて、その場合は「四のかわり」(6本目)では梅干しが出されるんだそうです。

「10本くらい飲んだ常連さんもいらっしゃいましたねぇ」

 と店主。ただし、前述のとおり『酔っ払うのは御法度』のお店ですので、何本まで飲ましてもらえるかは、その人の酔い方次第。酔っていると判断されたら、本数は少なくても、もう飲ましてはもらえません。5本を過ぎても飲ましてもらえるのは、酔い方がある程度わかっている常連さんに限られるようです。

 昔ながらの酒場空間で、3本の燗酒をいただきながら、2時間ほどゆっくりとさせてもらい、今日のお勘定は3,150円でした。どうもごちそうさま。

店情報前回

《平成20(2008)年4月24日(木)の記録》

|

« 店情報: 酒亭「伊勢藤(いせとう)」(神楽坂) | トップページ | 3週目のクリーム帆立 … 酒亭「善知鳥(うとう)」(阿佐ヶ谷) »

コメント

伊勢藤には相当長く通っていますが、「一のおかわり」等々の意味は全く知りませんでした。
空豆はよく頂いていましたが、そういえば梅干しも出たことがあるかも知れません。その意味が今初めて分かりました。
ありがとうございました。

このようなお店が続いていること、それが地域の力なのだと思います。お店の方達のご努力があってこそ、であることは云うまでもありませんが。

投稿: べちゃ | 2008.09.01 09:19

べちゃさん

 私自身は、「二のかわり」くらいまでしか飲んだことがなくて、梅干は食べたことがありません。

 もう少しすると、また燗酒が一段とおいしい季節がやってきますね!

投稿: 浜田信郎 | 2008.09.07 20:59

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/11427/41303404

この記事へのトラックバック一覧です: これぞまさに古典酒場 … 酒亭「伊勢藤(いせとう)」(神楽坂):

» 酒道を感じる老舗酒場 … 「伊勢藤(いせとう)」(飯田橋) [居酒屋礼賛]
 『酒道(しゅどう)』というものがあるのならば、それがもっともしっくりとくる店は、ここ「伊勢藤」だろうなあ。  茶道や華道、柔道や剣道など、いろんな『道』があるけれど、この『道』というのは、日本の文化や伝統、習慣などを、形としてきっちりと表して、時代を超えて脈々と伝えていく方法と言えるでしょう。  この店には「白鷹」の燗酒(525円)しかない。どうしても燗酒が嫌いという人には、常温で出してくれます... [続きを読む]

受信: 2013.10.17 21:15

« 店情報: 酒亭「伊勢藤(いせとう)」(神楽坂) | トップページ | 3週目のクリーム帆立 … 酒亭「善知鳥(うとう)」(阿佐ヶ谷) »