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くさやをつまみに菊正宗 … 通人の酒席「ふくべ」(日本橋)

「ふくべ」の店主


 都内での仕事を終えて、やってきたのは東京駅八重洲口にある老舗酒場、「ふくべ」です。

 昭和14(1939)年に、酒屋から居酒屋に転身した「ふくべ」は、昔から全国各地の日本酒が飲めることで有名。「取扱銘酒一覧表」と書かれた飲み物メニューには、白雪(灘、甘)、白鶴(灘、普通)、大関(灘、普通)、剣菱(灘、中辛)、菊正宗(灘、辛)、桜正宗(灘、中辛)、白鷹(灘、辛)、榮川(福島、中辛)、一ノ倉(宮城、辛)、桃川(青森、中辛)、新政(秋田、辛)、久保田(新潟、辛)、朝日山(新潟、辛)、太平山(秋田、中辛)、菊姫(石川、辛)、越の誉(新潟、中辛)、男山(北海道、辛)、沢の井(東京、辛)、西の関(大分、普通)、窓の梅(佐賀、中辛)、美少年(熊本、中辛)、五橋(山口、中辛)、浦が霞(宮城、辛)、高清水(秋田、中辛)、住吉(山形、辛)、樽平(山形、辛)、初孫(山形、中辛)、鬼ころし(岐阜、辛)、吉乃川(新潟、辛)、酔心(広島、中辛)、千福(広島、甘)、賀茂泉(広島、中辛)、賀茂鶴(広島、中辛)、豊の秋(島根、辛)、梅錦(愛媛、中辛)、土佐鶴(高知、辛)、司牡丹(高知、中辛)、眞澄(長野、中辛)、月の桂(京都、中辛)、銀盤(富山、辛)の40銘柄(名称はすべて表記のまま)が並びます。値段は明示されていませんが、それぞれ1合が500~600円(外税)のようです。

 私の好みは、カウンターの最奥部にデンと据えられた「菊正宗」の樽酒(おそらく550円+税)。燗でお願いすると、「ふくべ」と店名の入った白磁の徳利の上に、漏斗(じょうご)と一合升がセットされ、樽の栓が抜かれます。

 トック、トック、トック、と樽酒が出てきて、一合升いっぱいになったところで、キュッと栓を締め、一合升をくるりとひっくり返して徳利の中へ。この徳利のまま、カウンター内の燗付け器で燗をつけてくれます。

 「ふくべ」の店内は、1階の入口を入ったところから奥に伸びるカウンター12席と、そのカウンターの手前から、右手の別の間に入ったところにある4人×4卓、2人×1卓のテーブル席の合わせて30席。それとは別に2階に10席ほどの座敷もある様子です。

 席に座るとすぐに、木の盆にのせられた割り箸、お猪口、そしてお通し(サービス)の昆布の佃煮のセットが出され、燗をつけ終わった徳利も、この上に出してくれます。

 その燗酒を、手酌でお猪口に注いで、まず1杯。

 ッカァ~~ッ。うまいっ。

 ここの「菊正宗」の樽酒は、2週間で空いてしまうほど回転がいいので、樽の香りが強く付きすぎないのが特徴。そのやわらかい樽の香りが、燗をつけることでふわりと立ちのぼって、実にいい味わいです。

 空いた樽が欲しい人は、送料1,850円を出せば送ってくれるそうですよ!

 料理の「お品書き」にも値段は表記されておらず、並んでいるのは、おでん、あじ干物、かます干物、いか焼き、玉子焼き、たらこ、はんぺん焼き、くさや、さつま揚げ、たたみ鰯、うるめ鰯、エイヒレ、板わさ、生揚げ、しらすおろし、ぬた、わかめの酢のもの、きんぴら、しめ鯖、塩辛、塩らっきょう、やまかけ、月見、とろろいも、冷奴、納豆スペシャル、マグロ納豆、いか納豆、玉子入納豆、納豆、刺身3点盛り(鮪、イカ、タコ)、鮪ぶつ、たこ刺し、いか刺し、トマト玉子付サラダ、もろきゅう、わかめ、おしんこ、鮭ほぐしご飯、おにぎり2個、お茶漬3種類(たらこ、梅、海苔)、わかめのお吸い物の42品目。この他に季節のメニューが1~2種類、張り紙で出されます。今日は「秋刀魚あります」という張り紙。

 秋刀魚(さんま)にも引かれますが、この店に来ると、いつも注文するのが“くさや”(おそらく550円+税)です。

 くさやは、伊豆諸島で作られる魚の干物。独特の臭みを持つくさや汁に浸けてから干すので、できた干物もくさやならではの臭みを伴っています。これを厨房で炙り始めると、プ~ンと漂ってくるくさや臭。嫌いな人にはイヤな臭いでしょうが、くさや好きにとっては、この匂いをかぐだけで思わずジュワっと唾液が出てくるほど、旨味を連想させる香りなのです。

 このくさや汁。もともとはただの塩水だったらしいのですが、当時は貴重品だった塩を使いまわしするため、同じ塩水をずっと使っているうちに魚の成分が溶け出したものが発酵し、独特のくさや汁になっていったようです。最初に食べた人は勇気がいったでしょうね。

くさや 炙ったあと、食べやすいようにほぐして出してくれるくさや。一切れ口に含み、よ~く噛むと、どんどん、どんどん旨味があふれてきます。そして鼻腔の奥からは、くさやの香りが流れ込んできます。身体の中で、この旨みと臭みが一度リンクされてしまうと、次からは香りを嗅ぐだけで、旨みが連想できるようになるんですね。

 くさや一切れで、燗酒がぐいぐいといけるので、すぐに「菊正宗」樽酒(燗)もおかわりです。

 店内は昭和39(1964)年の東京オリンピックの年に改装したあとは、そのまま今に至っているんだそうで、ヒノキの一枚板のカウンターもそのときのもの。お客のひじで毎日磨かれて美しく保たれています。「カンナをかければ真白になるんだけど、今の風合いを大事にしたいんですよ」と店主が話してくれます。

 今日はくさやだけで燗酒を2本いただいて、1時間ほどの滞在。お勘定は1,730円でした。どうもごちそうさま。

店情報前回

《平成21(2009)年9月28日(月)の記録》

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 週半ばの横浜出張を終えて、木曜日の午後には単身赴任先の呉に帰着。夜は中通りの「五鉄」で、小鍋立ての軍鶏鍋(しゃもなべ)をつつきながら燗酒です。  「五鉄」と言えば、池波正太郎の時代小説の中によく登場する軍鶏鍋屋。この店は、池波正太郎ファンの店主・蒲原明(かんばら・あきら)さんが、その「五鉄」の名前を借りて、平成16(2004)年9月にオープンした酒場なのです。  「五鉄」については、また後日(近... [続きを読む]

受信: 2011.11.29 18:55

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