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〔コラム〕「武蔵屋」のおばちゃん、95歳のお誕生日会

おばちゃんと一緒に


 野毛「武蔵屋」の「おばちゃん」こと、木村喜久代(きむら・きくよ)さんが、95歳のお誕生日を迎えられました。

 今日は、「武蔵屋」の常連客でもあり、舞台で「野毛武蔵屋~三杯屋の奇跡~」も演じられた、女優・五大路子(ごだい・みちこ)さんが音頭を取ってくださって、かつての常連客のみなさんが集まり、横浜中華街でお祝いの会が開かれました。

 当然のことながら、居酒屋探訪家・太田和彦さんも出席されています。

 私自身、「武蔵屋」のことを初めて知ったのは、太田さんの著書「居酒屋の流儀」(1998年、講談社。2003年に「超・居酒屋入門」と改題して、新潮社で文庫本化)でした。

『横浜野毛、山手やまのての住宅地にぽつりと立つ古い一軒の仕舞屋しもたやは看板もなくおよそ居酒屋とはわからないが、5時から9時までの短い営業時間に、中高年の常連客がやってくる。その「武蔵屋」を通称「三杯屋」と言うのはここは酒はコップ3杯までと決まっているからだ。ビールは何本でもよいけれど、酒を終えてからの注文は御法度だ。ここには肴の品書きはなく、客の飲む様子をみて、おから、玉葱酢のもの、納豆、御新香、たら豆腐がぽつりぽつりと出てくる。』

 太田さんのこの文章に引かれて、平成12(2000)年10月に、初めて「武蔵屋」を訪れたのでした。

 そして、このときの「武蔵屋」訪問が、その後の私の大衆酒場めぐりの大きな分岐点となったことは、「古典酒場 VOL.12 FINAL号」(2013年、三栄書房)の大特集『古典酒場、ボクの原点。』でも大いに語らせていただきました。

 この特集は「酒とつまみ」創刊編集長の大竹聡さんが、酒場の先達7名(太田和彦さん、吉田類さん、大川渉さん、外波山文明さん、マイク・モラスキーさん、藤木TDCさん、そして不肖・私)に『酒場の魅力に開眼した原点となる酒場、酒場半生記をロングインタビューする』というもの。

 そのときに、「私の原点酒場」として、「武蔵屋」を挙げさせていただき、取材も「武蔵屋」でしていただいたのでした。この記事は、今も私の宝物です。

 「武蔵屋」が立ち飲み屋として創業したのは大正8(1919)年のこと。創業者は喜久代さんの父・木村銀蔵(ぎんぞう)さんです。場所は関内(中区太田町)でした。

 終戦の翌年(1946年)、野毛に移り、1983年に銀蔵さんが他界(享年88)されてからは、おばちゃんと小さいおばちゃん(妹の富久子さん)の姉妹二人が、アルバイトの人たちと一緒に店を切り盛り。

 その後、2015年7月末に閉店するまで、ずっと野毛の地で、我われ呑兵衛を迎え入れてくれたのでした。

 創業からは96年、野毛に移ってからでも69年の長きにわたる「武蔵屋」の営業でした。

 私自身は2014年7月から、2015年末まで、ブラジルに赴任していたので、とても残念なことに、「武蔵屋」の閉店には立ち会えなかったのです。(→そのときにブラジルで書いたブログ記事

 今日は、「武蔵屋」でアルバイトをしていた面々も出席されていて、しかも、「武蔵屋」の“あの土瓶”で「櫻正宗」を注いでくれています!

 会の中盤には、五代さんが率いる『横浜夢座』による、「野毛武蔵屋~三杯屋の奇跡~」の寸劇も披露されて、誕生会は大いに盛り上がりました。

「おばちゃんのいるところが『武蔵屋』ですから」

 という出席者のおひとりの言葉に、参加者全員が大いにうなずきます。

 私のとなりで飲んでいるのは、「野毛ハイボール」の店主・佐野晴彦(さの・はるひこ)さん。

 佐野さん自身、「武蔵屋」の大常連さんで、「野毛ハイボール」の定休日を火曜日と決めたのも、ひとえに佐野さん自身も、週に1度は「武蔵屋」に通いたかったから。

 だから、火曜日に「武蔵屋」に行くと、必ず佐野さんに会ったものでした。

 そんな佐野さんからは、レモンスライスをたっぷりと使った「玉ねぎ酢漬け」や、水は一切使わず、「櫻正宗」だけをドバドバと入れて作る「おから」の作り方の秘密を伺うことができました。

 いつもいつも、当たり前のように出してくれていた、「武蔵屋」定番のつまみ。実はそんなにも贅沢な作り方だったんですね。簡単な料理のように見えて、他の店がけっしてマネすることができない理由がよくわかりました。

 会の最後には、おばちゃんからのスピーチも。

「今日は本当にありがとうございます。こんな幸せ者はいないと思います。みなさんもお体に気をつけて頑張ってください。なにしろ『食べる』『働く』『動く』。その三つは必ず守ってください。そうすればみんなが元気でいられます。またお会いしましょう。改めまして、今日は本当にありがとうございました」

 というのがその骨子。おばちゃんは、参加者一人一人のことも、とてもよく覚えてて、みんなそのことにもびっくりしてました。

 ご本人は「頭がボケてきてダメなんですよ(笑)」とおっしゃるものの、そんな気配は微塵みじんも感じられませんでした。

 小さいおばちゃんも、足腰が弱ってはいるもののお元気で過ごされているとのこと。

 おばちゃんからは参加者のみなさんへという「櫻正宗」を、そして五大さんからは、この日のために編集した記念DVDをお土産にいただいて、帰路についたのでした。

 今日は本当にうれしかったなあ。おばちゃん、いつまでもお元気でいてくださいね!

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会場の「中国飯店」 / 太田さんのごあいさつ / おばちゃんに語りかける太田さん

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アルバイトの方たちも来てくれた / 五大さんも土瓶をもって / 横浜夢座による寸劇

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太田さん、おばちゃん、五大さん / おばちゃん、太田さんと / おばちゃん、佐野さんと

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加瀬さんと佐野さん / お土産の「櫻正宗」 / 横浜夢座のスペシャルDVD

・「武蔵屋」の店情報前回) / (ブラジルブログの記事

《平成29(2017)年7月9日(日)の記録》

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