塩でもいける上質羊肉 … ジンギスカン「神居古潭(かむいこたん)」(中野)
金曜日の今日は、フォーラム(パソコン通信)の先輩、Ebiさんと、中野駅で待ち合わせて飲みに出かけます。
Ebiさんも、中央線沿線族ではあるものの、ホームが小金井方面。「中野あたりはよくわからないから、まかせるよ」との仰(おお)せ。さて、どこにしましょう。
魚がよければ「第二力酒蔵」や「陸蒸気」「らんまん」。普通の居酒屋ならば「北国」や「赤ひょうたん」。食事もできるバーならば「ブリック」。うなぎの串焼きの「川二郎」や、「武蔵野そば処」の山菜天で一献というのもいいなぁ。候補店がたくさん思い浮かびます。
「そうだ。ジンギスカンの美味しい店があるらしいんですが、ひとりじゃ入れないという情報もあって、今まで行ったことがないんですよ。そこどうでしょう?」「脂っこいものは控えるように言われてるんだけど、たまにゃいいか」とEbiさんの賛同も(むりやり?)得て、中野駅北側に広がる中野5丁目居酒屋街の最深部に向かって足を進めます。
ジンギスカンに関しては、「東京ジンギス倶楽部」や、北海道新聞の「探偵団がたどるジンギスカン物語」などを読んで、耳学問としては知っているのですが、実際のものはあまり食べたことがないのです。夏場にビアガーデンに行って食べるぐらいかなぁ…。
さぁ、到着しました。ウナギ串焼きの「川二郎」にもほど近いこのお店、名前を「神居古潭(かむいこたん)」と言います。「神居古潭」というのは、北海道の旭川近くの地名でもあります。石狩川上流にある峡谷で、アイヌ語の「カムイ・コタン」(神の居所)に由来する名称なのだそうです。
ちょうど角地のところにある店は、赤い大きな電灯看板が店の上部全体にあって、とっても目立つ存在です。その角をはさんで左右両側に入口の引き戸。右側の入口のほうが大きいので、こっちを開けてみようかな。ガラガラ。「こんばんは。2人ですけど…」。
店内は、小さいカウンターだけ。6人も座ればいっぱいで、こちら側4席にはそれぞれ2人連れの先客が2組座って、ジンギスカンをつついている。「いらっしゃいませ。それじゃ、こちらの入口からお願いできますか」と、店主らしき男性に、左側の入口を指し示されます。
いったん店の外へ出て、左側の入口から店内へ。入ってすぐのカウンター席に陣取ります。カウンターの椅子のところには、布製のしっかりとしたエプロンが置いてあります。コートと背広の上着を脱いで、さっそくそのエプロンを身につけます。
やはり先ほどの男性が店主のようで、ほかにもうひとり女性がいて、このふたりでお店を切り盛りしているようです。その店主が、お通しを出してくれながら、「飲みものは何にしますか」と聞いてきます。ジンギスカンだから、やっぱり生ビールかな、なんて相談をして、「生ビール(460円)を2つお願いします」。
注文を聞かれたのはこれだけ。カウンター席には、炭火の入った七輪が埋め込まれていて、すでに鉄のジンギスカン鍋が熱くなっています。その上に、モヤシ、ピーマン、玉ネギ、キャベツ、ニンジン、そしてなんとニガウリ(ゴーヤ)などの野菜がジュワァ~ッという音とともに置かれます。
それとは別に、長円形の銀色皿に盛られた肉が出てきます。これが「ジンギスカン(並)」(800円)2人前のようです。この「ジンギスカン(並)」というのが、この店のデフォルトのようで、入ってくると、注文しなくても必ず出されるようです。
それにしても、きれいな肉ですねぇ、これは。マグロの赤身と中トロの間ぐらいの色合い。肉の形状(1切れごとの厚さや大きさ)的にも、マグロの刺身っぽい感じ。「さっと火が通る程度でいいですからね。焼き過ぎると硬くなります」と店主。
されじゃと、ひと切れ目の肉を鍋へ。ジュゥゥ~ッ! なるほど、これが前述の「東京ジンギス倶楽部」のみなさんがいうところの「しあわせの音」なんですね。この最初のジュ~ッという音が、ジンギスカンをやる際のもっとも重要な、儀式的な一瞬なのだそうで、『肉の投入が早過ぎるなどして充分な「しあわせの音」が発生しなかった場合、肉を投入した者は皆から白い目でにらまれることになる』とも書かれています。
すぐにひっくり返して、裏面もジュ~ッと焼いて、小鉢に用意されたツケダレをつけてパクリ。うわぁ。うまいっ! 「もっとクセがあるかと思ったんですけど、ぜんぜん匂いなんかもないですねぇ」と問う私に、「でもマトンなんですよ」と店主。しかし、その顔は自慢げです。いい肉を仕入れてるんでしょうねぇ、きっと。
「これで並ですか」「そう。それで並ですよ」「じゃ、次は特上(1,000円)を2人前ください。それと生ビールもおかわり」。最初の肉はあっという間に食べ終わり、肉の追加です。
店主が、野菜をジュワァ~ッと追加してくれます。このモヤシが、先端と根の部分がきっちりと処理されていて、歯応えも実にいいのです。
特上のジンギスカンは、すっかりマグロのトロの感じで、ピンクが美しい。「人によっては、塩だけで食べる方もいらっしゃいますよ」。ジンギスカンには、肉を焼いてタレをつける「後付け」という方法と、タレにつけた肉を焼く「味付け」という方法の2種類があるそうなのですが、そのどちらも、羊肉の臭みを消すのが主目的なのだそうです。ところが、塩だけとなると、もうごまかしがきかないですからねぇ。ど~れどれ。へぇ。ほんとに塩だけでうまいんだ。これはすごいっ。
ところでご主人。目の前の短冊にある「アイヌネギ」(600円)ってなに? 「北海道産の山菜なんですよ。食べてみますか」。じゃ、お願いします。
短冊には「最初にたのんでください」と書いているけど、今日は途中でもらってしまいました。出てきたのはネギというには幅広い葉っぱ。あれぇ。ギョウジャニンニクに似てますねぇ。「そうですそうです。ギョウジャニンニクなんですよ、これ」と店主。そうだったのか。こうやって焼いて食べるのもおいしいんですねぇ。
ジンギスカンあり、北海道の山菜ありで、店主もきっと北海道の出身と思いきや、なんと秋田のご出身。北海道出身の前オーナーから、8年ほど前に店の経営を引き継いだのだそうです。
そんな店主から「わが故郷(秋田)の、いいジャパニーズ・ワイン(日本酒)もありますよ」と出てきたのが「飛良泉(ひらいずみ) 山廃純米酒」です。
やぁ。羊肉も十分にいただいたので、そろそろ日本酒もいいですねぇ。じゃ、つまみも「カニミソ」(500円)をいただきましょうか。
店のメニューには、ジンギスカンの並800円、特上1,000円、そしてラム肉1,500円のほかに、ラム肉刺身や、鹿刺、ほっき貝、ホッケなど、いかにも北海道の山海の幸的な品々が800~1,000円程度で並び、そのほかにイクラ丼(1,580円)、ウニ丼(1,780円)なんてメニューもあるのです。
この店、2階にも8人ばかりの席があるようで、お客さんが上がったり下りたりしています。ジンギスカンはあっという間に食べられる状態になるので、お客さんたちの回転もはやいようです。私たちがいるカウンターも、最初にいたお客さんたちは帰りました。お客さんが帰ると、すぐにカウンター上が片づけられ、七輪に炭が何個か追加されて、上にジンギスカン鍋が置かれます。こうやって、あらかじめ鍋を熱くしておくんですね。
このお酒もいい味ですねぇ。実にすっきりと飲みやすい。小鉢にたっぷりと盛られたカニミソとの相性もいいじゃないですか。「今日はねぇ。ウニもいい品ですよぉ」と店主。そう言われると食べてみたいよなぁ。しかし、丼を食べちゃうと、満腹以上になっちゃいそうだしなぁ、と迷っていると、「ウニ丼の、ウニの部分だけでもOKですよ」と店主。じゃ、それをもらいましょう。「飛良泉」ももう1杯おかわりね。
ガラリと引き戸が開いて、入ってきたのは男性ひとり客。「おひとりですか。ジンギスカンは2人前からになりますが大丈夫ですか?」と店主。「はい。大丈夫です」と、その男性もわれわれの横に座ります。そして、最初からわれわれ2人のところに出たのと同じ量の野菜がジンギスカン鍋に投入され、同じ量の肉がのった銀色皿が出されます。
なるほど。この量を食べることができれば、ひとりでもOKなんですね。この肉であれば、2人前は軽くいけちゃいそうですねぇ。なにしろ、肉自体がうまいですからねぇ。
いやいや。大満足、大満腹です。ウニもおいしかったなぁ。お勘定は2人で12,000円。ひとり6千円ずつでした。他のお客さんのお勘定を見てると、ひとりあたり3~5千円ぐらいのパターンが多いようでした。1時間40分ほど滞在して、店を出たのは午後9時半でした。
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