ホッコラと、うなぎの白焼 … 居酒屋「上州屋(じょうしゅうや)」(野方)
夕方から、急に東京に出かけることになり、そのまま自宅に向かいます。現在、午後7時半過ぎ。せっかくの機会ですから、今日も野方(のがた)界隈の気になり店に寄ってみましょうか。
店は、野方駅から南下して、都立家政(とりつかせい)方面に向かう「みつわ通り」という通り沿いにあるそば屋「太平庵」の向かい側の路地を入った左手。「笑い地蔵」というお地蔵さんの斜め向かいにあります。
店の上部に、電灯看板があるほか、入口には「上州屋」と書かれた茶色ののれんがかかっています。
そうそう。この店は、看板・のれんや電話帳などは「上州屋」ですが、店内の表記は「上『洲』屋」と、さんずい付きの『洲』なのです。字画かなんかの関係なんでしょうね。ここでは、「上州屋」という電話帳の表記に統一させていただきます。
その、茶色ののれんをくぐり、引き戸を開けて店内へ。わぁ。お客さんが多いですねぇ。
店内はL字型のカウンターのみ。Lの下の辺は、とっても短くて1~2名しか座れそうにない。そのL字の一番手前のところに、中年の男女の二人連れ。その次に会社員の上司とその部下らしき男性二人連れ、次がやや高齢のご夫婦。その先が2席空いて、一番奥に会社の同僚同士らしき男性二人連れという、合わせて8人の先客です。
カウンターの中には、店主とその奥さん。このふたりで切り盛りしているようです。その奥さんが、「おひとり? こちらへどうぞ」と、奥の空いている場所を示してくれます。
コートを脱いで、カウンター後ろに並んだフックに引っかけます。先客たちもそうしているので、防寒着がずらりと並んだ状態です。
空いている2席のうちのひとつに腰をおろしながら、「ビールを。小瓶でください」。コートを脱ぎながら、ビールに大瓶と小瓶があることは確認しておいたのでした。大瓶は500円、小瓶は300円。日本酒も350円なので、飲み物は大衆酒場価格に近いですね。
出てきたのは、キリンラガービールの小瓶(300円)。カウンター上には、常設のコンロが2席に1つずつ並んでいて、残されたスペースが少ないのです。その少ないスペースに、コップとビールの小瓶を置いて、まずは1杯目のビールをググゥ~ッと飲み干します。ッカァ~ッ。うまいっ! やっぱりこの1杯ですねぇ!
「お通しです」と出されたのは、小皿に盛られた、これはメカブかな。小さく切り刻まれているので、フキ味噌にも近い感じの緑のかたまりになっています。箸の先にちょいと取って、ひと口。おぉ。カツオだしがよく効いたメカブですねぇ。
さて。なにを食べようかな。カウンター内部の壁の上部に掲げられた短冊メニューを確認します。なるほど。食べものは普通の居酒屋と比べるとやや高めですね。
一番安いのがイカゲソとべったら漬けの400円。その次に煮物や、ちょっとした季節料理が600~800円ぐらいで並びます。たとえばイイダコの煮つけが600円、フグの煮こごりが700円、シメサバが800円など。刺身の中では、マグロの刺身が1,200円。
ウナギは白焼、蒲焼、うな重がそれぞれ小1,400円、中1,600円、そして大が1,900円と、同じ価格設定になっています。
そして、フグは刺身が3,800円、フグチリが3,600円と、これは別格という感じです。
まずは好物のイイダコ(600円)でもつつきながら、じっくりとメニュー検討をしましょうか。「イイダコお願いします」。
イイダコの煮つけは、注文に応じて、大きな鍋から中ぶりの小鉢に移してくれます。さめて、すっかり冷たくなった煮つけなんだけど、どうやらこうやって出すのがねらいのようです。なぜなら、イイダコの部分もさることながら、そのまわりにはプルプルとゆれる煮汁の煮こごりがたっぷり。タコもいいけど、この煮こごりがねぇ。「すみません。お酒ください」。思わず燗酒(350円)を注文してしまいました。
お酒は、カウンターの燗付け器を使って、湯煎で燗がつけられます。そのお酒を出してくれながら、おかみさんから、「もし、ウナギを注文されるんでしたら、早めにお願いしますね。時間がかかりますから」と声がかかります。そうか。そういえば、看板にもウナギ・フグと書かれてますよね。こうやって、釘を刺されるところをみると、よほどの目玉商品なんでしょう。さっそくたのんでおくことにしましょうね。「じゃ、ウナギの白焼を、小でお願いします」。さっきも書きましたとおり、ウナギは、大、中、小と3種類の大きさが選べます。しかし、どの大きさがどれくらいか、まったくわからないので、とりあえず小(1,400円)をたのんでみたのでした。
左どなりのサラリーマン2人連れが今つついているのが、きっと白焼ですね。これが、いかにもおいしそうなのです。
右どなりの老夫婦は、これはふぐの雑炊かな。ずっと鍋を食べ進んできて、最後に雑炊をして食べているといった感じです。これもおいしそうですねぇ。
おかみさんが言ってたとおり、ウナギが出てきたのは、注文してからかなり時間がたってからでした。お酒(350円)のおかわりをして、それも飲み終わるぐらいのタイミングで「白焼です」と、1尾分をふたつに切り分けた白焼が、お皿に盛られて登場です。
1尾ずつ、注文してからさばいてるんですねぇ。入口近くに座っている上司と部下らしき2人連れも、入店と同時ぐらいにうな重をたのんでたらしいのですが、出てきたのはついさっきです。蒲焼やうな重は、蒸してタレ焼きするという工程が加わるため、白焼よりもさらに時間がかかるんですね。
そうやって作る白焼なので、当然丸1尾分です。となると、大、中、小の大きさは、そのままウナギの大きさを示してるんですね。
まずはひと切れ箸で切り分け、そのまま口中へ。サクッとした表面の歯応えの下から、ホッコラ、ハフハフの身がとろけます。うわぁ。うまい。2切れ目を切り分けて、今度は添えられている本ワサビをちょいとのせて、小皿の醤油もちょこっとつけていただきます。いやぁ。こら止まらん。次々に切り分けては、熱さがなくならないうちにパクパクと完食してしまいました。この間、お酒は1滴も飲まず。う~む。うますぎて、つまみにならんなぁ、これは。
酒と肴(さかな)は、微妙なバランス関係の上に成り立ってるようで、あまりうますぎるお酒だと、肴はいらない状態になります。日本酒のものすごいのや、ウイスキーのいいやつなんかがそうですね。カクテルなんかも、どっちかというとお酒を味わう感じです。
逆に、さっきの白焼のように、肴がうますぎる場合。そして、特にその料理が熱いものだったり、冷やしたものだったりした場合は、とても酒なんて飲んでいられない。熱いうちに、冷たいうちに、必死になって食べなきゃって感じになってしまいます。
古くから続く居酒屋の場合、このあたりのバランスをとるのが上手なところが多いんですよね。酒はびっくりするほどうまいものではなくて、白鷹、菊正宗、桜正宗などのいわゆるナショナルブランド。肴もけっしてものすごいものではなくて、マグロのヅケや、卯の花(おから)、ポテトサラダなど、飲んでる間、ず~っと置いててもあまり味が変わらないものが多い。
それぞれを単独でみるとそんなものなのに、その両者を組み合わせると、とっても幸せなおいしさを感じてしまうのです。まさに、居酒屋という空間と時間を楽しむための、絶妙な酒と肴の組み合わせになっていると思います。
とはいえ、この店の白焼のように、思わずパクパク食べきってしまうほどの料理もいいもんです。とってもおいしいお酒が出てきたら、つまみを忘れてそれだけ飲んじゃうのと同じぐらい。なにしろ呑んべはワガママですからね。それもいいし、これもいい。(笑)
そうそう。メニューにはないのですが、となりの人たちが飲んでたフグのヒレ酒もおいしそうでした。火のついたヒレを箸でつまんで、お酒水面のところを、上げたり、下げたり。見た目にもきれい。少し前に、入口近くのお客さんも「ヒレ酒ください」と普通に注文していたので、メニューにはないけど、普通にたのめるんでしょうね。
「いやいや。どうもごちそうさまでした。おいしかったです、白焼」とお勘定をお願いします。それまで、どっちかというと黙々と仕事に専念してるおふたりだったのですが、おふたりとも顔をあげて「どうもありがとうございます。またいらしてください」とニッコリ。お勘定は3,000円ちょうど。1時間半弱の滞在でした。
おいしかったなぁ、白焼。今度は「中」ぐらいの大きさのを食べてみるかな。ちょっと高いけど、フグも食べてみたいですよね。小さい鍋でちょっとずつ作って食べるフグチリが、実にうまそうでした。
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