あの土鍋はなんだろう … 居酒屋「川名(かわな)」(阿佐ヶ谷)
土曜日は例によって図書館から居酒屋への夕方散歩です。図書の貸し出し期間は2週間。わが家から徒歩10分ぐらいずつのところに杉並区立阿佐谷図書館と、中野区立鷺宮図書館の2館があるので、今週は阿佐谷図書館、来週は鷺宮図書館と、1週間ごとに交互に通うと、貸し出し期間とぴったりマッチになるのです。(最近気がついたのですが、地図上で阿佐谷図書館と鷺宮図書館を直線で結ぶと、そのまさに中点のあたりにわが家があるのでした。)
図書館での貸し出しも終えて、「川名」に到着したのは午後4時半。「いらっしゃいませぇ。テーブルにどうぞ」という声に迎えられながら店内へと進みます。今回も、カウンター7席はすでに満席。みっつあるテーブル席もA卓、C卓にはすでに人が座っており、空いているのはB卓のみ。
入口からB卓に進む私と、カウンターの奥からお通しのスイカを持ってきてくれるミィさんとが、同じタイミングでB卓につきます。「生グレープフルーツサワー(336円)ください」とその場で注文。最初は常連さんたちのまねをして飲み始めた生グレープフルーツサワー。今ではすっかりなじみのお酒になっちゃいました。なにしろ、大きなグレープフルーツ半個分のジュースがたっぷりと入るので、本当にフルーティなんですよね。
え~と。今日の刺身はイカ刺し、イサキ刺し、カツオ刺しにホヤ酢の4品(各294円)ですか。イサキにもひかれるけど、今日はカツオ刺しをもらいましょうか。「は~い」と伝票に記入して、カウンター内に戻るミィさん。
最近、図書館で借りている本の中で、おもしろいなぁと感じているのが、以前にもちょっとご紹介した「蕎麦屋酒」(古川修著)です。題名のとおり、そば屋と、そこで飲むお酒のことが書かれているのですが、その内容が、居酒屋にもつながるものなのです。
たとえば「私がいい蕎麦屋だと考えるのは、蕎麦を提供するということに関する店主の考えがしっかりしていて、おいしい蕎麦をお客に食べさせようという情熱と努力が伝わってくる店である」と書かれていて、「儲けだけを考えている蕎麦屋は論外」。「形態だけ手打ちとか自家製粉とかして客を呼び、実質が伴っていない蕎麦屋」もはずれとしています。
逆に「いい店は暖簾(のれん)をくぐって店に入ると、適度な緊張感と気持ちよく迎えてくれる心地よさを兼ね備えているものだ」。「いい店は、客に対するそれとない気配りが感じられるはずだ。これで蕎麦も酒もうまければ最高の店である」と書かれているのです。居酒屋についても、まったく同じことが言えるのではないでしょうか。
お客のあり方についても言及されています。「お客側もできるだけ店のコンセプト、ご主人の考えを汲み取り、それを理解する必要がある。よく、自分の好きなイメージの枠を持ち、それに当てはまらない蕎麦屋は駄目な蕎麦屋と決めつける客がいるが、指向する方向が自分と違っていたというだけのことが多い」。「蕎麦屋で蕎麦と酒を最高に楽しむには、その蕎麦屋の個性と流儀を理解することが必要である」。「いいお客は、お店の個性・流儀を理解して、その店に合った注文をし、酒、酒肴、蕎麦を店のサービス、雰囲気と一体となって楽しむ。これが粋である」とされています。
いい店は店主の志が高く、その指向にあったいい客が集まってくる。店と客とが融合し、一体化してよりいい方向に向かっていくんですね。私なぞ、まだまだ精進が必要そうです。
もう何年も前のことになりますが、蕎麦関連のメーリングリストのオフ会で、この本の著者、古川さんのご自宅にもうかがったことがあるのです。当時は、まだ自動車会社にお勤めだったのですが、その後、現職である芝浦工大教授に転身されたんですね。なにしろ工学博士だけあって、理論に裏付けられた蕎麦と酒の話が盛りだくさんで、読めば読むほどおもしろい本です。
さてと。生グレープフルーツサワー(336円)をおかわりして、つまみはホワイトボードメニューから「山いもねぎチーズ」(294円)というのをたのんでみましょうか。どんなつまみなんでしょうねぇ。楽しみです。
この店の(ホッピーのナカも含めて)サワー類のおかわりは、必ず新しいジョッキで出てきます。生グレープフルーツサワーの場合は、新しいジョッキに満杯の酎ハイと、半個分のグレープフルーツが出てきて、古いジョッキと、前回のグレープフルーツの絞りかすが下げられるのです。よく知った常連さんたちは、古いジョッキの中にグレープフルーツの絞りかすを入れて、新しいグレープフルーツが出てくるのを待ってます。そうすると、ミィさんたちお店のおねえさんが、新しいグレープフルーツを絞り器の上にトンと置いてくれるのです。
このままでは、とても半個分のグレープフルーツジュースは入りませんので、まず酎ハイのままで、ジョッキの上から1.5~2センチぐらいをググッと飲んで、それからおもむろにグレープフルーツを絞りいれます。私がやると、種までたっぷり入ってしまうのですが、上手な人はうまくジュースの部分だけを入れているようです。
「お皿も熱いですから、気をつけてくださいね」と、山いもねぎチーズが出てきました。なるほどぉ。薄くスライスした山芋を層状に重ねて敷きつめた上に、これまた斜め方向にスライスした白ネギを重ねて、その上にチーズをのせてオーブンであっためてトロトロにしてるんですね。
アチチ。たしかに皿まで熱いや。ど~れ。箸で一片をつまみあげると、トロ~ンとチーズが糸を引きます。アッツッツ。山芋が生と煮えた感じの中間的になっていて、新しい食感ですね。おもしろい。
この場所から、奥の座敷の一部分が見えるんですが、そこのお客さんがなにやら土鍋に入った麺類っぽい感じのものを食べているのがさっきから気になっているのです。この店には麺類のメニューはありません。何なんだろうなぁ、あれは。店のメニューの中で、ああいう細長いものがありそうなのは、マーボ春雨(399円)ぐらいかなぁ。う~む。そうだとすると、テレビCMなどで見るマーボ春雨とは、明らかに違う外観だけどなぁ。いまだに謎も多い「川名」の定番メニューの数々なのです。
さぁ。今日はこのぐらいで切り上げますか。お勘定は1,260円。おかみさんに支払いを済ませて、「どうもごちそうさま」と声をかけたところへ、店主からも「毎度どうもありがとうございます」と笑顔が返ってきます。約1時間の滞在で、店を出るとまだ午後5時半。真昼間のような明るさの中を、ちょうどよい酔い心地で家に向かったのでした。
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