500円で酔えます! … 立ち飲み「いこい」(赤羽)
さぁ! 家族は合宿中! フリーな土曜日がやってきました。この日のために、しばらく前から行き先を検討してきた先は赤羽(あかばね)です。
北区のこの地域は、別名「東京の北のゲート」とも呼ばれ、旧・中山道(なかせんどう)の交通の要所としても栄えた場所です。実際は、中山道は現在の国道17号線、板橋~蕨(わらび)~浦和を結んでいくラインなので、赤羽はちょっとだけはずれてるんですけどね。今のように城北の玄関口として発展してきたのは、明治になって鉄道の駅ができてからだそうです。
話はそれますが、この旧・五街道沿いの、江戸から出てすぐのあたりにいい酒場が多いように思いませんか? 東海道なら大井町~蒲田~川崎界隈。日光街道/奥州街道(この2つは宇都宮まで同じルート)なら、なんといっても千住界隈。甲州街道だと、幡ヶ谷~下高井戸、少しずれるけど下北沢界隈。そして中山道は、(鉄道の影響か)全体的に旧街道よりは東にずれて、王子~十条・東十条~赤羽界隈。この論でいくと、新宿(甲州街道)、品川(東海道)あたりにもいい酒場が多そうなのですが、この2つは、その後の街化の進み方がはや過ぎたのか、残念ながら現在は(古くから続く大衆酒場という面で)あまりいいところを見つけられませんねぇ。
さて、赤羽駅におりたったのはまだ午後4時前。向かう先は、東口に広がるピンクゾーンの一角にある立ち飲み屋、「いこい」です。
この店はなんと朝7時からの営業! 本当は朝から飲みに来ようかと思ったぐらいなのですが、さすがに朝から飲んじゃうと昼頃にはヘロヘロになっちゃうなぁと、その後の展開も考えて、自宅を出発するのを午後3時にしたのでした。(というか、本当は午後2時出発という計画だったのに、ちょっとうたた寝してる間に出遅れちゃったのでした。)
「いこい」の斜め筋向いが、〈キャバレー太郎〉こと福富太郎氏のキャバレー「ハリウッド」です。先日、この店でずっとNo.1を続けているホステス、千尋さんが書かれた「赤羽キャバレー物語」を読んだところだったので、「あぁ、この店だったんだ」なんて、妙に感心してしまいました。しかしながら、この店は初めての人用の見学コース(60分)でも7,350円ですからねぇ。エコノミー・コースと銘打たれているコースでも16,800円と、われわれ一般サラリーマンにはとても行けそうにないお店です。みのもんたさんなんかが、よく来られてるそうですよ。でも、こうやって料金をはっきりと明示しているだけでも良心的といえるのでしょうか。
そんな開店前の「ハリウッド」を横目にみながら「いこい」の店内へ。や。この時間(4時前)でもお客さんが多いですねぇ。入口側から見るとコの字(コの右側が入口)に見えるカウンターはお客さんでいっぱいです。右手に並んだ立ち飲み用のテーブル席にも、何組かのお客さんがついています。店が開くのも早ければ、お客さんたちの出足もいいようですねぇ!
入口から見て左手奥、コの字でいうと、左下のほうに空きがあるようなので、奥へ入りますか。こっち側に入るのは、私自身はじめてです。奥に進んでいくと、カウンターがそのままΠの形にまわりこんで、今度は人が内側に立つようなカウンターになります。Πの中央部には、立ち飲み用のテーブルもひとつあって、かなり広い空間です。こんな風になってたんですねぇ。こちらの空間には、現在のところ若い男女3人組みが1組入っているだけ。
私も、手前のカウンターから奥の空間に切り替わるあたりに陣取ります。ちょうど目の前がつまみの陳列ケースになっていて、どんなつまみがあるのかがわかりやすいのです。さらに、この場所からは厨房の様子も真横から見ることができます。
その厨房から、おかみさんと思しき女性が出てきて「いらっしゃいませ。なんにしましょう?」と声がかかります。「ハイボールください。あと、これ」と、台の上に並んだつまみの中から、おからを指差します。
まず、トンとおから(110円)が出され、追いかけるようにハイボール(180円)が出てきます。「あと、ホルモン焼き(220円)もお願いします」と追加注文。「全部で510円です」とおかみさん。この店はキャッシュ・オン・デリバリー。そのつど、そのつど、清算するのです。
通常は、カウンターの奥のほうにいくらかを置いておくと、そこから必要な分だけとって、おつりを同じ場所に置いておいてくれます。その後も、注文のたびにそこからお金が取っていかれるのです。だから、「今日は千円分だけ飲もう」というときには、最初から千円札を1枚だけまず置いておいて、それがなくなるまで飲み食いすればいいということになります。
『通常は』と書いたのは、今日立っている場所は、目の前にケースがあるために、そういうお金のやり取りができないからです。「はい」とケースの横から手を回すようにしてお金を払い、もらったおつりはカウンターのところに置いておきます。
ハイボールは、180円ながらもジョッキ入りの酎ハイで、レモンスライスまで入っています。これとは別にレモンハイというメニューもあって、こちらは220円。こっちになると、レモン果汁がたっぷりと入るのかなぁ…。
ちなみに日本酒も180円で、ビールはビン(サッポロ大ビン)、生ともに360円。エビスの黒ビールは380円です。
そのハイボールをいただきながら、合いの手につっつくのはおから。この、やや甘めに味付けられた、具だくさんのおからもいいつまみです。ポテトサラダ(110円)にするか、おからにするか、ちょっと迷ってこちらにしたのでした。「武蔵屋」(横浜・野毛)で、必ずおからが出てくるのですが、ほかの店ではあまり見かけないので、なんだか久しぶりですね、おからも。
厨房の中でおねえさんがフライパンで作ってるのがホルモン焼き(正式には「スタミナ ホルモン焼」)かな。ちょうど今、できあがってお皿に盛られている。ほ~ら、出てきましたよ。これはシロ(腸)とモヤシをフライパンで炒めたもので、塩コショーでピシッと味付けられています。なにしろできたてなので、モヤシはしゃっきり、シロは熱々プリプリ。お腹がすいていたこともあって、思わずバクバクと食べてしまいました。
110円のつまみが多い中、このホルモン焼きは220円。この店にあっては、超高級品なのですが、さすがにそれだけのことはありました。おいしかったです。
「立ち飲み酒」という書籍によると、この店の前身であるアサヌマ酒店がこの地で開業したのが昭和24、5年のこと。そのころから、店内の一角で立ち飲みをやってたのだそうです。その後、昭和45年ごろに酒屋の一部が移転したのを機に、店内の三分の一ほどを立ち飲みコーナーとして区切り独立。さらに残った酒屋も全部移転して、完全に現在のスタイルの立ち飲みだけとなったのは平成に入ってからなのだそうです。
店内のテレビでは、今日からはじまった第86回全国高校野球選手権大会の中継が流されており、この時間、ちょうど第1日め第2試合で浦和学院(埼玉)と広島商(広島)が試合中。店内はほぼ浦和学院の応援一色です。なるほどなぁ。ここ北区は、川口市(埼玉県)と隣接した関係にあることや、京浜東北線、宇都宮線、高崎線、埼京線などの電車がすべて赤羽駅を通るということもあって、埼玉も地元といった感覚なんでしょうね。
カウンターの入口付近に、キュウリがたくさん積み上げられています。「すみません。キュウリください」と注文し、110円を握りしめて到着を待っていると、「はい、キュウリ。130円です」って!? おっとっと。あわててあと20円追加して支払いです。
野菜は魚以上に値動きが激しくて、この店のように原価ギリギリのところで商売をしている店にとっては安定しない食材なのだそうです。
そのキュウリは、丸いお皿に丸のままのキュウリが2本。ころんと乗せられていて、お皿の横には味噌が添えられています。その丸のままにかじりついて、パキッと軽快な音とともにひと口分。シャクシャクと噛むと、水分もたっぷりでなんだか涼やか。実に夏らしい食べ物ですねぇ。
本当は、この店でもうちょっと飲(や)っていきたいところなんですが、ここでたっぷり飲んじゃうと後が続かない。ガマン、ガマンでこの辺で切り上げます。
滞在時間は約30分。ジョッキのハイボール1杯と、つまみが3品。全部で640円でした。
この滞在時間は、けっして短いほうではなくて、さっき私の横に来たおじさんも、マグロ刺し(これも4切れぐらいで110円!)をつっつきながら、お酒を2杯、ツゥ~ッ、ツゥ~ッと飲んで、ほんの15分ぐらいで帰っていきました。470円です。“せんべろ”ならぬ、500円玉1個持ってれば飲めるんですねぇ、この町では!
もちろん、じっくりと腰をすえて(とはいえ立ち飲みだが…)長い時間飲んでいる人たちもいますので、じっくり飲みたい方もどうぞ。
件の「せんべろ探偵が行く」ご一行様も、ここでたっぷりと飲み食いしたものの、2人で3千円いかなかったそうです。店の入口に「酔って来る方、一切お断りします」と書かれていることをもじって、『酔って入るのはダメだが、酔っぱらわなくては出られないのだ』と締めくくられています。さすがプロの物書きですね。(笑)
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