脂ののった三者三様 … 居酒屋「竹よし(たけよし)」(都立家政)
なんと、私が愛媛で楽しい夏休みを過ごしている間に、かの中島らも氏が酒に酔って階段から転落し、脳挫傷、外傷性脳内血腫のため、7月26日に死去されてました。52歳という若さでした。
らもさんは『大阪の釜ヶ崎に「ジャンジャン横丁」っていう、立ち飲み屋がずらーっと並んでいる労務者の街があるんですよ。以前、そこで飲んでいたときに、横でパチンという音がした。振り向くと、カウンターに200円おいてあって、酒がすーっと出されたんです。それからおれは別のことを考えていてふと振り向くと、その客がもういない。だから、約20秒ぐらいで1合飲んで、出ていってしまったんでしょうね。
おれの飲み方はそれに近い。17、8歳ぐらいから飲んでますけど、ドラッグとしてアルコールを採ってましたから。酔う過程より、酔ってからのほうが大事。酔うための道具として酒を飲んできたから、ある意味シャブと一緒です。一緒ですよ』(「男を上げる!正しい酒の飲み方」より)と語っています。
以前、そばが好きな人には「そば好き」と「そば屋好き」が存在するのと同じように、酒が好きな人にはおいしいお酒が好きな「酒好き」と、お酒の味よりもむしろ酒場のもつ雰囲気が好きな「酒場好き」がいるということを書きましたが、実は酒が好きな人にはもう1タイプ。とにかく酔ってフラフラしている状態が好きな「酔い好き」という人が存在するんですね。
このタイプは、酒の味や、酒を飲む雰囲気なんてさておいて、なにしろ一刻も早く自分を酔った状態にもっていきたい。夕方になると、立ち飲み屋までたどりつくこともガマンできず、駅のキオスクなどでワンカップをクィ~ッ、クィ~ッと続けざまに2本ほど飲み干しているおじさんたちが、きっとこの代表格ですよねぇ。この飲みっぷりは、見ていて実においしそうです。
「麻薬(まやく)」が、「麻酔作用をもち、習慣性・耽溺(たんでき)性を生じやすい薬物の総称」であるならば、お酒も確実に麻薬の一種だと思います。サァ~ッと、軽い麻酔状態に入って、フゥ~ワリフワリと幽明(ゆうめい)の境をさまよう。これもまたお酒の大きな楽しみのひとつですね。
昨年出版された中島らもさんの「せんべろ探偵が行く」の中で、この「居酒屋礼賛」ページのことが紹介されていることなどもあって、以前よりもうんと親近感をもって活躍を見ていただけにとっても残念です。合掌。
らもさんの訃報を悲しみつつも、夏休み後の1週間の勤務を終えて、横浜から自宅へ。
実は、今日、明日と家族がサッカーの合宿に出かけているので、自宅に帰っても、寮と同じく私ひとりなのです。そんなわけで、横浜からの帰り道、夕食もかねて自宅近くの居酒屋「竹よし」に向かいます。
「こんばんは」と「竹よし」の入口をくぐったのは午後8時半。「いらっしゃいませ」という店主(マスター)の声にかぶさるように、「あら。こんばんは」とカウンターの奥側に座っているTA奥さんから声がかかります。「あ。ごぶさたしてます」と、TAさんご夫妻とあいさつ。手前には、この近くに住んでいる大学教授ご夫妻の奥さんが座っていて、帰り支度に入っています。どうやらちょっと前までご主人(教授)もいらした様子です。
「それじゃ、私はお先に」と席を立つ教授夫人と入れかわるように、カウンター中央部に腰をおろします。いつものように瓶ビールを注文しようと思ったところへ、TA奥さんから「生ビールおかわり!」の注文。じゃ、私も生ビール(500円)にしてください。
生ビールは飲み口がいいし、「泡があっておいしそうな間に飲まなきゃ」なんて思いもあって、ついグイグイと飲みすぎてしまうのです。ま、いいか。金曜日だし。
今日のお通し(200円)は、酢の物盛り合わせの小鉢です。
TAさんご夫妻と、ごぶさたの間の状況報告や、常連さんたちの動向などを話しているうちに、案の定、1杯目の生ビールはアッという間に飲み干してしまいました。じゃ、次はチビチビと瓶ビール(スーパードライ、中ビン、500円)をお願いします。
それと、つまみは…と。う~ん、今日も迷いますねぇ。迷ったときには刺身の盛り合わせ(1,000円)をお願いします。なにしろここの刺盛りは間違いなくうまいですからねぇ。「うちもお刺身の盛り合せをいただいたんですよ」とTA奥さん。
TAさんご夫妻は、実は大学の推理小説同好会の先輩・後輩だったのだそうです。今はお子さんも大学生になられて、ときどきご夫婦で飲みに出たりされている。今日も、すでに1軒行ってこられて、ここが2軒目なのだそうです。先ほどの教授夫妻もそうでしたが、子供から手が離れるぐらいになってから、ご夫婦でゆっくりとお酒が楽しめるというのもいいですね。ただし、TAさんご夫妻、特に奥さんのほうは、とても大学生のお子さんがいるような年齢には見えませんが…。
さぁ。刺身の盛り合わせが出てきました。今日の盛り合わせは、カツオ、トロ、カンパチに、手前にはホッキ貝と、アカエビです。赤を基調としたグラデーションある色合いも美しいではありませんか!
まずはカツオから。ど~れ。うわぁ。すっごい脂がのってますねぇ。まるで戻りガツオみたいです。「そうねぇ。この時期になると、もうだいぶ脂ものってきますねぇ」と店主。
まだビールも1杯分ぐらい残ってますが、ここはいっちょ、日本酒をいきますか。カツオだからっちゅうことはないんですが、土佐の「酔鯨(すいげい)」(特別純米酒、500円)をいただきましょうか。
次はトロです。わ! すごいですねぇ、これ! 「今日はいい本マグロが入りました」。そうかぁ、本マグロだったんだ!
そしてカンパチ。カツオ(戻りガツオ風)、本マグロのトロと、脂がのった刺身が続きましたが、なかなかどうして、このカンパチも見るからに脂がのっています。身もしっかりプリッとしていて、いいですねぇ。
こうやって並べて食べると、三者三様に、それぞれ脂のうまみが違うのがよくわかります。
その中にあって、ホッキ貝はさすがにさっぱりとしています。身(足?)が厚くて、食べ応えがありますねぇ。
エビはアカエビなのだそうですが、けっこう大ぶりで、見た目はまるでボタンエビ。ぷりっとした身の弾力がいいですねぇ。
TAさんご夫妻は、最後にお味噌汁を作ってもらって終了です。「それじゃまた。お先に」と席を立たれるご夫妻を見送って、私のほうは、さらにお酒(酔鯨、500円)をおかわりです。
さっきから、メニューの中央付近に掲げられている「真鯛かぶと蒸し」(600円)に惹かれているので、これをいただきましょうか。どういうわけだか、愛媛に帰っているときには真鯛を食べなかったのに、帰ってきてから活ジメ真鯛の寿司を食べたり、今日かぶと蒸しをいただいたりと真鯛づいているのでした。
大きい真鯛ですねぇ、これは。頭の部分とカマの部分が、丸皿からはみ出さんばかりに盛られています。横にはポン酢醤油の小鉢が添えられ、チョイチョイと骨ぎわから取り出した身を、さっとポン酢醤油をくぐらせていただくのです。
そこへ、新しいお客さんの登場です。カウンターの入口近くに座り、生ビールとカンパチの刺身を注文します。あ。思い出した。このお客さんは、前に活締めのヒラマサを食べていた方ですね。いやぁ、やっぱり今日のカンパチは見た目も美しいですねぇ。
やぁ、おいしかった。どうもごちそうさまでした。今日は午後11時半まで、ゆっくりとくつろいで、3,800円でした。
最後に、「ちょっとこれを食べてみて」と、シメサバのにぎりを2貫ずつ、私と、入口側のお客さんに出してくれたのですが、そのシメサバのシメ具合のいいこと。生過ぎず、酸っぱ過ぎず。実に絶妙のシメサバです。そうかぁ。これも自慢の一品だったんですね。
さらにさらに、最後の最後で、さっきTAさんご夫妻に作っていたお味噌汁も1杯いただいちゃいました。出汁のうまさのみならず、たっぷりと入れられた野菜の甘みもよく効いて、おいしい味噌汁でした。そういえば、夕食会のときはけっこう汁物が出てくるのに、普段はほとんど食べたことがなかったですねぇ。
ところで、今月は第2土曜日が8月14日、第3日曜日が8月15日と、連続する上にお盆に重なってしまうので、夕食会は中止だそうです。
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コメント
らもさん、残念でしたね。
この記事を読んで思い出したことを1つ。
今年の初夏の暑い日に、南千住の鴬酒場で飲んでいた時のことです。私の後から入ってきた60歳過ぎとおぼしい、真っ黒に日焼けしたおじさんが(極めて健康的な雰囲気でした)、カウンターに座るなり、「焼酎1合」と言って、コップに注がれた焼酎をストレートで飲み始めました。つまみは特に頼まず、少量のお通しだけでしたが、横で見ていてもいい飲みっぷりでした。私も、どちらかといえば酔い好き人間の様ですが、なかなかこの域には達していないと感心したことを覚えています。
投稿: しんちゃん | 2004.08.19 08:31