おすすめ! 湯豆腐 … 立ち飲み「富士屋本店(ふじやほんてん)」(渋谷)
金曜日の今日は恵比寿方面で仕事終了。仕事仲間たちは“よ~し。今日は「徳ちゃん」で肉でも食いながらビールにしよう!”と、すでに十分な臨戦態勢です。ところがねぇ。私は明日は熱海で同窓会。今日飲み過ぎると明日が大変なので残念ながら「徳ちゃん」には不参加です。なにしろ今日のメンバーには大のビール好きが2人そろってますからねぇ。軽~く済むとは思えない。そもそもみんなと楽しく飲むときは、自分が一番ブレーキがきかないですから…。
そんなわけで恵比寿駅でみんなと別れたものの、せっかくの週末なのに何も飲まないというのも寂しすぎる。ちょっと一杯やって帰ろうかと降り立ったのは、となり駅の渋谷です。ひさしぶりに立ち飲みの「富士屋本店」に行ってみようとしているのです。なにしろ立ち飲みだとほとんど飲み過ぎることはないですからねぇ。どんなに酔っても自分が立ってられる限度内だし、なによりそんなに長くは立っていられない。まさにサッと飲んでスッと帰るということが身体的な面でも要求されてしまう場所なのです。
入口の小さな看板のところから地下に向かう階段を降りていきます。こんな殺風景でほとんど目立たない入口の奥に呑んべのパラダイスがあろうとは。まさに“知る人ぞ知る”名店なのです。
階段を降りきって通路にそって身体を左にひねるとド~ンと広い店内が目の前に現れます。ビルの地下全体が1フロアで、そのフロア全体を変形「ロ」の字型(凹の字型との折衷くらい)のカウンターがぐるりと取り囲んでいて、入口左手側と右手側の2辺には壁ぎわにサブカウンターも作り付けられています。
午後6時半といういかにもお客が多そうな時間帯ですが、ラッキーなことにちょうど入り口の正面の角のところのお客さんが席を離れたばかり。さっそくその後がまとして、その場所に陣取ります。器をさげてカウンター上をきれいに拭いてくれている女将さんに、まずはビールを注文します。
カウンターの中には何人かの女性と何人かの男性がいて、都合4~5人くらいで全体を切り盛りしているようです。
ビールはサッポロ黒ラベルの大ビンで450円。大ビンが450円というのは他の土地と比べてもかなり安いと思います。渋谷の中では一番安いかも!
つまみのほうは、まずはマグロ中落ち(350円)をもらいましょうか。
その中落ちが出て「じゃ、両方で800円ね」とあらかじめカウンターの上に置いておいた千円札2枚のうち1枚をとり、おつりの200円を残った1枚の上に置いてくれます。この店は注文した品が出されたとき払いのキャッシュ・オン・デリバリー制。私の場合は「今日は2千円くらいで飲もう」と思っていたので最初から2千円をカウンター上に置いていたものです。こうしておけばこの2千円がなくなったタイミングで帰ればいいですからね。こうやってあらかじめカウンター上にお金を置いておいて、注文の都度そこから持っていってもらってる人が多いのはたしかですが、もちろんその都度ポケットからお金を出して払ってもかまいません。
「ゴボウ天お待たせ。200円いただきます」と、となりのカップルのところにゴボウ天(200円)が出てきます。丸皿からあふれんばかりのゴボウのかき揚げでシャクシャクという音も小気味よくておいしそうです。見回してみるとこの山盛りのゴボウ天をつっついているお客さんが多い。人気の品のようです。
そのゴボウ天よりももっと高い頻度でみんなの前に出されているおわん。なんだろうねぇ、あれは。ちょうどそのとき、向こうにいたサラリーマンふたり連れが「湯豆腐ふたつね!」と注文。件のおわんがふたつ、彼らのもとへ出されます。なるほど湯豆腐(200円)だったんだ。私ももらってみましょう。「すみません。お酒を燗で。あと湯豆腐をお願いします」。
お酒は埼玉の「寒梅(かんばい)」が280円。幻の銘酒といわれた「越の寒梅」と名前が似てますがまるで別ものです。念のため…。
そして小さいおわんに入れられた湯豆腐。このツユがただのお湯ではなくて、なんとダシ汁。「三州屋」(銀座、新橋など)の鳥豆腐(とりどうふ)風のうまみがあるのです。ほとんどの人が注文するほど人気がある理由が、ほんのひと口でわかるほどの逸品。いいですねぇ、これは!
私の左どなりでは、男性ひとり客がウコンハイを飲みながらもうすっかりできあがってきた様子。この店は立ち飲み屋なのにほとんどがグループ客。ざっと見たところひとり客は、私と左どなりのお客さんも含めて5人いるかどうかといったところ。ざっとみても数十人(50人くらい?)が立ち飲んでる中の5人ですからねぇ。これも珍しい。渋谷ならではでしょうか。
左どなりのお客さんは、入り口横に設置されているテレビを振り返るようにして見ながら「なんだ! このやろう!」とテレビに向かって怒ったかと思うと、こっちを向き直って「どうもすみません。酔ってるもんで。ヘヘ…」なんて愛想笑いを振りまいたりしている状態。「あたしゃぁ、シロシっつうんだけどね。今日は先に“やまがた”でやってきちゃったもんで、もうそろそろやめとかなきゃね」といいつつ、焼酎をトトトッとつぎたしてクイッとひと口。「わっ。っきゃろう。濃いなぁ、こいつは! エヘヘ。すみませんね、どうも」なんて、自分の入れた焼酎を怒りながら、こっちを向いて笑ってる。
このお客さんは本当はヒロシさんって言うみたいなんだけど、下町生まれなのか‘ヒ’の発音ができなくて‘シ’になってしまう。だから自分の名前が“シロシ”になっちゃうんですね。ちなみにもつ焼きで腸のことをシロと呼ぶのも、もともと腸のことを示す‘尋(ひろ)’のことなんじゃないかなぁと思ったりしています。
「“やまがた”でやってきた」って言ってたのは、渋谷駅南側ガード下にある「酒蔵やまがた」のことです。この店もまるで渋谷ではないような、どっちかというと新橋、神田あたりの雰囲気があるお店なのです。そういえばズゥ~ッと行ってないなぁ、「酒蔵やまがた」にも。
そして焼酎。先ほど「ウコンハイを飲みながら」と書きましたが、この店の焼酎は1杯売りもあるようですが、たいていの人が飲んでるのは「いいちこ」を300mlくらいのビンに入れたもの。このほかにウコン茶やウーロン茶をもらって、自分でウコンハイ、ウーロンハイを作るのです。
さてと。目の前の残金は720円。まだいけますね。お酒(280円)のおかわりとマカロニサラダ(200円)をお願いします。ここのマカロニサラダは“マカロニ”といいつつも、その実態はスパゲティ。それを小鉢にこれでもかというほど山盛りについでくれるのです。
シロシさんはあいかわらずごきげんで「あたしゃ、上野なんだけどよぉ」。あ、やっぱり下町なんだ。「御徒町(おかちまち)のガード下にもいい立ち飲みがあるんだよ」。「へぇ。御徒町だと“味の笛”とか、立ち飲みじゃないけど八百屋の裏の“佐原屋”なんか行ったことがありますけど」。「お。にいさん、知ってるねぇ。そうそう。その“味の笛”。よく行くんだよ。(フト振り返って)おっ、元気かいっ! あっはっは。今日はもう飲みすぎっ。飲み過ぎだよっ! (こっちを向き直って)エヘヘ。今の人、知り合いなんですよ。どうもすみませんねぇ」と、こっちとしゃべりながらも、入り口から入ってくるお客さんとあいさつを交わしたりしている。それにしてもシロシさん。顔が広いですねぇ。さっきからやってくる常連さんらしき人たちと次々に親しげに話している。今や店内はまわりのサブカウンターのところにまでお客さんが入って大盛況です。
「あぁ、酔った。じゃ、にいさん、お先に」とシロシさんがカウンターを離れます。
え~と。カウンター上の残りは240円か。最後にちょっと気になるポーク・フランクフルト(150円)をもらいますか。これで残りは90円。今日はここまでですね。
ポーク・フランクフルトは刻み目を入れてしっかりと焼いたものが長方形のお皿にのってやってきます。とろんとしたソースがかけられ、お皿の隅には練りガラシ。そのカラシをちょいとつけて、熱々のフランクフルトをほおばります。ほんで、燗酒。な~んでマヨネーズたっぷりのマカロニサラダやソースたっぷりのフランクフルトが燗酒に合うのかなぁ。さらに言えば、ハムカツなんかもいいですねぇ。いやいや。正確に言うと合うのは“普通酒の燗酒”ですね。純米や吟醸だと(酒がうますぎて)こうはいかないかも。
お。もう8時だ。シロシさんの楽しげな話もあって、1時間半も飲んじゃいましたか。さぁ、ボチボチと引き上げましょう。カウンター上のおつり90円をポケットにしまって「どうもごちそうさま」!
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