吉田類さんおすすめの … やきとり「八千代(やちよ)」(中野)
最近、吉田 類(よしだ るい)さんの「酒場歳時記」という本が出版されました。この中で、『中野に来ると、つい足が向いてしまう一軒の焼き鳥屋「八千代」がある』。『盛場からは離れ、しかも使い勝手が悪いとされている三角形の店舗。手洗いは、男性用のみが店の脇に造作されているだけである。ところが、こんな条件のすべてが、半世紀以上の歳月を経て「八千代」の味わいに転じている。おそらく、それが常連客にとって魅力に違いない』と紹介されている「八千代」。全然知らないお店なので、さっそく行ってみることにしました。
丸井本店の裏手で、半ば住宅街に入り込んだY字路の鋭角の部分にあるらしいのですが、どこだろうなぁ。あ。公衆電話発見。タウンページで「八千代」を調べてみましょう。あったあった。住所は『中野3-22-1』ですか。カバンから、先日100円ショップ「ダイソー」で買ってきた東京23区の携帯マップを取り出して場所を確認します。この地図帳が100円(税が入って105円)で買える時代ですからねぇ。ありがたいことです。あとは調べた場所へと一直線です。(実際にはかなりいりくんだところにあるので一直線とはいきませんが…。)
おぉ。発見。確かにYの字の角にあるなぁ。Y字の鋭角のところにのれんと赤ちょうちんが出ているのですが、入口はそれとは別に左側に入ったところにある。入口じゃないところにのれんがかかっているというのも面白いですねぇ。すりガラス越しに先客の背中が見えます。
ガラリと引き戸を開けて店内へ。なにしろ先客の背中が見えてたくらいだから、引き戸を開けると目の間がすぐにカウンター。カウンターは鈍角(どんかく)のL字型、つまり「ヘ」の字に近い形で、そのカウンター以外の席はありません。全体でギュッとつめても8人くらい。ゆったり座ろうとすると4~5人でいっぱいいっぱいかなぁ。先客は中年の男性がひとりと、やや高齢の男性がひとり。そのふたりの間に入れてもらいます。
「いらっしゃいませ。お飲みものは?」とたずねてくれるこの女性がおかみさんなんですね。鋭角の先っぽにある焼き台との間には仕切り壁があってよく見えないものの、男性がひとり“やきとり”を焼いている様子。おそらく彼が店主でしょう。「ビールをお願いします」「ビールはアサヒとキリンがありますけど」「じゃ、キリンで」。
すぐにコップとキリンビールの大瓶(520円)が用意されます。ググゥ~ッとコップ1杯のビールを飲み干して、まずはひと息。あぁ、うまいっ。なおビールは小瓶もあって、こちらは330円のようです。
「なにか焼きますか?」とおかみさん。「え~と。最初は煮込みをください」。「はあい。煮込みね」とおかみさんが小鍋を用意し始めます。煮込みは大鍋でグツグツとやっているタイプではなくて、注文に応じて小分けされたものを小鍋であっためるタイプのようです。「酒場歳時記」に『味のルーツは名古屋方面にあり、モツ煮込みには八丁味噌をベースに使う』と書かれているとおり、お皿にさらし玉ネギとともに盛られて出てきた煮込みは、黒っぽい色合い。味わいもけっこう濃い味で、これはいいつまみになります。ビールよりはむしろ日本酒か焼酎が合いそうですね。
両側のおふたりの“やきとり”も焼きあがってきました。左に座っている男性はビール(アサヒ)を飲みながらの“やきとり”。そして右のおじいさんはウイスキーを飲みながらの“やきとり”です。カウンターの中に置かれているボトルを見ると、銘柄はサントリー・ホワイト。ロックグラス風のグラスですが、中味はどうやら水割りのようです。メニューを見るとウイスキーは180円。こりゃまた安いですねぇ!
左の男性からは「キリンのほうが小さく感じるねぇ」と声がかかります。たしかに。こうやってアサヒと2本を並べると、アサヒの瓶は“いかり肩”。それにくらべてキリンは“なで肩”でスマートなのでなんだか小さく感じます。「ほんとねぇ。でも中味の量は同じなのよ」とおかみさん。
正面のテレビでは昨日関東地方も通過した台風23号の被害状況を報じています。異常に広い強風域(超大型)をもち、大雨も伴ったこの台風によって、バスの屋根の上に取り残されているお年寄りの集団がいたり、帆船「海王丸」が打ち寄せられていたりとかなり深刻な様子。こうやって映像で見ると、一段とひどいですね。亡くなったり行方不明になったりしている人も相当いるようです。これで今年日本に上陸した台風は10個、沖縄も含めると13個となり、ともにうれしくない新記録です。
さあて。私は燗酒をもらおかな。え~と。なんと、お酒のメニューは2級260円、1級290円、特級350円なんて書かれてる。懐かしい表記ですねぇ。そのメニューのすぐ下に一升瓶がならんでいるのがそうなんですね。2級は「大関」の佳撰、1級は「菊正宗」の上撰、そして特級は「黒松 剣菱」の特選です。
「黒松 剣菱(くろまつ けんびし)」とはこれまた懐かしいなぁ。もう20年以上前の話になりますが、学生時代に当時一番うまい酒としてみんなで珍重したのがこのお酒です。仕送り直後やバイト代が入ったりしたときにこのお酒をもらって、モツ鍋をつまみながらしこたま飲んだことを思い出します。「このお酒はいくら飲んでも全然悪酔いしないね」なんていいながら…。その後、「越乃寒梅(こしのかんばい)」に代表される地酒ブームの到来ですっかり影がうすくなり、私自身、その後「黒松剣菱」を飲んだことがありませんでした。今日は久しぶりにこのお酒をいただいてみましょうか。燗でお願いしますね。
あと、“やきとり”はカシラ、レバ、ナンコツを1本ずつ。塩でお願いします。ここの“やきとり”はいわゆるもつ焼きで、他にもタン、シロなど普通の品ぞろえで1本が90円。“やきとり”の持ち帰りもできるようです。
右どなりのおじいさんはウイスキーをおかわりして、白菜の漬物を注文しています。漬物も何種類かあるようです。件(くだん)の「酒場歳時記」でも、『モツ焼きと糠(ぬか)漬け、それに看板娘の笑顔。これが「八千代」の三種の神器というべきものである』と紹介されています。看板娘のほうは「ジュンちゃん」という娘がいて、本来は3人で店を切り盛りしているらしいのですが、開店直後の今の時間はまだ店に出ていないようです。
小さな燗付け器で燗された「黒松剣菱」ができてきました。ど~れどれ。あぁ、これはいいですねぇ。すぅ~っと喉を通ります。“やきとり”もうまいや。店には“やきとり”だけではなくて、ヒジキなど、いわゆる小料理風のつまみも多いようなので、じっくりと腰をすえて飲めそうですね。
ガラリと引き戸が開いて、若い、いかにも今風の女性ひとり客。なんでもなくLの短い辺のところに座り、「レバーとハツと…」と“やきとり”を8本くらい注文。ふ~ん。こういう若い女性客なんかもフラッと入れるお店なんですね。
私のほうは初回はこの程度にしておきますか。どうもごちそうさま。ちょうど1時間の滞在で、今日は1,470円でした。
今日は“三種の神器”のうちのモツ焼きしか体験できませんでしたが、次回はぜひ残る2つも知りたいですね。それにしても吉田類さん、なんでこんな辺鄙(失礼!)なところにある店を知ってるんでしょう。さすがですねぇ。
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