牡蠣と冷おろし … 居酒屋「竹よし(たけよし)」(都立家政)
10月に入りました。今年も残すところあと3ヶ月。まったく「光陰矢のごとし」ですねぇ。
9月末が締め切りの仕事が終わったこともあって、今日は会社を早め(午後6時過ぎくらい)に出て、西武新宿線の都立家政(とりつかせい)駅に到着したのは午後8時前です。自宅最寄駅のひとつ前で途中下車したのは、もちろんちょっと引っかかって帰るため。なんだか魚が食べたい気分なのです。
「こんばんは」と「竹よし」に入ると、カウンターには男女ふたり連れが2組。2組のまん中と、一番奥が空いていたので、一番奥に座ります。「いらっしゃい。ついさっきまでHsさんもいたんですよ」と店主。そうだったんですか。ちょうど入れ違いになっちゃったんですね。
温かいおしぼりで手、顔を拭きながら例によってビンビール(スーパードライ、中ビン、500円)からスタートです。今日のお通し(200円)は、なんとブリ大根。いやいや、季節はもう秋をとおり過ぎて冬に向かいつつありますなぁ。なにしろ残すところあと3ヶ月ですからねぇ。
やぁ。このブリ大根の熱さがとっても心地よい。ハフハフと大根をかじり、冷たいビールをククゥ~ッと。ホワッと熱く、キリッと冷たく。ちょっとしたことですが、幸せですねぇ。
店主(マスター)はカウンターの中でなにやら料理と格闘中。チラッとまわりの様子を見ると、すぐとなりのふたり連れもお通しのブリ大根をつついているところ。ということは、店に入ってからまだあまり時間がたっていないんですね。
店主が一段落するまで、じっくりとメニューを選びましょうね。
ほぉ。この季節はメニューもおもしろい。アジのナメロウや穴子などの夏っぽい品が並ぶ一方で、カキ酢や湯豆腐などの冬のメニューもはじまって、あっちにも引かれ、こっちにも引かれといった状態です。
「お刺身盛合せ、お待たせしました」。色合いもよく盛りあわされたお刺身がこちらのカップル、あちらのカップルに出てきます。「マグロ、生ウニ、真鯛、…」と、店主がひとつひとつを指し示しながら説明しています。赤、黄、白とならんだ色合いもきれいなのですが、このウニ! すごいですねぇ。プリッと大きく身が張って、見るからにおいしそう。
さて、それじゃ私も注文しようかな、と思っているところへ、店主から「こちらのお客さんはインターネットをご覧になっていらっしゃったそうですよ。もしよろしければ、こちらに移られますか」と声がかかります。なんと。男女ふたり連れが2組と思っていたのに、入口側のお客さんはそれぞれ男性ひとり客と、女性ひとり客だったんですね。おすすめにしたがって、おふたりの間に入れてもらいます。
ひとしきりごあいさつを終えて、本日の一品目は“初物・三陸産”と書かれたカキ酢(600円)をお願いします。なにしろ“初物”なんて書かれていると、すぐにほしくなっちゃいますからねぇ。ちょっとだけ季節を先取った感じがいいですよね。
すぐに出てきたカキ酢。舟型の器に生のカキが盛られ、上に紅葉おろしと刻みネギがのっています。それとは別にポン酢醤油。
なんとねぇ。このカキは小粒ながらもプリッとふくらんで、つややかに灯りをはね返している。ちょっと揺すったらプリンのようにプルルンとなりそうなくらいの弾力感。う~む。食べるのがおしいくらいですねぇ。
よ~し。東北のカキには、東北の酒を合わせますか。「出羽桜(でわざくら)」(500円)をお願いします。
そこへ、勝手口から「こんばんは。いらっしゃいませ」とママさんが入ってきました。「今日は調子もいいし、なにか造ってみるか」とニッコリ顔。ママさんは、昨年体調を崩してから自宅で療養中。お店には食事会のときなどを中心に、ときどき顔を出してくれるのです。
プリップリのカキをつまみ、出羽桜をチビチビと飲(や)りながら、他のお客さんたちと話をしているところへ、ママさんから「ほらできたよ。熱いうちに!」と出てきたのは、イカ焼きです。イカ焼きと言葉で書いてしまうとちっとも珍しくないのですが、このイカ焼きは表面にウニとユズ胡椒が塗ってあって、実に贅沢。さっそくひと切れ口に入れると、熱々のイカの食感とともに、口の中にウニの風味がたっぷりと広がります。生のウニもうまいですが、こうやって焼いたウニもまた香りが高くていいですねぇ。ほらほら、みんなも。と、みんなでママさん作のつまみを分けあいます。
さて。お酒をおかわりしましょうか。日本酒のほうも、この季節らしく「冷(ひや)おろし」が出てるんですね。「冷おろし」というのは、去年の冬造られたお酒が、ひと夏を過ごして熟成され、秋になって外気温と蔵の中の温度が同じくらいになったときに出荷されるお酒です。この季節になると気温による酒質への影響がないため、火入れすることなく出荷できるというのが「冷おろし」の特長なのだそうです。荒々しかった新酒が、ひと夏の熟成でまろやかで濃くのあるお酒になるんですね。「秋上がり」とも言うんだそうです。
この店に出ている「冷おろし」は、奈良の「嬉長(きちょう)」。特別純米、本醸造、上撰と3種(各500円)ありますので、ひとつずついってみましょうか。まずは特別純米から。つまみにはイナダの刺身(500円)をお願いします。
イナダは、ブリの小さいやつです。ブリはご存知のとおり出世魚で、1歳くらいで15センチ前後のものをワカシ(関西ではツバス)、2歳くらいで40センチ程度のものがイナダ(関西でハマチ)、3~4歳で60センチ級くらいになるとワラサ(関西でメジロ)、そして5歳で80センチを超えてるくらいになってはじめてブリと呼ばれるのです。イナダ(ハマチ)級のやつは、四国の実家のほうではヤズとも呼ぶんですけどね。昔から好きな刺身のひとつです。
カウンターの奥側に座っている男女ふたり連れもご夫婦かと思いきや、そうではなくて、もう15年以上も続いている飲み友達なのだそうです。沼袋に住んでおられるのだそうで「いい焼き鳥屋さんがあるわよぉ」と教えてくれます。なにしろ、沼袋も「ホルモン」しか行ったことがありませんからねぇ。
本醸造の「冷おろし」に入ったくらいで11時頃になり、みなさん順々にお勘定を済ませて腰をあげ始めます。ホームページを見ていらっしゃったお客さんも、ご自宅が京成線沿線方面ということもあって、こちらにはめったに来られないご様子。「今度はぜひ堀切菖蒲園あたりで!」なんて話をしながら、店を後にされます。
そうなんですねぇ。三ノ輪、千住から堀切菖蒲園あたりの、いわゆる「酔わせて下町」地帯。かのページを見るたびに行ってみたいなぁと思いながら、さっぱり行くことができていないのです。会社の帰りとか、出張のついでといった行きかたはどうやらできそうにないので、こいつはいっちょう、どっかの土曜日にでも、そのためだけに出かけていかないといけないですねぇ。
最後は私ひとりになり、店主との会話を楽しみながらお酒をいただいていると、どやどやと男性3人連れが来店です。どっかで飲んで来られて、最後に自宅近くのこのお店にたどり着いたって感じです。「刺身の盛合せとぉ…」と、閉店間際にもかかわらず、けっこう大量の注文が入ります。ま、そこは個人経営のいいところで、お客さんがいて、注文が続いている間は閉店しませんからねぇ、ここも。
「ちょっとこれでもつまんどいて」と小鉢にちょいと盛られた生ウニと、別皿に焼き海苔を出してくれます。ちょうど刺身の盛り合せを作り始めたところのようで、生ウニの準備をしたついでに私にもちょっとおすそ分けで出してくれたんですね。さっき、となりのお客さんが食べてた刺身盛り合せを見て「すっごくきれいなウニですねぇ!」なんて騒いでいたのを覚えていてくれたんですね。
それじゃ、お酒も最後の上撰の「冷おろし」といきますか。
いやぁ。見た目もすごいですが、味のほうもさすがですねぇ。おいしいですよ、このウニは。お酒も、意外と上撰のバランスがよくて飲みやすい。ま。本日すでに4本(4合)目ですからねぇ。すっかり酔っ払い舌になってるとは思いますが…。
3人連れのお客さんたちのつまみを作り終えた頃合いで、私もおもむろに腰をあげます。けっきょく12時半まで、たっぷりと4時間半以上楽しんで今日は4,700円でした。どうもごちそうさまぁ!
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