初雪の中、鯛炭焼で一献 … 居酒屋「川名(かわな)」(阿佐ヶ谷)
こんな年の瀬になって、今シーズンの初雪です。しかも、降るとなるとどっさりと降って、外にはうっすらと雪が積もっている。
夕方になって、やっと小降りになったところで「川名」に出かけます。道路の雪はシャクシャクと気持ちいい踏み心地なんですが、歩くにつれてじわりじわりと冷たさが伝わってきます。今はいいんだけどなぁ。明日の朝には凍っちゃって大変なんだろうなぁ。
「こんばんは」。こんな雪の日に来る人がいるかなぁ、と思いながら入った店内はいつもの常連さんたちでいっぱい。カウンターには手前から例によって“1番のおにいさん”、“バンダナのおにいさん”とそうそうたるメンバーが勢ぞろい。あれ? “イトーさん”がいない。ミィさんが、「こちらへどうぞ」と、いつもは“イトーさん”の指定席である7番席にお通しのバナナのスライスを置いてくれます。カウンターで空いてるのはこの席だけといった盛況ぶり。みんな雪でも関係なく出かけてくるんですねぇ。
すぐ後ろのC卓に座っているのは“役者さん”。その“役者さん”に「こんばんは。寒いですねぇ」とあいさつしながら7番席に腰をおろします。
横に立って待っててくれるミィさんに「お酒の大きいのとマグロブツをお願いします」。「お酒は熱いの?」とミィさん。「そう。熱いのをお願いします」。「そうだよな。今日は熱燗がいいよな」と“役者さん”。
燗酒は「鬼ころし」という銘柄で、大徳利が504円。ッカァ~ッ。冷えた身体にこの熱さが心地よいですねぇ。温かさが身体中に染み渡るようです。
そしてマグロブツ。ちょっとスジっぽいものの、中トロまじりのマグロがたっぷりで、いつもながらこれが294円とは思えない。
さあて。燗酒とマグロでひと心地ついたところで今日のメニューの確認です。刺身系は今日はあまりなくて、マグロブツのほかはマグロ山かけ(294円)と白子酢(231円)くらい。今日はなにしろやってきたのが5時20分頃だったので、もしかすると他にもあったのに売り切れちゃったのかもね。
焼き物のほうはホタテ貝焼、焼ハマグリ、イカモロミ焼、ホッケ焼などが各231円。ん? 鯛炭焼(336円)なんてのがある。ネタケースを確認すると、やや小ぶりとはいえきれいな鯛(たい)がずらりとならんでいる。店主が気合いを込めて仕入れてきたんだろうなぁ。こいつはちょっといただいとかなきゃね。後ろを通りかかったミィさんを呼び止めて、鯛炭焼を注文します。
待つことしばし。出てきた鯛のうまいこと。なにしろ炭火焼ですからね。外はカリッと、そして中はジューシーに。いい火のとおり加減です。
6時が近くなってくると、最初に来ていた常連さんたちがひとり、またひとりとお勘定をすませて店を出ていきます。常連さんたちは、刺身(294円)1品に、サワーを2杯(336円×2)という合計966円コースの人が多い。こうやって2杯以内、千円以内で飲むことができると、肉体的にも、経済的にも毎日飲めるんですね。まさに練達の世界です。
私も鯛を食べ終わり、大徳利のお酒を飲みきったところで終了。ちょうど1時間楽しんで、今日のお勘定は1,134円。残念ながら千円以内にはおさまりませんでしたが、なにしろマグロを食べて、タイの尾頭付きを食べてこの値段というところが「川名」ですね。
「鯛、おいしかったでしょう」と店主。「ええ。ものすごくうまかったです。」「せっかくこんな鯛を仕入れたのに、食べてくれないんだよ、うちのお客さんたちは(笑)。昨日は280円(+税)で出してたんだけど、あまりに出ないから今日は値上げしたんだよ」と笑う店主。そうかぁ。今日でも十分安かったけど、昨日来ればこの鯛が294円で食べられたんだ。なんという安さか。
「ごちそうさんでした」と「川名」を後にし、向かうは早稲田通りの持ち帰りの「花すし」です。この店が明日、12月30日で閉店するという噂を聞いたので、最後にここの寿司を買って帰ろうと思ってるのです。
店の前に行ってみると「お知らせ」という張り紙が出ています。「12月30日を持ちまして閉店しました。利用して下さったお客様、応援してくださったお客様方、厚くお礼申し上げます。ありがとうございました。花ずし」と書いてあります。まだ12月30日にはなってないんだけど、すでに閉店後の体制になってるんですね。
「こんばんは」と店内へ。事前に電話でお願いしておいたので「はいはい。4人前ね。できてますよ」と4人分の握り寿司が入った袋を渡してくれます。
「明日で閉店なんですか」と確認してみたところ、「雑誌なんかにも載せてもらって、土日にはお客さんが来てくれるようになったんですが、平日が特にお客さんがいなくてねぇ。がんばってきたんだけど、やっぱりやっていけないんですよ。な~に。もうじいさんだから、引退ですよ」と淋しそうに笑う店主。
ここにちょいと車が停められるともっと商売になったかもしれないのですが、店の前がちょうどバス停だしなぁ。立地条件も悪かったのかもしれませんね。
なんだかちょっと悲しい思いで家路についたのでした。
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