辰巳新道のヘソ … 居酒屋「いずみ」(門前仲町)
「だるま」に続いての深川地域3軒目は、いよいよ辰巳新道です。深川地域は江戸の東南(辰巳の方向)に位置することから、昔から「辰巳」とも呼ばれ辰巳芸者に象徴される花街や、さらには洲崎遊郭(現在の東陽一丁目)などの歴史を持つ古くからの遊興の町なのです。昭和20年3月の東京大空襲でこの界隈がほぼ焦土と化してから、その復興はバラック建ての家屋からはじまりました。その当時の色合いを強く残した飲み屋街がここ辰巳新道です。
通りの中には九尺二間(間口(まぐち)九尺(約2.7メートル)奥行二間(約3.6メートル))に区切られた店が30軒近くひしめき夜な夜なにぎわいを見せています。そういう狭い店だから、通りの中には共同トイレが用意されていて、われわれは“門仲のションベン横丁”と呼んでいたものです。
職場がこっちにあったころはここにもよく飲みに来ていたのですが、部署ごとに行くお店が大体決まっていて、飲んでるときはあまり合うことはない。ところがトイレに用をたしに行くと、他の部署の知り合いとバッタリと会ったりして「よぉ。そっちも来てたの?」なんて盛り上がったもんです。
立ち並ぶ店の中で「こっちこっち」と手招きされて入ったのは吉田類さんが“この店が辰巳新道のヘソですよ”と言う居酒屋「いずみ」です。
辰巳新道はものすごく単純化するとアルファベットの“y”の字型をしていて、「いずみ」はちょうどそのyの分岐点のところにあるので“ヘソ”なんですね。ちなみに、私たちがよく行ってた(今もときどき行ってる)スナック「エコー」も、その「いずみ」のはす向かいにあります。
「いずみ」は小さいU字型カウンターひとつだけの店内。Uの左側に先客の男性客がふたりおり、われわれ6人はUの下から右側にかけてずらりと陣取ります。
「いつもここのママさんに元気をもらいに来るんですよ」と類さんが語るママさんは、辰巳新道のほかのお店と同じく年配の女将さん。ニコニコ笑顔がさわやかで見るからに明るそう。そのママさんから「類ちゃんずいぶんご無沙汰じゃない。ボトル入れるでしょ」と声がかかります。辰巳新道内にはスナックや、ここ「いずみ」のような小料理屋風の居酒屋がならびますが、だいたい焼酎のボトルを入れてそれを飲みながらカラオケを歌うといった楽しみ方になっているようです。「うん。そうしよう」という類さんの言葉に、新しい焼酎ボトルの封が切られ、みんなにグラスが回されます。カンパ~イッ! 本日3度目となる乾杯で三次会もスタートです。
「まずママが歌ってよ。いつもの能登の歌がいいなぁ」と類さんがリクエスト。「じゃあ、やるか」と本日の1曲目、坂本冬美さんの「能登はいらんかいね」が入ります。「山に登る前はね、いつもこの店に来て、ママさんにこの歌を唄ってもらってから山に行くんですよ」と類さん。そういえば今週も類さんは京都へ取材旅行ですもんね。元気をもらっとかなきゃいけないですね。
そのママさんの熱唱に引っ張られるようにみんなも次々と唄いはじめます。
「こういう飲み会もおもしろいでしょう」と類さん。本当に。小さいカウンターということもあって、だれかが唄うと知ってるところはみんなで大合唱になったりして実に楽しい。飲んで唄って、唄って飲んで。
お店には女性のお客さんも3人ほど入ってきて(ひとり客とふたり客)、ますますにぎやかに華やかになってきます。この人数(全部で11人)で店内は満席です。
さて。いよいよ辰巳新道らしく共同トイレに行ってこようかな。すると類さんが「実はこの裏手に隠れた共同トイレがあって、それは本当の常連さんしか知らないんですよね」。えぇっ! それは知らないです。こっそりと場所を教えてくださいとお願いし、秘密のトイレの場所を教えてもらいます。けっこう辰巳新道も来たのになぁ。まだまだ知らないことが多いのがおもしろい。
そして、類さんが店に入ったときからママさんにお願いしてた座頭市の唄が、やっとやってもらえることになりました。「やっぱりこの歌は明かりを消してやらなきゃ」という類さんの声に、店内の照明が消され、ロウソクの火が灯ります。ママさんは座頭市の杖に見立てた箸でカウンターをトントンとつきながらの大熱唱。店内の盛り上がりはピークに達します。
ド~ンと盛り上がったところで、残念ながらこの店の閉店時刻である午後12時。ついに真夜中です。お勘定は6人で17,200円(ひとり3千円弱)でした。どうもごちそうさま。
店を出てみると向かいの「エコー」もすでに閉店。12時だもんなぁ。もう電車がないぞぉ!
・店情報
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