類さん登場! … 居酒屋「川名(かわな)」(阿佐ヶ谷)
ひとりで静かに飲もうかと、会社の帰りに立ち寄ったのは阿佐ヶ谷の焼鳥割烹「川名」です。「川名」でひとり静かに? と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、実は「川名」こそ群衆の中の孤独で静かに飲める店。ひとりでカウンターに座ることができれば、ほんとにボォ~ッと気持ちよく過ごせるのです。
「こんばんは」と店に入ったのは午後9時前。「いらっしゃいませ」と声をかけてくれたのはおかみさんとミィさん(手伝いの女性)。今日はこのふたりが店内を切り盛りしているようです。
7席ある直線カウンターは、入口側から2番目と4番目の席が空いていて、他は埋まっている。テーブル席もそこそこの入りです。ま、金曜日の夜ですもんね。空いているカウンター2番の席に陣取ります。座ると同時に、すでに横まで来てくれてたミィさんが、お通し(無料)のオレンジ2切れがのった小皿と生グレープフルーツサワー(336円)をカウンター上にトンと置いてくれます。「今日はマスターは?」「マスターは今日は早あがり」とミィさん。へぇ、そうだったんだ。エプロンからレシートを取り出すミィさんに、カウンター向かいの壁に掲げられた今日のおすすめボードの中からタイの刺身(294円)を注文します。
となり(入口から3番目)に座ったおにいさんも今しがた来たばかりらしく、瓶ビールをもらって豚軟骨もつ煮込み(231円)を注文しますが、残念ながら煮込みは売り切れとのこと。ここの煮込みは店内でも人気だし、店の外ではお持ち帰り用にも売ってるので、夜になると売り切れちゃうことも多いんですよね。「湯(ゆ)ギョウザ(399円)ってどんなのですか」というおにいさんの質問に、ん~、とちょっと考えたミィさん。「野菜スープで煮たギョウザです」。たしかにそうですねぇ。うまい答えです。「じゃ、その湯ギョウザと焼き鳥丼をください。」「焼き鳥丼はちょっと時間がかかりますが、いいですか?」と確認するミィさんに、「はい。いいです」と返事するおにいさん。どうやら、この店にはあまり慣れていない様子です。
そこへタイ刺しがやってきます。おっ。どうよ、このタイは。身が飴色(あめいろ)だもんね。タイのような白身魚は、真っ白な身よりも、こうやってちょっと飴色がかった身のほうがうまいように思います。
となりのおにいさんのところにも湯ギョウザが届きます。ひとり用の小鍋にたっぷりの湯ギョウザ。それをれんげですくって食べはじめます。「美味しそうですねぇ」。今日はひとり静かに飲もうと思っていたのに、ついつい声をかけてしまいます。「はい。おいしいです。いつも表(おもて)で焼き鳥や煮込みを買って帰ってたんですが、店の中が楽しそうで。一度入ってみようと思って、今日は来てみたんです」とニコニコと答えてくれるおにいさん。
生グレープフルーツサワー(336円)をおかわりし、次にたのんだ肴は「焼きハマグリ」(231円)です。昨日(3月3日)がひな祭りだったんですね。
ブィ~ンとマナーモードにしている携帯電話が振動します。ん、と待ち受け画面を見ると、なんと酒場詩人・吉田類さんからの電話です。店内は携帯電話禁止なので、いったん入口を出て電話をとります。「もしもし。吉田類ですけど…」。類さんはいつもご自分のことをフルネームで名のられるのです。「今、新宿にいるんですが、以前お話をうかがった、阿佐ヶ谷の「川名」でしたっけ? そこに行ってみようかと思ってるんですが、どのあたりなんでしょう?」と類さん。えぇ~っ! 今その「川名」で飲んでるんですよ! 「それはちょうどよかった。阿佐ヶ谷に着いたらまた連絡しますから、ナビゲートしてください」。はいはい。それはもう喜んで。
吉田類さんにしても、太田和彦さんにしても、みなさんから「ここがいいよ」とすすめられたお店に精力的に出かけられるという姿勢がすごいですよね。「いい酒場を知りたい」という気持ちにあふれています。それに引き換え私のほうは、みなさんからご紹介いただいている酒場の数が増える一方で、全然出かけることができていませんねぇ…。
席に戻るとちょうど「焼きハマグリ」ができあがったところ。炭火で焼かれた小ぶりのハマグリが5個。パカンと開いた貝殻の中に見える身は、焼き立てでホワンと湯気があがっていて見るからにおいしそう。さっそくまず1個に手を伸ばします。くぅ~っ。このプリンとした食感、そしてしっかりとしたコクの身の味わい。いいなぁ。
となりのおにいさんはこれまたおいしそうな焼き鳥丼を食べ終えて、「店内もほんとに楽しいですねぇ。また来ます」とうれしそうな笑顔を私に向けてくれながら席を立ちます。良かった良かった。またぜひお店でお会いしましょうね。
私も3杯目となる生グレープフルーツサワー(336円)を注文し、肴はなんと「ナチュラルチーズ」(294円)です。この店でチーズがメニューにあがるのははじめてじゃないかなぁ。しかも6Pチーズなどのプロセスチーズではなくて、ナチュラルチーズですから驚きです。チーズは牛乳を乳酸菌と酵素で発酵させてできるのですが、その乳酸菌や酵素が生きたまま含まれているのがナチュラルチーズ。それを加熱処理して乳酸菌を殺菌し、酵素を破壊したものがプロセスチーズです。熟成させた味わいの深みや乳酸菌の薬効などはナチュラルチーズのほうが高いのですが、品質の安定と長期保存という面ではプロセスチーズが優れているのだそうです。
そこへ吉田類さんから「阿佐ヶ谷駅に着いた」という電話が入ります。「旧・中杉通りを10分ほど北上していただくと左側角にあります。向かいはセブンイレブンです」と伝えます。なぜこんな簡単な道案内でいいかというと、類さんは以前、阿佐ヶ谷に住んでおられたからなのです。だからたったそれだけの道案内で「あぁ。あのあたりね。大体わかりました」と電話が切れます。
でてきたナチュラルチーズは、この値段(294円)ながら小皿に3種盛り。3種はハードタイプとかセミハードタイプと言うんでしょうか、すべてしっかりした(つまりカマンベールみたいにトロンとしてない)タイプのチーズです。大衆酒場にチーズはつきものですが、ナチュラルチーズとはねぇ。すばらしい。
ガラリと入口引き戸が開いて吉田類さんの到着です。「こんばんは。ごぶさたしてます」とごあいさつをしつつ、カウンターから後ろのテーブル席に移動します。「なにを飲まれてるんですか?」と類さん。「これは生グレープフルーツサワーなんです。」「じゃ、私も同じものをひとつ」。すぐに横に来てくれていたミィさんにサワーを注文です。
すぐに届いた生グレープフルーツサワーで乾杯し類さんと飲みはじめます。前回の深川での飲み会の後、吉田類さんは京都方面への取材旅行に出かけられてたのですが、「初日はその名も「スタンド」という酒場からはじめて…」と、そのときの様子や、速報として書かれた夕刊フジの記事などを見せていただきながら、古都・京都の酒場話しに花が咲きます。京都もさすがに歴史をもった街だけあって、いい酒場がそろってるんですねぇ。類さんは現在そのときの取材記事のまとめに大いそがしなのだそうです。
類さんも私もサワーをおかわり。私はこれで4杯目。大体3杯が限度で、それを超えると泥酔状態に入っていくんだけどなぁ。大丈夫かぁ!?>自分
「川名」の店内やメニュー、そして集まったみなさんの飲みっぷりなどを見ながら「ご主人はいないのかなぁ」と類さんは店主と話がしたい様子。「残念ながら今日は早あがりらしいんですよ」と言いながら、入口のところに置いてある店の名刺を取ってきて類さんに手渡します。
と、そこへフラリと入ってきたのはなんと青地さんです。青地さんは吉田類さんとともに森下賢一さんの句会のメンバーで、昨年末の森下さん、類さんとお会いする機会を作ってくれた方でもあります。青地さんも吉田類さんと私が飲んでるのを見て驚いている様子。わぁ、なんたる偶然、なんて互いに喜びあいながら、青地さんもわれわれのテーブルに加わります。
「ミィちゃんが一番厳しいんだよな」というカウンターのお客さんの声が聞こえてきます。この店ではみんながあまり飲み過ぎてしまわないように、ある程度の量を飲むとおかわりをしても「もうダメです」と断れれることがあるのですが、その仕分けが一番しっかりしているのがミィさんのようなのです。とはいえ、いつもほんわりと笑顔のミィさん。その笑顔のままで「もうダメですよ」と言われるので、言われた客の側もなかなか反発できないんですねぇ。
なんでもないようで、店の秩序を一定の状態に保つのは大変なことのようです。飲み方がだらしなかったり、他のお客さんに迷惑をかけるような飲み方をするお客がいる場合には、きびしくそれをいさめ、場合によっては出入り禁止にしたりすることも重要なのです。これができないお店はアウトローのたまり場のようになってしまって、店の空気が悪くなってしまうのでした。この界隈でもときどきそういう感じのお店を見かけるのが残念です。
「ラストオーダーの時間です」とそのミィさんが注文を取りにきてくれます。ここは11時でラストオーダー。この時間をもって計算を行い、11時半の閉店時刻を迎えるのです。「追加はありません。どうもありがとう」。久しぶりに迎えたラストオーダー時刻の「川名」です。たいてい早い時間帯に来てたからなぁ。類さんや青地さんも追加はなし。でもなんだかまだ話し足りないなぁ。「「八千代」が2時まで開いてるから「八千代」に行きましょう!」という提案があり、あっという間に決定。じゃ、善(?)は急げでさっそく向かいましょう、と3人で席を立ちます。
3人別々にレシートを付けてくれていて、私は今日は2,163円。「ありがとうございました」と笑顔で見送ってくれるおかみさんとミィさんに「ごちそうさま」とあいさつしながら、4杯のサワーにふらつく足取りで、3人で店を後にしたのでした。
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