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男の波止場 … 酒亭「堀(ほり)」(横浜・新杉田)

横浜での仕事を終えて、先日教えてもらった「堀」を、今度はひとりで再訪です。そう。元・銀座のママさんのお店ですね。

「こんばんは」と入口引き戸をあけたのは午後7時過ぎ。「いらっしゃいませ」。今日もにっこり笑顔で迎えてくれる女将(ママ)さんです。そうそう。この笑顔でしたね。

L字型カウンターだけ(テーブル席や奥の座敷もあるようですが通常は使われていないようです。)の店内は先客はふたり。L字の左側を入口とすると、Lの下の辺のところに座っています。私も空いているL字の左側に腰をおろし、今日もビール(サッポロ、中ビン、600円)からスタートです。

奥のお客さんは前も同じ席で飲んでいた角瓶をキープしているお客さん。そして私に近い側の人ははじめてお目にかかりますが、年配の男性ひとり客です。今日のお通し(推定400円)は野菜、貝柱、高野豆腐(こうやどうふ)などの煮物が盛られたガラスの小鉢。

私の近くのお客さんは、ひとしきり飲んでもう帰ろうかとしているところ。女将さんがお持ち帰り用らしきおにぎりを2個作っています。ふんわりと手で握ったおにぎりのおいしそうなこと。最後に海苔を巻いてできあがりです。そのおにぎりを受け取ったお客さんは「どうもごちそうさん。それじゃお先に」と奥のお客さんに声をかけ、私のほうにもちょいと頭を下げて店を出て行きます。仕事帰りにここでひとしきり飲んで、家で風呂にでも入ってからゆっくりとおにぎりを食べるんでしょうね。

奥のお客さんはウイスキーの水割りを飲みつつもカレーを注文。へぇ、と思いながら見ているとちょっと深めのお皿にカレーだけをついでおつまみとして出されます。「私もカレーをください。」「同じでいいの? ごはんなし?」「そう。おつまみでお願いします。」「は~い」と同じお皿に、同じようにカレー(これも推定400円)をついでくれます。こうやって食べるとカレー味の肉野菜煮込みって感じですよね。ちょっと辛めでビールが進みます。

「お酒を燗でお願いします。それとおしんこ」。ビールに続いては燗酒の注文です。ここのお酒は「剣菱(けんびし)」(400円)。注文を受けてから燗をつけてくれます。

この近くの小料理屋風の酒場は、カラオケが主体で飲み物はほとんどがボトルキープの焼酎。日本酒なんてたのもうもんなら「お銚子はどこだっけ?」みたいなお店も残念ながら多いのです。このお店のようにカウンター奥の棚に徳利がずらりとならんでスタンバイされてると、それだけでとってもうれしいですね。

「はい、どうぞ」。女将さんがカウンターの向こうからお酌してくれます。あららぁ。なんだか日本映画のワンシーンのような。はいどうも。あぁ。もう日本酒の味なんてどうでもいいくらいおいしく感じます。

おしんこ(400円)は、残念ながら袋入りの市販品なんだけど切り方や盛り方をが工夫されてて、見た目にもおいしそう。小茄子(こなす)に大根(だいこん)、胡瓜(きゅうり)と、これはべったら漬けですね。

「この近くは昔は、ここも含めて飲み屋が数軒しかなかったからねぇ」と奥のお客さんが話してくれます。奥のお客さんはご自宅がこの近所なのだそうで、昔からこのお店で飲んでたのだとか。「新杉田駅なんて、まだできて新しいからね。それより前はなんにもなかったんだ。造船所の景気がよくてねぇ。毎日真っ黒になった男衆が正門から続々と出てくるんだけど、飲み屋は数軒。大盛況だったねぇ、どの店も」。「そうねぇ」。女将さんはあいかわらずおっとりと、にっこりと、おだやかです。

お酒(400円)のおかわりをお願いします。

「僕はそろそろ帰ろうかな。ママ、お弁当作ってもらえる」。「はい。お弁当ね」と返事した女将さんはカウンターの中でニコニコとお話しを続けながらも手は野菜を刻んだりしはじめます。挽き肉と野菜をフライパンでジャーッと炒めて、いったん皿に取り、続いては溶き玉子を投入。シャララッとかき回して、さっきの具を入れてクルクルっと丸めます。カウンターの外とにこやかにおしゃべりしながらも、きれいな具入りオムレツのできあがり。さすがですね。

お持ち帰り用のパックにあったかいご飯をよそい、その横にさっきのオムレツ。さらにはおしんこが添えられます。さっきのおにぎりもおいしそうだったけど、こっちもいいなぁ。

「今日は高いわよ」と女将さん。奥のお客さんのお勘定は8千円弱です。なるほど。角瓶の新しいボトルが入ったんですね。ボトルが入ってこの値段なら、そう高くはないかも。

「じゃ、お先に。ごちそうさん」とお客さんが出ていきます。おそらく毎日近くこの店にやってきて、最後に今日の晩ごはんを作ってもらって帰るのが日課になってるんでしょうね。おにぎりを作ってもらってたお客さんもきっとそう。まるで1日の終わりの波止場のようなお店なんだなぁ。

さぁ。それじゃ私も腰を上げますか。どうもごちそうさま。9時までの2時間弱の滞在で、今日は2,600円でした。

コートを着て席を立つと、女将さんがカウンターをまわって出てきてくれて、お店の外で「どうもありがとうございました。またいらしてください」と見送ってくれたのでした。感激!

店情報 (前回)

《平成17(2005)年3月10日(木)の記録》

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コメント

いつも楽しみにしています。

投稿: 柳橋 卓美 | 2005.04.04 17:47

初めまして。
居酒屋関係のブログないかな~と探していたら辿り着きました。
とても面白いです!じっくり読ませていただきます。
TBもさせていただきましたので、よろしくお願いします。

投稿: 小林麦酒 | 2005.04.04 18:09

まるで小津映画の一場面のようですね。原節子扮するヒロインが北鎌倉の自宅で寂しくで待っているような。

投稿: ロメオ | 2005.04.04 23:15

コメントありがとうございます。>みなさん
毎年恒例の年度がわりのゴタゴタで「伊東さんと行く横浜居酒屋ツアー」もなかなか第3回が実現できていませんが、ボチボチと伊東さんにお願いせねばと思っているところです。
横浜界隈にも知らなかった名店がいろいろとありそうでワクワクものです。(^^)

投稿: 浜田信郎 | 2005.04.10 23:26

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