青梅街道の人気店 … やきとり「屯(とん)」(新高円寺)
新宿での仕事が終わり地下鉄丸ノ内線で新高円寺へ。以前、バスの中から見えて気になったやきとり「屯(とん)」に行ってみようと思っているのです。
私が知っている人気のもつ焼き屋はたいてい表通りからひとつ入ったような路地の中にある。たとえば「ホルモン」「秋元屋」「春」「カッパ」「縄のれん」「たつや」「四文屋」などがそうですね。それに対してここ「屯」は青梅街道に面して店がある。こんな大通りに店があるのも珍しいですよねぇ。だからこそバスから見えるわけですが。(とはいえ、大通り沿いのもつ焼き屋がまったくないわけではなくて「山利喜」「埼玉屋」などは大通りに面してます。)
よいしょ、と気合いを込めて入口引き戸を開けて店内へ。今でも新しい店に入るときには気合いがいるのです。店内は右手が後ろに厨房スペースがある普通の直線カウンター、そして左手が壁に面した直線カウンターという、全体としてみれば内側に人が座るタイプの2列平行カウンターです。しかも、右手のカウンターも、左手のカウンターも奥行きは同じ。しかも、右手のカウンターも、厨房スペースとの間に大きなネタケースがど~んと乗っかっているので、目の前に壁があるのとほとんど同じ状態。つまりどっちかがメインカウンターで、どっちかがサブカウンターという造りでもないようなのです。
5時半近い時刻ですが店内に先客はなし。カウンターの内外にいる店員さん5人(男性4人、女性1人)から「いらっしゃいませ」の声がかかります。右手手前の焼き台の前に陣取るか、それとも少し奥まで進むかちょっと迷いながら取りあえず右のカウンター中央部まで進んで腰をおろします。焼き台のところにいるのが店主っぽいので、その近くには常連さんが座るんじゃないかなと思ったからです。だいたいカウンターの端々というのは決まったお客さんがつきやすい席なんですよね。
もつ焼き屋さんや大衆酒場などで座るときはコートなども脱がないで、せいぜい前のボタンをはずして座るくらいのほうがいいみたい。コート置き場なんてないことが多いし、そんな場所があったらひとりでも多くの酒好きが座れたほうがいいですもんね。
そうやってコートのボタンをはずしつつ、目はカウンターに立て掛けられたメニューを追います。「いらっしゃいませ」とお手拭きを持ってきてくれたおにいさんにホッピー(350円)ともつ煮込み(350円)をお願いします。(カッコ内の価格は税抜きで表記しています。店内のメニューには税抜きと税込みの両方の値段が表記されています。これ以降の価格表記も同じく税抜き価格です。)
すぐに出てきたホッピーは、荻窪の「やき屋」と同じスタイル。つまりサワーグラスに氷と焼酎が入って出てきて、それとは別に栓が抜かれたホッピーの瓶が出てきます。「やき屋」との違いは、こちら「屯」のホッピーにはレモンスライスが入っていることと、あとこちらにはマドラーがないことでしょうか。
焼酎の量も「やき屋」と同じで、グラスにたっぷりとホッピーを注いでも、瓶の3分の1くらいしか入らない。ホッピー通たちが言うところの「外1中3(そといち・なかさん)」、つまり瓶入りホッピー(ソト)1本で、焼酎(ナカ)が3杯いけるというペースなんですね。
「お通しです」と出てきたのは平皿に盛られたぶつ切りキャベツと小鉢入りのワカメです。「こちらに味噌がありますので」と目の前の壺をちょっとこちらに押して示してくれます。見ればカウンターの3人にひとつくらいの間隔でこの壺が並んでいる。ほほぉ。東松山あたりではやきとり屋に行くと「つける味噌ダレ」が置いてあるという話を聞いたことがありますが、これのことかな!? 実は横浜の焼き鳥屋にも「つける味噌ダレ」がある店が多いんですよね。
その味噌ダレをキャベツの横にたっぷりととって、キャベツ1枚を丸めてツンと味噌をつっついていっただきまぁ~す。おぉ。ちょっとピリ辛の味噌がうまい。
もつ煮込みも出てきました。深い丸皿に盛られた煮込みは大根やコンニャクも入ったミソ味のもの。「うわぁ~っ」とか、「どひゃぁ~っ」といった感じではないのですが、ごくごく普通にうまいというのがいいですね。まさに安心の味わいがもつ煮込みです。(ただし、まずい店にあたるととても食えたもんじゃないほどひどいつまみになるというところが内臓(もつ)系の恐いところでもあるんですけどね。)
ガラリと引き戸が開いて、ジャンパー姿の年配の男性ひとり客。お。やきとり屋さんらしくなってきたかな。なにしろひとりじゃねぇ。
店はそれほど広いわけではなくて、カウンターはそれぞれ8~9人ずつ、両側でも20人はいかないくらい。店の奥のほうがどうなってるのかはわからない状態ですが、もしかすると小上がりかなにかもあるのかなぁ。
追いかけるようにもうひとり。待ち合わせてきたのか、たまたま知り合いだったのか、先ほどの男性ひとり客に「よっ」とあいさつしてとなりに座ります。このふたりが座っているのはちょうど私の後ろ側。前、後ろの間隔がそれほど広くはないのでなんか変な感じですねぇ。
コロン。ホッピーの最後のひと口を飲み干すと、氷が手前に転がってコロンと音が出るのです。その音に、たまたま近くにいたおにいさんが「ナカ?」と聞きながらコップを取りにきてくれます。ついでに焼き物もお願いしましょうか。1本ずつでも大丈夫ですか。じゃ、「とん(カシラ)」、「れば(豚レバー)」、「こつ(豚軟骨)」を1本ずつ、塩でお願いします。こういう定番もののもつ焼きは1本100円です。
まず出てきたのはレバー。これはおもしろい。ひとつひとつのレバーの間に玉ねぎがひと切れずつはさんである。博多の焼き鳥はこういうスタイルなんですが、こちらではあまり見かけませんよねぇ。レバーの焼き加減がまたいいですねぇ。内部はトロッとした状態で仕上がっています。
次の皿はトン(カシラ)とコツです。この店では焼き鳥も焼きとんも両方とも扱っていて、鳥のほうにも、豚のほうにも軟骨があるため、鳥のほうをナンコツ、豚のほうをコツと呼び分けているんですね。これまた焼き具合がちょうどいいですねぇ。
数人いるおにいさんのひとりがフロア内を担当しているので、お酒のおかわりなどは非常にしやすい。ふっとそのおにいさんのほうを向いて「ナカください」と普通の声で注文するのでOKです。大規模チェーン店で「す・み・ま・せぇ~~ん!」なんて大声を出しても知らん顔をしてとおり過ぎて行ったりするのとくらべると雲泥の差ですね。こんなところが居心地のよさに直結します。
ナカが届いたところで、今度は鳥のほうをもらってみましょうか。「とりはつ(鶏の心臓)」と「つくね」、「ずり(砂肝)」を1本ずつ(各100円)。今度も塩でお願いします。
鶏ハツはもともと大好物なので言わずもがなのうまさ。ツクネは1串に3個刺さってるのですが、これがまた練り物好きにはたまらぬ仕上がりになっています。おもしろいのはズリで、形がそろった小ぶりのものが、まさにズラリと串にならんでいる。これもいい味ですねぇ。
当初の予定どおりホッピーはナカを2回おかわりするとちょうど瓶入りホッピーがなくなりました。
今日は初回でもあるし、このあたりで切り上げることにしましたが、メニューには他にも「水ぎょうざ」(250円)、「鳥もつ鍋」(500円)など、心ひかれる品がならんでいます。これらもまた食べに来たいですね。
この店はお勘定は自分の席でするスタイルを採っているようです。「どうもごちそうさま」と声をかけると、「ありがとうございました」と返事したおにいさんがカウンターの中でシャカシャカと計算をはじめ、そのレシートを席まで持ってきてくれます。「2,153円です」。
約1時間半の滞在。だんだんとお客さんが増えてくる店を後に自宅へと向かったのでした。
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