トリュフのパイ包み焼き … フランス料理「北島亭(きたじまてい)」(四ツ谷)
故郷(いなか)から友人が上京し、久しぶりに向かったのは彼が20年以上行きつけにしているフランス料理の「北島亭」です。(「北島亭」自体は平成2(1990)年9月の開店なのですが、それ以前は北島シェフが居た「ドゥ・ロワンヌ」や「パンタグリュエール」に行っていたのだそうです。)
「バクダンだけ予約してあるからな。後はその場で選ぼう」という事前連絡が入っています。我われが「バクダン」と呼んでいるのは「トリュフとフォアグラのパイ包み焼き」のこと。毎年これくらいの季節になると出てくる「北島亭」自慢の一品のひとつなのです。
友人の家族とともに4人でテーブルを囲み、まずはシャンパン(クリュッグ・グランキュベ)を飲みながらメニュー選びです。
「メインはエゾ鹿にしようか」なんて話になったのですが、残念ながらエゾ鹿は1人前くらいしか残っていないとのこと。それをもらうことにして、その他にメニューには2人前として載っている「仔羊の塩包み焼き」を3人前でお願いすることにしました。
魚も1品はいただきましょうか。「金目鯛の皮カリカリ焼き」がいいかな。
それじゃ、前菜。まずはいつものように「生ウニのコンソメゼリー寄せ」を4人分と、あとは「ホワイトアスパラとトリュフ」と「アカザエビとホワイトアスパラ」をそれぞれ1人前ずつといきましょう。
まずアミューズとして出てきたのは、小鉢にちょんもりと盛られたニンジンの細切りのサラダです。こういうスタートも珍しいですね。口の中がさっぱりとした感じになります。
追いかけるように出てきたのはひとりに1個ずつの生ガキ(カクテルソース)。ひゃぁ~っ。見るからにうまそぉ! カキの殻に唇をつけてつるりと口中へ。この冷たさ。ふくらむうまみ。カキ自身のもつ塩加減も抜群です。
そして「生ウニのコンソメゼリー寄せ」。「北島亭」と言えば…、と言われるほどの名物メニューがこの一品。ウニのやわらかさと、コンソメゼリーのやわらかさがほとんど同じ感じで、口の中でとろりと溶けていくのです。シャンパンも進みますなぁ。
続いては大きなホワイトアスパラが、まるで筏(いかだ)のように3本並んだ長方形皿がふたつ。ひとつは「ホワイトアスパラとトリュフ」で、もうひとつが「アカザエビとホワイトアスパラ」です。小皿に取り分けていただきます。これもまたこの季節ならではの食べもの。甘みの中に感じるほろっとした苦さが、まさに春の味わいですね。
さぁ。満を持しての登場はバクダン、「トリュフとフォアグラのパイ包み焼き」です。これはひとりに一皿ずつ。お皿の上には、まるで大きなパンが1個コロンと置かれているような形で、できたて熱々のパイが1個。ナイフとフォークを手にもって、そのパイに思いっきり鼻を近づけ、パイのてっぺんにサクッとナイフを入れます。どかぁ~んとあふれるトリュフの香り。むおぉぉぉっ。こいつはすごいぞぉ。パイの中には1辺2センチくらいの立方体のトリュフがたぁ~っぷり。その立方体にまとわりつくようにフォアグラがとろり。フォアグラが主役で、トリュフが脇役って料理はよく見かけるのですが、この「トリュフとフォアグラのパイ包み焼き」では主役の座がまるで逆転。あくまでも主役はトリュフなのです。
その立方体を1個フォークに刺して、パクンと口に放り込みます。トリュフのこのコリコリとした食感はどう表現したらいいのでしょう。生の栗とか、そんな感じかなぁ。弾力感はほとんどなくて、とにかく硬質なコリコリ感なのですが、硬くはない。噛むにつれ、トリュフのガスっぽくも感じる独特のいい香りが鼻の奥からどんどんあふれてきます。この香りは、ごくんと飲み込んでからも、お腹の中からうわぁ~っと盛り上がってきます。
このシーズンはとにかくトリュフが高くて、一番高いときはキロ25万円くらいしたのだそうです。今でも20万近い。そのトリュフが今回のパイ包みの中には50グラム入っているのだとか。仕入れた1キロがすべて使えたとしても、50グラムだとトリュフ分の材料代だけで1万円ですからね。ずっと前は80グラムくらい入っていたものが、年々ちょっとずつ減ってきて今はこれくらい。それでも1皿1万円以上、いやむしろ2万円に近いくらいの価格設定になってしまいます。
ちょうどトリュフを食べ終わったところでシャンパンもなくなり、次は赤ワイン、ボンヌマール[2000年](デュジャック)をいただきます。
料理のほうはメインに移り、「金目鯛の皮カリカリ焼き」です。先ほど厨房から「これを焼きます」と立派な金目鯛を見せに来てくれたのですが、その金目鯛が美しく焼きあがっています。ここは「肉を焼かせたら右に出るものはいない」と言われるくらい焼き肉で有名なお店なのですが、その技は焼き魚にもそのまま反映されていて、表面はカリッと、内部はトロッと、実に絶妙の焼き加減で焼きあがった魚は他では味わったことがないほどです。
「仔羊の塩包み焼き」の大きな肉の塊りとともに厨房から現れたのはなんと北島シェフその人です。これはまたものすごくきれいなピンク色ですねぇ。「これからこれを切り分けていきます」と説明してくれます。こうやって切る前の状態を見せてくれたということは、シェフも満足のいく仕上がり具合だったんですね。これはうれしい。
数分後には1皿のエゾ鹿と3皿の仔羊が出てきます。エゾ鹿の肉を一切れずつもらい、逆に他の3人から仔羊の肉を少しずつエゾ鹿のお皿に。これで全員が両方の肉を楽しめます。見た目もそうでしたが、食べてもやっぱりうまいですよね。さすが「北島亭」の焼き肉です。
これでちょうど大満腹状態。メニュー選びをするときは空腹状態で選ぶので、ついあれもこれもと注文しすぎて、途中でギブアップするくらいのこともあったのですが、最近はちょうど満腹になる分量がつかめてきたように思います。
我われは午後7時から食べ始めたのですが、午後9時を過ぎるころにはお客さんたちも帰りはじめて、店内は我われのグループだけ。厨房の中からシェフも出てきました。
そこで、もう一度シャンパン(クリュッグ・ヴィンテージ[1990年])をいただいて、シェフも一緒に飲み直しです。北島シェフは「レストランをやってて本当によかったと思う。毎日毎日テンションをあげて仕事にかからないといけないので大変なんだけど、自分でこれはと思って仕入れてきた材料の味がうまく引き出せたときは最高の気分になる」と語ってくれます。「いい家やいい車なんかはまったく欲しいとは思わないが、いい厨房といいスタッフは欲しい。やっぱり人ですよ」と北島シェフ。
シェフが料理のことやレストランのことを話すときには、目をキラキラと輝かせながら、まるで少年のように語ってくれます。本当に楽しくて楽しくて仕方がないといった思いがガンガンと伝わってきます。この思いが料理を通してお客さんにも伝わるんですね。だからいつも予約でいっぱいなんだろうと思います。
「これじゃ満足できないだろうと思うから、ついつい多めに出してしまう。お客さんから、多すぎて食べられないよと言われて、量を減らすこともあるんだけど、またすぐにもうちょっと、もうちょっとと多く出してしまうんですよねぇ」と笑うシェフ。愛情たっぷり、量もたっぷりが「北島亭」ですからね。
最後にデザートのシャーベットとエスプレッソをいただいて今回も大満足・大満腹で「北島亭」を終了します。どうもごちそうさまでした。
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コメント
居酒屋礼賛には似つかわしくないお店の登場ですね
投稿: albega | 2005.03.14 16:52
たしかに「北島亭」は居酒屋ではないのですが、店主の一所懸命さが大好きで書いているような次第です。> albegaさん
とにかくいいものを求めて早朝から築地を走り回る北島シェフと、限られた予算の中でいいものを求めて走り回る「川名」の店主。
どちらの店主もお話をうかがうととにかく「お客さんに喜んでもらおう」という愛情がたっぷり。
ともに「店主」(=社長!?)という立場ながら「儲けてやろう」なんてことはまったく思ってないみたいなのです。
「北島亭」と「川名」とでは、単品の設定価格は数十倍くらい違ってますが、なんだか似たものを感じてます。
投稿: 浜田信郎 | 2005.03.19 07:39