故郷(いなか)からワイン好きの友人が上京してきて「北島亭」です。まずはシャンパン(KRUG)をいただきながら、じっくりとメニューを選びます。
「メインはジビエがいいよね」と友人。そうだよね。冬だもんね。ジビエ(gibier)というのは猟師が鉄砲で撃った野生の動物のことなんだそうです。冬に備えて身体に栄養を蓄えた今の時期のジビエが、脂ものってて実にうまいのだといいます。
メニューを見てみると、「骨付き えぞ鹿 背肉のロースト ポアブラードソース」(2人前、13,000円)や「宮城産 野鴨(青首)のロースト サルミソース」(2人前、12,000円)なんかがジビエらしい。それじゃ、えぞ鹿にしますか。
お。黒ムツもある。魚はこれが食べたいけど、それぞれもらっちゃうと多いから1人前だけもらってシェアすることにしました。「銚子産 黒ムツのごま付け焼き」(5,000円)。
ではオードブル。「生うにのコンソメゼリー寄せ カリフラワークリーム添え」(3,200円)はこの店の名物料理。これははずせませんね。「関さばのマリネ エスカベッシュ風」もおいしいのですが、残念ながらすでに売り切れ。「真鱈の白子のムニエル トマト添え」(4,000円)をいただくことにしました。
この時期楽しみなのが、友人が「爆弾」と呼んでこよなく愛している「トリュフとフォアグラのパイ包み焼き」(15,000円)です。値段もものすごいですが、トリュフの塊りが入ってますからねぇ。
まずは焼きたてのちっちゃなクロワッサンのアミューズ(つき出し)です。
そして登場するのが「生うにのコンソメゼリー寄せ」。お皿のまん中にこんもりと盛られた生ウニ。そのまわりに湖のようにたっぷりと張られたコンソメゼリー。お皿の縁にはカリフラワークリームです。スプーンでゼリーと一緒にウニをすくい口へと運びます。生ウニのやわらかさと、ゼリーのやわらかさがほとんど同じなので、口の中で渾然一体となって入ってくるんですよねぇ。ん? 今日のコンソメゼリーは塩っ気が薄いね。「今日の生ウニが淡白な味わいだから、コンソメゼリーもそれに合わせて薄い味つけにしてるのかもね」と友人。なるほど、言われてみればそうだね。そうかぁ。やわらかさだけじゃなくて、味わいも合わせてるんですね。
続いては「真鱈の白子のムニエル」。これはふたりで一人前をシェアしようとしていたら、最初から半人前ずつに分けて出してくれました。生の白子も、鍋なんかに入れてちょっとあったまった白子や焼いた白子もおいしいのですが、こうやってムニエルにした白子はまた全然別の味わいなのです。ムニエル(仏meuniere)というのは、フランス料理の定番とも言える魚の調理法のひとつで、小麦粉などの粉をまぶして、バターで色よく焼いているのです。したがって、表面はカリッ。そのカリッとした表面を噛み破った中にあるのが、白子のトロトロなのです。くぅ~っ。酒がすすむぅぅ。あーあ。シャンパン、なくなっちゃいましたねぇ。

生うに / 白子ムニエル / トリュフのパイ包み
次は白ワインにしましょう、ということで友人が選んでくれたのは「ピュリニー・モンラッシェ レ ペリエール 2001 (ドメーヌ ジャン・ボワイヨ)」というブルゴーニュの白ワインです。
料理のほうはお待ちかねの「トリュフとフォアグラのパイ包み焼き」の登場です。皿の上には大きなパイが1個。できたてて熱々のこのパイに、できるだけ鼻を近づけておいて、ナイフでサクッとパイを開きます。その瞬間、ドカ~ンと広がるトリュフ独特のガスっぽい芳香! あぁ、香りに包まれるぅ。
フォアグラをいただくときに、ときどきトリュフが付いてたりするでしょう? そういう場合、とても薄ーくスライスしたトリュフが添えられていることが多いのですが、この「トリュフとフォアグラのパイ包み焼き」の場合は、トリュフとフォアグラの立場が逆転。厚さ1センチほどに大きくスライスされたトリュフの塊りがメインで、それを引き立てるようにフォアグラが添えられているのです。大きな塊のトリュフをコリコリとかじるたびに、口の中いっぱいにトリュフの香りが広がって、鼻の奥のほうから押し寄せるように香りが上がってくるのです。ゴクンと飲みこんだ後も、食道も胃の中も、全体がトリュフの香りに占領されてしまって、そこらじゅうがトリュフの香り。愛ちゃん(ホールを担当している女性)も、「わ。この近くに来るとトリュフの香りがすごいですね」と笑うほど。あ。トリュフに夢中でお酒飲むの忘れてた。

切ったパイ包み / フォアグラもたっぷり / トリュフのかたまり
料理はメインに移って「銚子産 黒ムツのごま付け焼き」が出てきます。北島シェフは、日本一の肉の焼き手と言われるほどの人ですが、実は魚を焼くのもすごい。表面はカリッと、内部はフワッと。火が通り過ぎてないし、もちろん火が通り足りないなんてこともない。まさに絶妙な焼き加減なのです。皮の表面にたっぷりと付けられた黒ゴマも香ばしく、これまたお酒がすすむではありませんか!
ワインは赤へ。先ほどの白ワインと同じブルゴーニュの「エシェゾー ヴィエイユ・ヴィーニュ 2001 (ドメーヌ モンジャール・ミュニュレ)」です。
そして料理は「骨付き えぞ鹿 背肉のロースト」ですね。2人前で注文できるメニューですが、出てくるときは1人前ずつのお皿で出してくれます。えぞ鹿の赤い身はちょうどいい焼け具合。ボリュームもたっぷりです。肉とは別に、脂身の部分も添えられます。
この店のことが書かれた「「北島亭」のフランス料理
」によると、北島シェフは「私が目指すのはプロの料理人が焼く肉、家庭では焼けない腕前の肉なのです。フランス修業中、『オーベルジュ・ド・リル』に食事に行って食べた、鹿のポアレがうまかった。切ると中はばら色で、ふんわりと柔らかくて、こんなにおいしい肉が焼けるのかと驚きました。僕もこんなふうにうまく肉を焼けるようになりたい、とその時思ったのです」と語っています。「どうすればばら色になるか、肉を柔らかく焼けるかだけしか考えません」というシェフの言葉どおり、目の前のえぞ鹿もまさに柔らかく、濃いばら色に仕上がっているのです。あぁ、もう満腹なのにうまい...

黒ムツ焼き / えぞ鹿ロースト / 焼き栗
食事が終わると焼き栗が出てきます。この焼き栗も「北島亭」の冬の定番。ヨーロッパの街角で売っている焼き栗(マロンショー)と同じものなのだそうで、北島シェフがパリにいたころの思い出の品なんだとか。焼け焦げた外皮をバリバリとはいでいただく栗の実のおいしいこと。
最後はトリュフチョコとみかん。これもまた定番ですね。みかんはシェフの奥さんの田舎のものなのだと聞いたことがあります。飲み物はボルゲスのヴィンテージポート'82をいただいて、エスプレッソでしめて終了。あぁ、大満足、大満腹。お酒(ワイン)もたくさんいただきました。
・店情報 (前回)
《平成17(2005)年12月17日(土)の記録》
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