基本はおまかせ!? … 呉の「スタンド」
“とりや”で飲むと、2軒目は“スタンド”が定番。“スタンド”はスタンド・バーのことなのですが、バーのようにいろんな飲み物はなくて、たいていはウイスキーのボトルなどをキープして、それを水割りでいただく。店にはママさんと、規模によっては手伝いの女性が何人かいて、飲んでるときの話し相手にはなってくれますが、カウンターの外に出てくることはほとんどない。カウンター越しの会話です。つまみはどっちかというと勝手に出てくる場合が多い。しかし「お腹がすいてるから、なにか作って!」などという注文は受け付けてくれます。ほとんどの店にはカラオケがあり、店のおねえさんと話してるか、歌ってるかという過ごし方になるのです。
呉の街中には、この“スタンド”形式の飲み屋がとても多い。呉の中心街にある中通り(れんが通り)と本通りの間にある飲み屋街を歩くと、まさに右も左も“スタンド”の群れって感じなのです。
そんな中から、若いころによく通った1軒に足を向けます。ずいぶん久しぶりだけど店の名前が変わってないということは、ママさんも変わってないんだろうな。変わってたらどうしよう。なんて思いながら店の前へ。エイッと入り口扉をあけます。
カウンターの中でなにやら用事をしていたらしいママさんが、目線をあげて「いらっ... あら! どうしたのー! 久しぶりねぇ!!」と普通の顔から、驚いて、喜んでと目まぐるしい変化です。「こんばんはー。久しぶりに出張で来たんですよ」と私も嬉しくなってしまいます。「まぁまぁ。20年ぶりくらいかしら。まぁ、立派になられて」とママさん。
なにしろ呉に住んでたころは、いつもいつもジーパンにティーシャツ。冬になってもセーターとジージャンが加わるくらいで、年中ラフで同じようなかっこうをしてましたもんねぇ。スーツ姿で帰ってくるだけでこんなに喜んでもらえるとは、なんだか照れ臭いなぁ。
カウンターだけの店内には先客はいなくて、L字カウンターのちょうど中央あたりに腰をおろすと、ママさんがこの店の定番らしいブランデーの中国茶(黄花茶?)割りを作ってくれます。おつまみは乾き物やチョコレートなどの盛り合わせ。「ちょっと飲んでてね」と、ママさんは奥の厨房に入り、なにやら料理の支度。
こうなんです、“スタンド”は。まるで家に帰ってきたみたいに、特に飲み物を注文するわけでもなく、食べ物を注文するわけでもなく。だまって座ってると家で飲んでるかのように飲み物も食べ物もなんとなく出てくるのです。欲しいものがあるときだけ言えばいい。「ビールが飲みたいんだけど」。「なんかお腹にたまるもの作ってくれない」。このあたりも家で飲んでるときみたいですね。いや。家で飲んでると「ちょっと飲み過ぎじゃない」なんてチクっと小言もいただいたりしますが、“スタンド”ではそんなことはいっさいなくて、むしろ「はいどうぞ」とすすめてくれる。いつまでも気持ち良く飲めますねー。(爆)
ママさんはカーテンの奥で料理を作りながらも、会話のほうは休むことなく続きます。あのころよく一緒に来ていた面々のその後の活躍ぶりを聞かせてもらったり、私のほうは呉から京浜地区へ転勤している面々の近況を報告したりと、話のタネはつきることがありません。こうやって話をしてると、20年近い空白の時間がまったくなかったかのようですねぇ。
「お待たせ」と出してくれたのは山芋のステーキです。1センチくらいの厚さにスライスした大きな山芋が6切れ。ほかほかシャクシャクと歯応えもよく、塩胡椒の効きも絶妙です。
ママさんはカウンターの中で話をしながら、こちらのグラスが残り3分の1くらいになると、さっと飲み物を足してくれる。これもスタンド流ですよね。飲み続けている限りけっしてグラスが空くことはないのです。
話して話して、笑って笑って、飲んで飲んで。「そういや、昔はみんなでよく歌ってたねぇ。どう? 歌う?」とママさん。そうですよねぇ。最近、ほとんど歌うこともないですもんね。当時のなつかしい歌でも歌いますか。歌いはじめると、知らぬ間にママさんも口ずさみはじめ、途中からは合唱状態。
気がつけばもう日付が変わろうとしている。あっという間の2時間でした。最後は「もうこれで終わりにするからつがないでね」と、グラスの残りのお酒を飲み干します。お勘定は2,800円でした。
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