ラストを飾る小イワシ天ぷら … 大衆食堂「源蔵本店(げんぞうほんてん)」(広島)
呉での仕事を終えて広島駅にたどりついたのは午後6時過ぎ。予約済みの新幹線は7時半過ぎなので1時間半ほど時間があります。早めの新幹線に予約を変更する手もありますが、せっかくですので駅の近くの「源蔵本店」でちょっと飲んで、当初予定の新幹線で帰りましょうね。
駅から「源蔵本店」までは徒歩で5分ほど。「大衆食堂 源蔵本店」と大書されたのれんをくぐり、まるで民家の玄関のようなドア式の入口を入ると、店内の左右に6人がけを中心とするテーブル席がずらりと並んでいて、テーブルの数で言うと8割程度、人数的なキャパシティで言うと3~4割程度のお客さんが入っています。なぜこの両者の間にそんなに開きがあるかというと、この店にはカウンター席はなくて、ひとり客であってもとりあえずひとつのテーブルに座っているからです。私もひとりながら、空いている6人用テーブルにドンとカバンとコートをおいてスタンバイ。
席が決まればまずは店の一番奥の刺身置場に、今日の刺身を見に行くのがこの店の常連さんの動きのようなので、私もそれにならって刺身を見にいきます。実は、これを見ようが見まいが、今日はぜったい「小イワシ刺身」を食べようと心に決めているのですが、一応常連さんにならって、ね。(笑)
あれ!? 小イワシもさることながら、これはカンパチだろうか。これもうまそうだなぁ。うーん。小イワシもカンパチも入った盛り合わせみたいなのがあるから、これにしようかな。おー、ちゃんと現場まで刺身を見に来てよかったですねぇ。いいのが発見できました。
席に戻ると、3人ほどいる店のおばちゃんのひとりがおしぼりを出してくれます。「瓶ビールと、右上の段にある刺身の盛り合わせをください」と注文します。ここでひとつ注意事項。こうやって棚に刺身を並べている店では、自分で勝手に刺身を取っていくスタイルの店と、棚は見るだけで注文はおばちゃんを通すというスタイルの店がありますが、この店は原則的には後者、『見るだけで注文はおばちゃんに』というのが正解のようです。そうするとラップをかけてあるものはそれを取ったりした上で、醤油皿と一緒に出してくれるのです。
ま。3人のおばちゃんうち、常時少なくとも2人はフロア内をうろうろしてくれてますので、もし勝手に取ってきたとしても「あら。取ってきちゃったの」などといいつつ、レシートにチャっと記入して、奥から醤油皿を持ってきてくれるので大きな問題はありませんが、標準的な流れではないようです。
ビールはキリンラガーの大ビンが570円。「盛合せ刺身」は、イワシとカンパチ、そしてサーモンの3点盛りで680円です。うひゃー。こうやって目の前で見るとツヤツヤでいいですねぇ、このイワシ。「そうでしょう。今日はイワシがいいのよ」とおばちゃんもニッコリ。そうかぁ、本来夏が旬の小イワシだけど、冬でもとってもおいしそうです。
“小イワシ”は全国的な言い方では“カタクチイワシ”のことで、この稚魚が“チリメンジャコ”です。関東あたりで食べる大きなイワシの稚魚ではありません。
そういえば、このあたりではいわゆる“小イワシ”のことを普通に“イワシ”と呼びますからね。私もはじめて東京でイワシを食べたときに、その大きさにビックリしたものでした。あの大きさのイワシは広島や松山の方ではあまり見かけたことがないんだけど、こちらでもとれるのかなぁ。
その小イワシは1尾を手裂きで3枚におろして取れた2枚の身が、それぞれ刺身のひと切れ分。つまり1尾から2枚の刺身が取れるということになります。その刺身が盛り合せ皿の右の方にうず高くてんこ盛り。正確に数えたわけではありませんが、これだけで小イワシ6尾分以上(刺身12切れ以上)はあるかなぁ。
ワシッと2枚ほどいっぺんに箸でつかみ、醤油をつけてパクリ。ぬおぉ~っ。やっぱりええもんじゃのぉ、小イワシ刺しは! こりゃお酒だな。「すみません。お酒ください」とすぐ近くにいるおばちゃんに注文します。「一級、二級があるけどどっち?」とおばちゃん。おろろ。一級、二級という表現も懐かしいなぁ。「じゃ、一級で」。ちなみに壁のメニューでは「上酒 350円」「並酒 320円」という表現になっています。
すぐに出てきたお酒は地元・西条で造られた「福美人」なのだそうです。上酒も並酒も銘柄は同じ。上酒が「本醸造酒」で並酒が「普通酒」なのかな。あるいは本醸造同士で「上撰」「佳撰」の違いかもしれませんね。そこまでは確認してみませんでした。上酒と並酒とは徳利の色と形でも違いがわかるようになっています。ちなみにすぐ前のテーブルや、左側のテーブルで飲んでいる年配のひとり客の方々は並酒を飲んでるようでした。だいたいはベテラン常連客の方向性にしたがっておけば間違いはないんですけどね。
そのベテラン常連客らしき前のテーブルのお客さんが「イワシ天ぷら」(530円)を注文します。そうそう。小イワシの刺身もさることながら、小イワシの天ぷらもうまいんですよねぇ。今日はイワシがいいって言ってたから、私も天ぷらもいっときますか。「すみません。こちらもイワシ天ぷらお願いします」。「はいはい」と返事したおばちゃんは、奥の厨房に向かって「天ぷらもうひとつね!」と声をかけます。
いえね。天ぷらは他にもたくさんあるんですよ。タコ天ぷらとか、野菜の天ぷらとかいろいろとあるのですが、「天ぷら」という代名詞で呼ばれるのはなにしろ「イワシ天ぷら」だけでしょうね。それほど天ぷらの代表格なのです。
出てきた「イワシ天ぷら」は、これまた12尾分ほどがお皿にこんもりと盛られています。ちょいと天つゆをつけてカリッとかじると、中からホワンと湯気が上がります。おぉ。中骨といっしょにいただくホコホコの身がいいですねぇ。刺身とはまた全然違う味わいです。まさに旅(出張)のラストを飾るのにふさわしい瀬戸内名物ですよねぇ。
さぁ。もうすぐ7時だ。そろそろ店を出るとちょうどいいタイミングなんですが、先ほどからまわりのお客さんたちが注文している「湯豆腐」(210円)が気になって気になって。えーい。新幹線はギリギリでいいか。「すみません。こちらにも湯豆腐をお願いします」。「はーい。湯豆腐、もうひとつ追加です!」
湯豆腐は注文を受けてからひとつずつダシ汁でゆでるようで、予想してたよりは時間がかかります。とはいえせいぜい5分程度ですけどね。小鉢に盛られて出てきた湯豆腐はたっぷりのカツオ節が踊っています。刻みネギの緑も鮮やかで、見た目もいいですねぇ。どれどれ。んー。こんな簡単なつまみなのに、こういうのがなかなかマネできなかったりするんですよねぇ。んまいっ!
カツオ節のうまみもたっぷりの湯豆腐をチュルンと食べてはお酒をチビリ。ふっふっふ。やっぱり冬場は湯豆腐じゃのぉ。
その湯豆腐も食べ終えて、残りのお酒をグイッと飲み干すと、もう午後7時15分。おぉ。これは急がなきゃ。約1時間の滞在は2,340円でした。
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