地酒をたっぷり飲み放題 … 居酒屋「天志乃(てんしの)」(大崎)
「4人そろわないと飲み放題にならないんだけど、来ない?」。会社の同僚・Yさんからそんな誘いを受けて聞いてみると、大崎の地酒飲み放題の店に行こうということでメンバーの調整をしているとのこと。さっそく仲間に入れてもらうことにしました。
私以外の3人はみんな東京地区勤務。「横浜からだときびしいかもしれないけど、6時半開始だからね」。そうか。それは大変。
約束の金曜日。午後5時のチャイムが鳴ると同時にダッシュでロッカールームに向かい、大急ぎで駅へと向かいます。こんなに大急ぎで向かっても大崎駅到着は午後6時15分。大崎駅から目的の店まで徒歩約10分かかりますので、これでギリギリぐらいです。
今日のお店は「天志乃」。店の前に着いてみると「準備中」の札がかかり、灯りはついているものの、店内からも居酒屋独特のざわめきがまったく聞こえてきません。えーっ。大丈夫かなぁ。おそるおそるという感じで入口引き戸を開けて店内へ。店内は入った左手がテーブル席になっていて、正面が横いっぱいにカウンターになっています。予想どおりお客はゼロ。カウンターの中で大将と思しき人が料理の支度をしている。「あのー。今日、Hさんの予約できたんですけど...」と遠慮がちに聞いてみると、「あー、はいはい。そこの扉から2階に上がって」とにこやかな返事が返ってきてひと安心です。
階段を2階に上がってみると、そこは広いひと間の座敷席。右手前に10人ほどの団体さんが入っていて、我われの4人グループは左奥のテーブルです。なるほど。きっと予約のお客さんだけが入れるようになってるんですね。
「よー。横浜からだから遅れるかと思ったけど、間に合ったなぁ」と迎えられながらテーブルに座り、出されたおしぼりで手を拭きます。なにしろ飲み放題に遅れると、それだけ飲める時間が短くなってしまいますからねぇ。やぁ、良かった良かった。(笑)
集まったのはこの店の常連さんでもある日本酒大好き重役・Hさんに、飲み会大好きでいつも明るい部長・Tさん、そしてこれまた若いころから酒好きで有名な同僚・Yさん。まさにそうそうたる呑んべメンバーです。
まずはビール(スーパードライ)をもらって乾杯です。テーブルの上にすでに出されているお通しは、煮バイ貝がふたつ。
この店では3,500円、4,000円、5,000円のコースがあって、それぞれ料理とお酒の飲み放題がセットになっています。詳しくは店の公式サイトでご確認いただくとして、我われが今日いただいている5千円のコースでは料理5品にお茶漬け、デザートが出て、お酒はビール、日本酒、ウイスキー、焼酎、ソフトドリンクが飲み放題となります。飲み放題の日本酒は5千円コースの場合、久保田(紅寿)、八海山(純米吟醸)、〆張鶴(純)、一ノ蔵(純米辛口)、黒龍(純米吟醸)、文政六年(純米)、立山(吟醸)、木綿屋(特別純米)、鷹勇(なかだれ)、初亀(吟醸)、くどき上手(純米吟醸)の11種類というラインナップ。同じく焼酎は富の宝山(芋)、中々(麦)、紅乙女(胡麻)、ダバダ火振り(栗)などなど。さぁ、2時間でどれだけ飲めるかとワクワクしますよねぇ。
まずママさんがすすめてくれたのは「美丈夫(びじょうぶ) 麗 うすにごり」。これは飲み放題の中にはない商品なのですが、常連・Hさんのグループということでママさんが出してくれたものです。
ママさんが慎重に4合瓶のスクリューの栓をひねると、プシューッという音とともに瓶の中に泡が立ちはじめます。そこでいったん栓をややしめて泡立ちが落ちつくまでしばらく待って、いよいよ抜栓です。ガラス製のお猪口についでもシュワっと立ち昇る細かい泡。いただきまーす。んー、これはまるで甘口のシャンパンのような。こんな日本酒もあるんですねぇ。
ビールとお通し / 美丈夫 麗 / シュワッと薄にごり
ママさんも「ちょっと1杯ちょうだいね」とお猪口に入れてひと含み。「なるほど、ちょっと辛口ね」とママさん。Hさんによると、ママさんは利き酒コンクールで優勝したことがあるくらいお酒の味に敏感なのだそうです。「私も同じコンクールに出たんだけど、まるでわからなかったよ」とHさん。ほんとですよねぇ。私なんか、とてつもなくまずいお酒の場合だけわかるくらいで、後はどれもおいしく感じてしまう。最近はいいお酒が多いので、いつもいつもおいしいばかりで...。
料理のほうは「山芋千切り」が出ます。刻み海苔がかかった山芋の千切りにちょいと醤油を回しかけてグリグリと混ぜるうちに、ねっとりと粘り気が出てきます。これをほんのひと口分、ズズッとすすり込んでお酒をちびり。千切りの山芋はねぇ。口に入れた瞬間の食感はとろろのようなねっとり感なのですが、そのあと噛むとシャクシャクといい歯応え。ダブルの食感が楽しめるいいつまみです。私がよく知ってる店の中では沼袋の「ホルモン」の月見がこのタイプですね。
そして刺身。刺身はマグロとイカの2点盛りです。これだけ聞くと、どこの居酒屋でも出てきそうな刺身盛り合わせの定番ですが、ここのマグロとイカは、見た目もあでやかな絵に描いたようなトロと、ひと切れひと切れがはがしにくいくらいネトっと新鮮なイカなのです。これまた酒がすすむなぁ。
あっという間に「美丈夫」の4合瓶1本を飲み終えて、本日2銘柄目にいただいたお酒は「黒龍(こくりゅう)純米吟醸」。お酒は一升瓶からガラスの器に移されて出されます。「黒龍」の淡くてさらりとした味わいはまさに水の如し。実に淡麗なお酒です。
山芋千切り / 刺身2点盛り / 黒龍
「珍しいお酒が1本だけ手に入ったのよ」とママさんが持ってきてくれたのは、宮中で新嘗祭(にいなめさい)のときに使う御神酒(おみき)なのだそうです。ドロっとするほど濃厚な濃さなのに、味わいは淡白。おもしろいお酒だなぁ。
料理のほうは伊勢エビ(ロブスター)の黄金焼き(玉子をのせて焼いたもの)です。こりゃまた豪勢でいいですね。
新嘗祭御神酒(1) / 新嘗祭御神酒(2) / 伊勢エビ黄金焼き
続いては日本酒通のHさんが、今日の品書きの中ではこれが一番好きという「くどき上手(くどきじょうず)吟醸」。これはまたうまみが強い。すっきり淡麗な「黒龍」の後に飲んだこともあってか、すごくうまみの強さを感じます。
さらにピシッと辛口の「立山(たてやま)吟醸」をいただいたあと、6銘柄目は「文政六年(ぶんせいろくねん)純米」です。この「文政六年」は、おなじみ「天狗舞(てんぐまい)」の車多酒造のお酒。裏のラベルに「熟成した自然な山吹色」と書かれているとおり、グラスについでも明らかに他のお酒と透明感が違う。文政六年というのは車多酒造創業の年なのだそうです。西暦で言うと1825年。今から180年ほど前の、徳川八代将軍・家斉(いえなり)のころですね。酔いもまわり、「家斉には子どもが53人もいたんだ」なんて話から、あれやこれやと話もはずみます。
くどき上手 / 立山 / 文政六年
料理のラストとなる5品目は揚げ立てのトンカツ。この店はうたい文句が「日本酒とトンカツのお店」なので、トンカツは自慢の一品。熱々のトンカツは外はサクッと、中はジューシー。ずっと冷たいお酒を飲み続けてきたので、このあたたかさがまた心地よいですねぇ。
ここでちょうど1時間が経過して午後7時半。後半戦1種目、通算7種目となるお酒は静岡の「正雪(しょうせつ)特別純米」。特別純米なのにシャッキリしっかりとしていて、いい意味でアル添っぽいほどの力強さを感じます。あれっ? このお酒も本来の飲み放題メニューにはないのに、すみません。
「静岡のお酒はうまいねー」と「正雪」を楽しみつつ、8種目も同じ静岡の「初亀(はつかめ)吟醸」をいただきます。
トンカツ / 正雪 / 初亀
「こんなのもあるのよ」とママさんが見せてくれたのは「十四代 龍泉(りゅうせん)」。不思議な形の褐色のボトルに入れられたこのお酒は、「龍の落とし子」という原料米を使用した大極上諸白(=大吟醸)酒なのだそうです。裏のラベルには「H16BY」と造られた年が記されています。毎年造られるわけではないのだそうで、基本価格1万4千円(720ml)のこのお酒は、ネット上でも6万5千円くらいの値付けがされています。こうなると1合あたり1万6千円以上ですね! すごーいっ! あ。今回のこのお酒は、あくまでも見せてもらっただけですからね! 残念ながら飲んではいません。
9種目は「久保田 紅寿(こうじゅ)」。一般的な呼び方に呼びかえると百寿(ひゃくじゅ)が本醸造、千寿(せんじゅ)が特別本醸造、そしてこの紅寿が特別純米となり、さらにこの上に翠寿(すいじゅ)=大吟醸・生酒、碧寿(へきじゅ)=純米大吟醸・山廃仕込と続き、最高峰が萬寿(まんじゅ)=純米大吟醸なのです。紅寿はランク的には千寿より上なのに、なんだかぱっとしない感じです。千寿、萬寿はとてもはなやかに感じるのに、なんだかおとなしい感じかなぁ。なじめばおいしく感じるのでしょうか。
栄えある10種目は「山形正宗(やまがたまさむね)純米吟醸 稲造(いなぞう)」です。他の山形のお酒がそうであるように、この「山形正宗」もフルーティ。こういうタイプのお酒はけっこう好みなのです。
十四代 龍泉 / 久保田 紅寿 / 山形正宗
10種類を飲みおえたところで午後8時。残り30分となってきました。これまで飲んだ10種類の中ではやっぱりHさん推薦の「くどき上手」が良かったですねぇ、なんて感想を述べあっていたところ、「じゃ、ちょっとこれを試してみますか」とママさんが「くどき上手 純米大吟醸」を出してくれます。これももちろん飲み放題リストには入ってない銘柄です。うわー。これだけ飲んだ後でも、ものすごくしっかりとしてることがわかるなぁ。吟醸酒独特の香り(吟香)がすごい!
12種目は「八海山(はっかいざん)純米吟醸」。新潟らしいすっきりとした味わいは、水と変わんないような感じでクイッと飲めてしまうから、こういう後半戦で飲むとちょっと危ないかも。
そして13種類目のお酒は宮城県石巻市の「墨迺江(すみのえ)しぼりたて純米吟醸生酒」。うー、よく飲んだ。本日はここまでですねぇ。
くどき上手 純米大吟醸 / 八海山 / 墨迺江
最後にお茶漬けとデザートの果物が出されてコースは終了。
お茶漬け / デザート
最初のうち2合ずつくらい。後半戦はやや少なめについでもらったので、飲んだ量でいうと13種で2升ちょっとくらいでしょうか。ひとり平均5合強程度かな。4人で飲むとけっこういろんな種類が楽しめますねぇ。
それにしてもこれだけ飲んで食べて、ひとり5千円とは。うーむ。また来ないといけないですねぇ。
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