ウイスキーを楽しんで … バー「タイムオーバー108(TIME OVER 108)」(阿佐ヶ谷)
にっきーさんとふたり、中野から中央線に乗り、阿佐ヶ谷に到着したのは午前1時前。ここまで帰ってくればもうたどり着いたも同然。あとははってでも帰れます。
「じゃ、ひと安心したところで、最後にもう1軒行きますか!」
どちらからともなくそういう話がまとまってしまうところが酒友の酒友たるゆえん。
「実は駅の近くに前から気になっているバーがあるんですよ。そこをちょっとのぞいてみませんか?」
阿佐ヶ谷駅北口から中杉通りに沿って1~2分北上した、モスバーガーの入っているビルの3階にあるのが、目指すバー「TIME OVER 108」。深夜に帰ってきても、その入口路上にポツンとメニュー黒板が置かれていて、各種飲み物がずらりと書き出されているのが気になっていたのです。
3階に上がると、エレベーターの扉が開いた目の前にドンと樽があって、その上にウイスキーの空き瓶がずらり。その先にバーへの入口扉があります。
店内はウナギの寝床のように細長く、その細長いところを貫くようにカウンターがどーんと通っている。先客はカウンター手前側に男女ふたり連れ。店はカウンターの中にいる男性ひとりで切り盛りしているようです。我われもカウンターの奥のほうに座ります。
カウンターとほぼ同じ長さの長大なバックバーに、ずらりとウイスキーやスピリッツ、リキュール類などが並んでいるのが圧巻です。
そんなたくさんのボトルの中から、私はタリスカー(Talisker)をストレートでいただくことにします。タリスカーはスコットランド西岸にあるスカイ島産の唯一のモルトウィスキー。スカイ島が火山の島であることから「火山の力を借りて液体になった雷」と言われるほど強烈な個性のウイスキーなのです。とろりと深い琥珀色がまたきれいですよねぇ。
このタリスカーの蒸留所が創業されたのは1831年といいますから、日本では江戸時代。天保の大飢饉(1832年)や大塩平八郎の乱(1837年)の頃に生まれたウイスキーなんですねぇ。ちなみにベートーベンの第9もこの頃に生まれてる(1824年初演)と言うんだから、ヨーロッパ文化もすばらしい歴史を持ってるんですね。
にっきーさんが注文したのは、スキャパ(Scapa)のトゥワイスアップ。「はい」と返事したバーテンダー氏はさっそくスキャパを用意しはじめます。
「トゥワイスアップってなんですか?」
小さい声でにっきーさんに聞いてみると、
「ウイスキーを氷なしで同量の水で割ることなんです。味も香りもよくわかるようになるので、ブレンダーの人たちがそういう飲みかたをされることが多いんです」
と教えてくれます。
ここ数年、ワインや焼酎を研究されていたにっきーさんですが、もともと一番好きだったのはウイスキーなのだそうで
「今年は原点にかえって、またウイスキーを飲んでみようと思ってるんです」
と言いながら、できあがったスキャパのトゥワイスアップを口に含みます。
スキャパはスコットランド北端のオークニー島という島で造られたウイスキー。これもまた1885年創業という古い蒸留所なのですが、そのほとんどがバランタイン(Ballantine's)のブレンド用にまわされていて、モルトウイスキーのオフィシャルボトルが日本に入ってきたのは、今から10年前の平成9(1997)年のことなんだそうです。実に香り豊かなウイスキーです。
スコッチウイスキーは大きく分けてモルトウイスキーとグレーンウイスキー、そしてそれらを混ぜ合わせたブレンデッドウイスキーがあります。モルトウイスキーがソロならば、ブレンデッドウイスキーはオーケストラという風にたとえられたりします。
ブレンデッドウイスキーは何十種類かのモルトウイスキーやグレーンウイスキーを、ブレンダーが混ぜ合わせて造っていくのですが、そのときに使う主要な何種類かのモルトウイスキーのことをキーモルトと呼びます。スキャパは、バランタインのキーモルトのひとつなのです。同じようにタリスカーは、ジョニーウォーカー(Johnnie Walker)のキーモルトのひとつです。そう知って、バランタインやジョニーウォーカーを味わうと、大きく広がるオーケストラの中に、スキャパやタリスカーのソロとしての個性が感じられるような気がするんですよね。
「そういう意味では、このウイスキーもおもしろいですよ」
そう言ってにっきーさんが注文したのはフェイマスグラウス(Famous Grouse)のトゥワイスアップ。
スコットランドの国鳥である雷鳥(グラウス)の姿をラベルに描き、スコットランドでもっとも売れているウイスキー、フェイマスグラウス。バーテンダー氏がそのフェイマスグラウスと、それと同量の水をチューリップグラスに入れて、バースプーンでクルクルクルっと丁寧にステアして出してくれます。
なーるほど。こうやって飲むと本当に香りも味もよくわかりますねぇ。このシェリー樽の香りは…!?
「そうなんです。このフェイマスグラウスのキーモルトはハイランドパーク(Highland Park)とマッカラン(Macallan)なんですよ」とにっきーさん。
ハイランドパークは、先ほどのスキャパ同様、オークニー島産のモルトウイスキー。そしてシェリー樽貯蔵で華やかな香りのマッカランは、スコットランド東側のスペイ川流域で造られた、スペイサイドモルトとも呼ばれるモルトウイスキーのひとつなのです。知ってて飲むとおもしろいなぁ。知らないで飲んでもキーモルトが何かわかるくらいだともっと楽しいのかもしれませんが、なかなかそこまではねぇ。
それにしても、このキーモルトとブレンデッドの関係。もうちょっと他のものも調べて試してみたいですね。
今日はもう遅いので、このあたりで終了。午前2時過ぎまで1時間ちょっとの滞在は、ふたりでモルトウイスキー2杯とブレンデッドウイスキー1杯をいただいてちょうど3千円(ひとりあたり1,500円)でした。
さすがにこの時間帯に這って帰る(匍匐前進!?)わけにもいかず、にっきーさんとふたりでタクシーに乗ってビューンと帰宅したのでした。
「タイムオーバー108」 / 入口の黒板メニュー / 樽の上に並ぶ空き瓶
タリスカーとスキャパ / バックバーの様子 / フェイマスグラウス
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