時々むしょうに食べたくて … うなぎ「川二郎(かわじろう)」(中野)
しょっちゅう食べたくなるのが刺身だったり、焼き鳥(もつ焼き)だったりすると、時々むしょうに食べたくなるのがウナギであり、おでんであり、餃子であり。ウナギと言ってもうな丼や蒲焼が食べたいわけではなくて、のんべとしてはやっぱりウナギ串焼きですね!
そんなウナギ串焼きのお店、中野の「川二郎」にやってきたのは金曜の午後9時ごろ。この店は午後10時までの営業なので、この時間帯はすでに終盤といったところですが、店内にはまだまだお客さんは多くて、焼き台周辺となるカウンターの手前側だけが4~5席分ほど空いてて、そこから先は奥のテーブル席も含めて全部埋まっている状態です。カウンター10席ほどと奥のテーブル6席の合わせて16席ほどしかない店内はいつも満席なので、4~5席も空いている状態は、むしろすいてると言えるかもしれませんね。(注:これとは別に2階に予約制・団体専用の8人席があります。)
なにしろ営業終盤なので、目の前のネタケースを見てもほとんど残りがない状態。
「お酒のあったかいのをお願いします。ウナギはひと通り焼いてください」と注文すると、
「もうひと通りはないかもしれないので、あるもので焼きますね」と店主。
「ひと通り」と言うのは、この店で食べることのできるウナギ串焼の中で、主たるものを6種6本焼いてもらうこと。人によっては「セットで」とたのんだり、「ひとそろえ」とたのんだりもしていますが、この店では基本的にこの「ひと通り」から食べはじめるのが暗黙のルール。いきなり野菜串などを注文すると「まずウナギをひと通り食べてから…」とやんわりと、でもしっかりと釘を刺されるのでした。
ここのお酒は秋田の「新政」か、同じく秋田の「高清水」(どちらも270円)。燗酒をお願いすると、受け皿つきのコップが出されてポットから酒が注がれます。
「今どき、ポットから燗酒を注いでくれる店も、あまり見かけないよね」
と笑うカウンター席の常連さん。この店でポットの燗酒を飲むお客さんは多いのです。
お通しは定番のキャベツ漬。この店では年中必ずこのお通しが出されるのです。
私の後からもカップルがひと組、またひと組と、都合4人入ってきて店内は満席。どちらのカップルもこの店ははじめてらしく、ビール(大瓶、550円)を注文すると、メニューを見ながら「何にする?」「んーと。きも焼とれば焼ってどう違うんだろう?」なんて会話を交わしている。その様子を見て店主から
「まずは後の絵にあるものをひと通り焼きましょう。それから追加されたらどうですか?」と声がかかります。
「それでお願いします」と、どちらもカップルもホッとした表情です。
「今日はもうない品物もあるので、あるものだけで焼きますね」と店主。
通常の「ひと通り」は八幡巻(250円)、串巻(200円)、きも焼(200円)、ひれ焼(150円)、れば焼(170円)、ばら焼(150円)の6本で1,120円。この店のウナギの串焼きは、これら6品の他に短冊(250円)とえり焼(150円)を入れた8品。あと野菜の串焼きがぎんなん(180円)、しいたけ(180円)、しいたけくき(80円)、ししとう(100円)、ねぎ(100円)の5品です。
ところがなにしろ店は終盤近く。奥のお客さんたち何人かから、シメのうな丼(900円)の注文が入っていたようで、焼き台の上にはずらりとウナギの蒲焼が並んでいて、まだまだ串焼きにはかかれない状況のようなのです。
じゃ、私も腰をすえて飲みながら待ちますか。焼き台を使わなくてもできる肴(さかな)は、かるしうむ(骨から揚、300円)、きも刺(650円)、鰻くんせい(800円)に、おつけもの(300円)、きゃべつ大盛(200円)。大好物の「きゃべつ大盛」をいただきましょう。
お通しのキャベツは小皿で出されるのですが、別注になる「きゃべつ大盛」(200円)は、お通しと同じキャベツが小鉢にたっぷりと盛られます。山椒がちょっと効いて、ポン酢醤油で和えたキャベツはいくらでも食べることができる一品なのです。
ちなみに「おつけもの」(300円)も自家製らしく、店主がよその店で飲んでいても「漬物を支度しないといけないからもう帰る」と帰ってしまうくらい心をそそいでいるんだそうです。(←常連さん談)
手持ちぶさたそうにしている二組のカップルに、
「串焼きを待つ間に、ウナギの燻製はいかがですか。これはうち独自のものなので、他では食べられないと思いますよ」と店主から声がかかります。
「お願いします」
二組とも鰻くんせい(800円)を注文。この燻製もうまいと評判なんだけど、残念ながら個人的には未食。
店は以前は店主夫婦(なのかな?)で切り盛りしてたんだけど、今は若い男性も手伝っている。聞けば店主の甥っ子(おいっこ)さんなのだそうです。焼き台は店主が、その他のカウンター内作業は甥っ子さんが、そしてカウンターの外の仕事はおかあさんが担当している様子です。
燗酒(270円)をおかわりしたところで、まず八幡巻(やわたまき、250円)と串巻(くしまき、200円)が出てきます。八幡巻は細長く切ったゴボウのまわりに、縦方向に細く割いたウナギの身を巻きつけて焼いたもの。ドジョウとゴボウの相性の良さが有名ですが、ウナギとゴボウもよく合うのです。串巻は同じく縦方向に細く割いたウナギの身それだけをクネクネと串に刺して焼いたもので、こちらはウナギの身のおいしさをじっくりと味わうことができます。
続いては、きも焼(200円)。ウナギの内臓は心臓、肝臓、ニガ袋、胃、腸、浮袋、腎臓と連なっているらしいのですが、このうち肝臓とニガ袋(胆嚢)をのぞいたものを串に刺して焼いたもの。言ってみればウナギのモツ一式なんですね!
そして、ひれ焼(150円)、れば焼(170円)。
私はこのひれ焼が一番好き。ウナギの背びれや腹びれをニラといっしょに巻いたものなのですが、骨っぽいなんてことは全くなくて、骨ぎわの身のうまみをたっぷりと堪能できる人気の一品なのです。
れば焼は、きも焼で使わなかった肝臓だけを集めて焼いたもの。ウナギ1尾に1個(1対)しかないので、これだけずらっと並べるには何尾分が必要なことか! とろりとした食感と濃厚さが楽しめるのは豚や鶏、魚などのレバーと同じですね。
今日のひと通りは残念ながらこの5種5本で終了。ばら焼(あばら部分から削いだ身をこねて焼いたもの、150円)が売り切れてたんですね。こうやって食べている間にもどんどん注文は入って、かるしうむ(骨から揚、300円)や、きも刺(650円)、短冊(250円)も売り切れになりました。
3杯目となる燗酒(270円)をもらって、追加注文は串巻(200円)を、先ほどは塩焼きでしたので、今度はタレ焼きでいただくことにします。
私の左どなりに座っている男性は、店主とも親しげに話す大常連さん。その人によると、ここでのオススメは、えり焼(150円)と、にんにく醤油でいただく短冊(250円)なのだそうです。えり焼は、他の店ではカブト焼とか頭(カシラ)焼として出されることが多い部分。かなり骨っぽいことが多いのですが、ここのえり焼ではていねいな下ごしらえをして首(ウナギの首って!?)まわりの肉だけを使うので骨っぽくないのが特長なのだそうです。残念ながら、今日はえり焼も売り切れてるので実食してみることはできませんでした。
閉店時刻の午後10時になり、やっとすべての焼き物を焼き終えた店主も、カウンターの外に出てきて常連さんのとなりに座って、湯飲みについだ燗酒を飲みながら話しはじめます。
「甥っ子もいっしょにやるようになってうれしいねぇ。親父さんが一番大変だなぁと思う仕事ってなに?」と常連さんが尋ねると、
「ウナギの修業の中で、『焼き一生』とよく言うけど、本当にそのとおりだと思うよ。火加減がむずかしいんだ」と店主は答えます。なるほど。そういえば「北島亭」の北島シェフもそんな話をされてました。もつ焼きや焼き鳥も含めて、焼き物全般について『焼き一生』ということが言えるのかもしれませんね。
さてさて。私もそろそろ腰をあげますか。どうもごちそうさま。
1時間ちょっとの滞在。お酒を3杯にウナギ串焼き6本、きゃべつ大盛で今日は2,180円でした。
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