中野5丁目の老舗居酒屋 … 樽酒「路傍(ろぼう)」(中野)
中野駅の北側に広がる中野5丁目一帯は、古くから中央線沿線でも屈指の一大酒場街としてひらけた地域です。そんな中野5丁目の酒場街の中で、昭和36(1961)年創業の老舗居酒屋が「路傍」です。現在は創業者である母親の後を継いだ息子夫婦が切り盛りされている、昔ながらの落ち着いた雰囲気の居酒屋なのです。
ほの暗い店内は、カウンターが端っこに切られた囲炉裏を囲みこむようにJ字に曲がっていて、8人ほど座れるでしょうか。入口近くに小上がりもあるものの、いつも荷物置場になっていて座席として使われているところは見たことがありません。そういうゆったりとした空間の使い方なのも、この店に入るとなにやら落ち着く大きな要素なのかもしれませんね。
その「路傍」にごいっしょいただいたのは「橋本健二の居酒屋考現学」を書かれている大学教授の橋本さんと、来る4月16日に創刊される予定の「TOKIO古典酒場」の美人編集長・倉嶋さんのおふたり。
まずはビール(キリンラガー中瓶)で乾杯したあと、樽酒(800円)に移行します。ここの樽酒は広島県呉市の「千福(せんぷく)」。カウンターの奥にでんと鎮座している四斗樽から、まず片口にトトトッと注いで、しかる後に目の前に置かれた一合升にたっぷりとついでくれます。表面張力のところを口から迎えにいってツツゥ~ッとすすると、そのすっきりとうまいこと。思わず笑顔がこぼれる瞬間です。
橋本さんがウルメイワシを注文すると、カウンターの端っこにある囲炉裏でさっと炙って出してくれます。
自然な食材を使って、基本的に注文を受けてから調理して出してくれるのが、この店の大きな特長のひとつ。おそらくお母さんの代から脈々と続く伝統なんだろうと思います。今日のお通しも湯葉とオクラ。こういうシンプルな肴をつまみつつ、塩(赤穂の天塩)をなめなめいただく樽酒に、なんだか清められるような感じさえします。
さらに、橋本さんは煮こごりを、そして倉嶋さんは冷やっこを注文です。お酒そのものをじっくりと味わうことができるような渋い選択ですねぇ。
この店のメニューはハンペン、生揚げ、たたみ、ししゃも、いかげそ、赤かぶ、もずく、とんぶり、おしんこ、トマトなどなどと、品数はそれほど多くないものの、実に呑んべ好みのする品々が並んでいるのです。
「こんなのもありますよ」と店主が出してくれたのは野蒜 (のびる)。味噌をちょいとつけていただくと、春の山菜らしい香りと、コリッとした食感がいいですよねぇ。味噌とベストマッチ、そしてお酒ともいい相性の一品です。
「それじゃ、ちょっと珍しいところで」と注文したのは「やきそば」。名前だけ聞くと「なんでそれが珍しいの?」という一品ですが、この店の焼きそばは、そば粉を練ってひと口大にしたものを平たくまとめて、七輪の炭火で自分で焼きながら食べるというもの。
「なるべくほっといたほうが美味しく焼けますよ」という店主の言葉に従って、ボーッと眺めつつうっすらと煙が上がり始めるくらいのタイミングでヨッとひっくり返します。こうしてカリッと仕上がった熱々の「やきそば」を、そばつゆに浸けていただくのです。
最後はそのそばつゆに、そば湯を入れてもらって、それをつまみに樽酒をちびりちびり。汁ものでいただく日本酒のなんとおいしいことよ!
2時間ほどの樽酒タイムは3人で10,500円(ひとりあたり3,500円)でした。
・店情報 (前回、同じときの「橋本健二の居酒屋考現学」)
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コメント
浜田さん。こんばんわ。早速『TOKIO古典酒場』を購入して対談の記事を拝見しました。
貴書『酒場百選』を読んでから暫く月日が経ちましたが、浜田さんが今回は対談という形で、橋本さんとFさんとの居酒屋談義を拝見する事ができて自分なりに共感する部分が多々ありました。ご家族と居酒屋訪問のバランス(特に休日)を考えられている姿勢には尊敬に値いします。常々浜田さんの域に達するべく居酒屋修行をしなければならないと思う日々です。これからもブログUP楽しみにしております。
投稿: 桑田 | 2007.04.25 18:51