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今晩のんで明日は仕事 … 居酒屋「大黒屋(だいこくや)」(武蔵小金井)

西国分寺(にしこくぶんじ)から再びJR中央線に乗り込んで、新宿・東京方面へ2駅。武蔵小金井(むさし・こがねい)です。近くの名店を探る旅。今日の2軒目は、この地で昭和30年から営業しているという「大黒屋」です。

ときどき雑誌などで紹介されることもあった、このお店は、木造の一軒家でとてもフォトジェニックな、いかにも昔の大衆酒場という風情だったのですが、残念ながらマンションの建設によって取り壊しとなり、現在はそのマンションの1階での営業となったのだそうです。

しかし、マンション入口には、古くから続くこの店の看板が出されており、この店オリジナルの有名なキャッチフレーズ「今晩のんで、明日は仕事」が迎えてくれます。

真新しい縄のれんをくぐり、真新しい店内に入ると、店内の雰囲気は(いい意味で)新しくなくて、いかにも昔の大衆酒場風。新築マンションでも、こんな造りの酒場ができるんですねぇ。

壁にずらりと張り出されたメニューが古びていることによるのか、壁も板張り、天井もヨシズ張りで、コンクリートが見えない状態にしていることによるのか、提灯なども含めて白熱灯主体の照明によるのか、あるいは椅子がすべて木製の丸椅子で、テーブルやカウンターも、比較的チープそうに見える木製であることによるものか、店を切り盛りするおかあさん方が、普段着にエプロン姿といったゆる~い風情で働いていることによるものか、おそらくはそれらすべての合わせ技なんでしょうが、店に入ると同時に、ここが新築マンションの1階であることは忘れ去って、何十年も続いている老舗酒場の世界に引き込まれるのです。

店内は右手がカウンター席で、左手はテーブル席。カウンター席はL字型なのですが、縦方向のまん中が分断されていて、店のおかあさんたちが、そこから出入することができるようになっています。分断された向こう側に4人、手前に4人、さらにL字の短辺に4人と、都合12人座ることができます。短辺のところに、ふたつ空席があったので、私はそこに着席し、まずは燗酒(千福、280円)と、名物らしいホルモンにこみ(400円)を注文します。

左手のテーブル席は、壁に作りつけられた8人掛け長テーブルが3つ。この長いテーブルを、ふたり連れ、三人連れのお客さんたちが分け合うように使っているのです。

大型連休中の谷間のような平日(5月1日・火)の午後7時過ぎの店内は、7割程度の入り。連休中ということもあるのでしょうが、お客さんはいかにも地元の人といった感じの人が多くて、サラリーマンは少ない。カウンターは年配のひとり客、ふたり客がほとんどで、テーブルは三、四十台の夫婦連れや、グループ客が多い。若いお客さんも、数は多くないものの何組か入っています。女性比率は2割程度といったところでしょうか。

店を切り盛りしているのは女性ばかり4名。ちょうど私の目の前、カウンターの一番手前が焼き台になっていて、ここでもつ焼き(やきとん)を焼いている、おかあさんが、どうやら女将さんのようです。もつ焼きを焼きつつも、客席や入口にも目配りし、お客さんが入ってくると真っ先に「いらっしゃいませ」と声をかける。やわらかい人あたりながら、かなりしっかりものの様子です。ほかの3人のうち、ひとりは若くて体格のしっかりした、きれいな顔立ちのおねえさんで、残る二人は女将さんと同世代くらいの女性です。女将さんも含めた4名の女性が、みなさんそれぞれちょっと小じゃれていて、いい女であり続けることを捨てていないのがいいですよねぇ。女酒場(女性ばかり、あるいは女性が主体となって切り盛りしている酒場)の女性たちは、みなさんそういうところがあるように思います。

さて、目の前の燗酒。酒は広島・呉の「千福(せんぷく)」で、猪口も「酒王 千福」のロゴが入った白字に、底が蛇の目模様のもの。徳利にも「今晩のんで、明日は仕事」という、この店のオリジナル・キャッチフレーズが入っているのがおもしろいなぁ。

自慢の煮込み(ホルモンにこみ)は、大きく切った豆腐やコンニャク、ジャガ芋がごろりと入っていて、もつ煮込みというよりは、肉じゃがというほうが近いような外観。しかし、汁の中には、たっぷりとシロが入っています。あまり濃くないミソ味なので、汁まで全部いただけます。

もつ焼き(やきとん)の注文もひっきりなしに入っていて、女将さんはほとんど焼き台の前にいる状態です。焼き台の幅は「ホルモン」「カッパ」「秋元屋」などと同じく、幅が80~90センチくらいのもの。ひとりがじっくりと串焼きに対峙するには、このくらいの幅が精一杯らしいのです。

そのもつ焼きはカシラ、ガツ、シロ、ナンコツ、テッポウ、タン、ハツ、子袋、レバーが、それぞれ1本90円で、1本から注文できます。ツクネは2本で300円。野菜の串焼きはギンナン、シシトウ、シイタケが1本150円です。味付けは、タレ、塩が選べますが、おもしろいのは、焼いてる途中で焼き台の横に置かれた「いの一番」(うまみ調味料)がパラパラっとかけられること。「いの一番」の特徴ある容器も久しぶりに見て懐かしいのですが、もつ焼きに化学調味料を使うというのもおもしろいですねぇ。考えてみれば、昔は何にでも「味の素」や「いの一番」などを振りかけてたからなぁ。

もつ焼き以外に、こぶくろ刺し(400円)やレバー刺し(400円)などのメニューもあります。

焼き台の中央にドンと置かれた大きな魚の開き。これはもしかするとクサヤかな!? どれどれとメニューを確認すると「あじくさや 500円」という表記があります。

「えっ!? クサヤは、この大きさで1人前なんですか!?」と目の前の女将さんに確認すると、
「これが2人前なんです」という返事。なるほど、半身で1人前のところを、ちょうど2人前の注文が入ったので、丸1尾を焼いているんですね。半身で500円なら納得(それでも安い)ですね。1尾の価格だと激安すぎる。

都内の大衆酒場では、クサヤはけっこう人気があります。「自宅ではなかなか焼いてもらえなくて」というおじさんたちも、酒場だと遠慮なく食べられますもんね。そんなわけで、クサヤが焼ける匂いが遠くから漂ってくる(それでも店中に匂いは広がります!)ことはよく経験するんですが、こうやって目の前で焼かれているクサヤの香りを、至近距離で嗅ぐのは初めてだなぁ。ズドォーンと強烈に臭い中にも、嗅ぎなれてくると、やや酸っぱいような、それだけで旨味をたっぷり含んだような香りであることがわかります。んーーー。この香りは、どっかで嗅いだことがあるんだけどなぁ。どこだったかなぁ………。

あっ、そうか! これは「御天」の、とんこつスープの香りと共通するところがあるんだ!

表面上の薫り(まずドカンと入ってくる匂い)は、とんこつスープとクサヤでは大きく違うんですが、その強烈な匂いの下にある、やや酸っぱいような、それだけで旨味をたっぷり含んだような香りには共通点があるような気がします。表面のドカンが、あまりにも強烈なので、イヤな人にとっては、その下にある旨そうな香りなんて全然気がつかない世界なんでしょうねぇ。

焼きあがったクサヤは、調理場でチャチャチャっと小さくほぐして、お皿に盛って出されます。若いおねえさんは、しっかりと両手に軍手をつけて、ほぐす作業を行うのですが、おかあさんたちは素手のままで、ものすごいスピードでほぐしてしまいます。うーむ、さすがベテランですねぇ。

このクサヤにも強烈に引かれたのですが、ちょっとボリュームがありすぎなので、今日は小さなイワシ丸干し(350円)を注文して、燗酒(280円)もおかわりします。それにしても、燗酒が(冷や酒も)280円というのは安くていいですねぇ。

ちなみにビールは大瓶が500円、小瓶が350円、焼酎は白波、玄海が各280円にチューハイが350円、ウーロンハイは380円といったところ。日本酒は、今いただいている「千福」(280円)のほかに、「八海山(本醸造)」(400円)も選べます。カウンターの中の棚に、名前を書いた「いいちこ」のボトルがずらりと並んでいるところを見ると、ボトルキープもできるようです。

メニューに「にんにく酒」(280円)ってのがあるんだけど、なんだろうなぁ。「ニンニク酒って、日本酒?」と女将さんに聞いてみると、「焼酎の中にニンニクを漬け込んだものなんですよ」という返事。となりのおじさんが、ちょうどニンニク酒を注文したので見てみると、かなりじっくりと漬け込まれていたのか全体が黄色っぽい。こりゃまた、効きそうですねぇ。

3本目となる燗酒(280円)をもらって、じっくりとメニューも観察。竹の子煮(400円)や、みょうが梅和え(300円)、山うど酢みそ和え(350円)といった季節の小料理や、おから(300円)、ほうれん草(250円)、小松菜からし醤油(250)、にこごり(300円)などの定番メニュー、さらにはもつ焼き中心の酒場では珍しいマグロ刺身/山かけ(500円)、カツオ刺身(450円)、イカそうめん(400円)、〆サバ(350円)などの生ものも並んでいます。

竹の子煮をたのもうか、どうしようかと迷ったのですが、けっこう量も多そうなので今日のところはパスしておきました。

約1時間半の滞在は、お酒を3本に、料理を2品いただいて、1,590円のお勘定でした。次の機会には、もつ焼きも食べなきゃね。ぜひまた来てみたいお店です!

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通りから見える看板 / 入口・縄のれん / 燗酒とホルモンにこみ

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カウンター内の様子 / 「いの一番」(左下)のある焼き台 / いわし丸干し

店情報

《平成19(2007)年5月1日(火)の記録》

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