最近、横浜の飲兵衛たちの間で、あいさつのように交わされているのが「車橋に行ったか?」という言葉。
車橋(くるまばし)というのは、JR根岸線・石川町駅南口(元町側出口)から、西へ500mほど入ったあたりにある橋の名前で、橋の欄干の模様に車の形が使われていることから、こう呼ばれているのだそうです。
この車橋の近くに、昨年末にオープンしたのが「車橋もつ肉店」。みんなから「車橋に行ったか?」と語られているのは、このお店のことなのです。
横浜の地には、鶏肉を使った焼き鳥屋は多いのですが、いわゆる、もつ焼き屋、やきとん屋が、とっても少ないのです。これは、戦後の東京では、もつ類が肉の代用品として焼かれていたのに対して、横浜では中国をはじめとする外国の人が多くて、もつ類が昔からちゃんとした食材として扱われてきたからじゃないかと思っています。つまり、横浜では古来より、もつ類は「ホルモン=放るもん」じゃなく、中華料理などの正式食材だったから、もつ焼き文化が進展しなかったのじゃないかという仮説なんですが、真相のほどはどうなんでしょうね?
前置きが長くなりましたが、「車橋もつ肉店」は、そんな横浜の地にできた、正統派もつ焼き屋さんらしいのです。だいぶ前から気になっていたのですが、この店は私が飲みに出やすい水曜日が定休日とあって、なかなか行けなかった。今日は、木曜日ながら、午後7時前に仕事を終えたので、満を持して車橋へとやってきたのでした。
石川町駅から歩くこと10分ほど。「こんなところに店があるの?」と思う頃に、道路左側のビルの1階に、忽然と「車橋もつ肉店」が現れます。店に到着したのは午後7時半。店内には先客たちも大勢いて、にぎわっている模様です。
開けっ放しの入口から店内へと進むと、目の前の立ち飲みデーブルで飲んでるのは、歩く酒場データベース・K口さんではありませんか!
「あれぇっ!? どうしたの?」
「今日はこっち方面に飲みに来たんで、「武蔵屋」の後に来てみたんですよ」
とK口さん。なるほど。さすがに歩く酒場データベースと呼ばれているだけあって、研究に余念がないですねぇ。
店内には立ち飲みテーブルが4卓ほどあるほか、まわりの壁にも作り付けの立ち飲みカウンターが付いていて、本気で入ればけっこうな人数が入れそうです。今は、ゆったりと全立ち飲みテーブルが埋まっていて、壁の立ち飲みカウンターにも何組かの酔客がいる状態です。
客層はサラリーマンらしきグループ客と、この近くのおじさんたちといった感じでしょうか。女性は数名混ざっているだけですが、よく野毛界隈(主として「ホッピー仙人」)で、お見かけする方たちです。K口さんのいる立ち飲みテーブルには、ほかに男性ひとり客がいるだけで、比較的ゆったり目。私も、このテーブルで飲ませてもらうことにします。
「厨房側のカウンターの隅(すみ)、生ビールサーバーがあるところが注文場所になってるようです」
とK口さんに教えてもらって、さっそくそのサーバーのところへと足を運びます。
「ホッピー(360円)と塩ユッケ(450円)をお願いします」
「はい。810円です」
店は、ご夫婦らしき男女ふたりで切り盛りしており、注文を受けてくれました。奥さんがよく冷えたジョッキに、これまたよく冷えた焼酎を入れてくれて、それとは別に、またまたよく冷えた瓶入りホッピー(ソト)を出してくれます。
「塩ユッケは、後で持っていきますから」
ということで、この時点で支払いを済ませます。注文時払い(COO:キャッシュ・オン・オーダー)と、品物交換払い(COD:キャッシュ・オン・デリバリー)の中間のような支払い方式なんですね。
ホッピーを作ってK口さんと乾杯したところで、塩ユッケも到着です。なにしろ、この塩ユッケが、この店の名物らしく、誰に聞いても塩ユッケの話が出てくるほどの品。その塩ユッケ、黒いお皿に大葉が引かれ、その上に細く切られた肉がこんもりと盛られている。その真ん中にうずら卵の黄身がのり、白ゴマと刻みネギ。横には櫛切りのレモンが添えられています。皿の黒とのコントラストで、肉の赤さが映(は)えますねぇ!
その美しさを、しばらく鑑賞した後でプツンと黄身をつぶして、グリグリとかき混ぜます。さぁ、うまいと評判の塩ユッケ。どうかなぁ。
おぉーっ。なるほど、これはいいですねぇ。塩味もしっかりとしていて、いいつまみになります。
「塩ユッケ、噂どおり美味しいですよねぇ。私もさっきいただいたんですよ」とK口さん。
続いては焼き物を選びます。串焼きは、かわ、とりねぎ、レバー、スナギモ、ハツ、シロ、テッポウ、ガツ、バラPマン、タン、カシラなどが1本100円。1本から注文できるようです。その他に、梅ササミ、牛ロースの2品が上串焼として1本150円で並んでいます。そんな中から、牛ロース(150円)、かわ塩(100円)、ガツ醤油(100円)の3本を注文します。
K口さんは、ここで上・牛肉刺し(300円)を注文。すぐに出された牛肉刺しは、肉6切れに、おろしニンニク、おろし生姜に刻みネギが添えられたもの。これもまた黒い皿に盛られているので、紅白の霜降り肉が映えわたります。「よろしければどうぞ」と勧めてくれるK口さんの言葉に甘えて、ルイベ状に凍った肉を1枚はがして、ちらりと醤油をつけて口中へ。薄切りの肉は、口の中でフワァーッと融けるように広がっていきます。んーっ。これもすごいっ。しかも、これで300円というのが、うれしいではありませんか。箸が止まらず、ついつい半分くらい、いただいちゃいました。
串焼きも、もちろん標準以上のレベルにいってると思うのですが、塩ユッケや牛肉刺しの際立ち方が、もの凄すぎて、串焼きがその影に霞んでしまいます。
ちょうど近くに来たご主人に、
「どこか、もつ焼き屋さんで修業されたんですか?」
と尋ねてみたところ、
「いえ、私は焼肉屋で働いてたんですよ」
とのこと。なーるほど。この肉の刺身は、そこで身に付けたものなんですね。塩ユッケ、牛肉刺しの他に、短冊に「肉刺」と書かれたメニューは、コブクロ、センマイ、馬刺(霜降り)、レバー刺しの4品があって、それぞれ300円。これらもまた、楽しみな品々ですねぇ。
そのお楽しみは次回以降に置いておいて、今日はモツ煮込み(300円)も食べてみたいのです。飲み物のおかわりは黒ホッピー(360円)といきましょう。
モツ煮込みは、支払いカウンターの内側にドンと置かれた羽釜(はがま)で煮込まれていて、注文すると、それをたっぷりと小鉢についでくれます。内容はシロを中心に、ガツなど、様々なモツが入ったもの。野菜は大根のみ(トッピングの刻みネギは除く)です。
1時間半ほど立ち飲んで、今日の支払い総額は1,820円でした。
うーん。この店は、もつ焼きもさることながら、塩ユッケや牛肉刺しなどの、肉の刺身がものすごいっ! 今度は、残る4品の刺身も食べてみなきゃね!

「車橋もつ肉店」 / ホッピーは三冷 / 塩ユッケ

牛ロース、かわ塩 / ガツ醤油 / 上・牛肉刺し

モツ煮込み / 黒ホッピー / 入口近くの立ち飲みテーブル
・店情報
《平成19(2007)年7月5日(木)の記録》
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