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囲炉裏を囲んで(2) … 田楽「でんがく屋」(鎌倉)

070919b

 ホクホクと里芋を食べ終えて、次は何を焼いてもらおうかなぁ、と考えていると、

「今日は秋刀魚もあるわよ」

 と女将さん。

「えっ。そうなんですか。いつもは置いてないのかと思ってました。ぜひ秋刀魚をお願いします!」

「いい秋刀魚があったときだけ仕入れてくるのよ」

 もともと秋刀魚の塩焼きは大好物なのですが、中でも、この店でいただいたのが、とても美味しかったのです。なにしろ口を下にして串に刺し、炭火の輻射熱で焼くので、余分な脂は、口から串を伝って灰の中に落ちていく。いい脂の加減で、全体がほっこらと焼き上がるのです。

「脂がたくさん落ちたりする割りには、囲炉裏の灰はきれいですよねぇ」

「毎日、ふるいにかけて、きれいにしてるのよ。商売にしようとしたら、それくらいの努力は必要だわ」

 と女将さん。美人だし、言葉遣いは丁寧なものの、考え方はビシッと一筋通っていて、いい加減なことは許さないという、凛(りん)としたオーラを、たっぷりと出している女将さんなのです。

「こんばんは」

 そこへ入ってきたのは、これまた常連さんらしき、ご夫妻。先客の男性とも親しげに言葉を交わしています。

「それじゃ、私はボチボチと帰りますか。今日は何ももらわなくて悪かったね。昼に親戚と外食したのが、まだ残ってて…」

 と申し訳なさそうに席を立つ先客の男性。たとえ、お腹がいっぱいでも、この店に来ないと1日が終わらないのかもしれませんね。今日はビール2~3本とお通し(枝豆)で終了のようです。

 秋刀魚も焼き上がってきました。添えられた大根おろしに醤油とレモンをかけてスタンバイしたら、まずは秋刀魚の腸(はらわた)の部分からガッツリといただきます。ックゥ~ッ。やっぱり、うまいなぁ、ここの秋刀魚は。

 先ほどのご夫妻も、豆腐、里芋、茄子(なす)と食べ進んだあとは、秋刀魚の塩焼きと、鮎の塩焼きを注文です。

 ちなみに魚田(ぎょでん、魚の田楽)や、魚の塩焼きは、それぞれ1,500円からの時価です。

 秋刀魚も食べ終わり、3本目となる燗酒をもらうとともに、香のもの(700円)を注文します。香のものは、いぶりがっこに、白菜、きゅうり、山芋、茗荷と、酢漬けの生姜という6点盛り。

 そこへ男女ふたりずつの4人連れと、男性ひとり客が相ついで入ってきて、あっという間に囲炉裏端の椅子席は満席です。こうなると、ゆっくりとした展開の店内だけに、なかなか席が空かない状態になるんですよね。タイミングが非常に重要です。

 ご夫妻のところには、奥の厨房から炊き込みご飯が出されます。

「いつもこれが楽しみでねぇ」

 と、とても嬉しそうな笑顔のご夫妻。なるほど、こういう名物もあるんですね。冬場の鍋物も名物らしいので、それらもぜひ食べてみたいところです。

 さてさて。みなさんの焼き物が、炭火の周りにずらりと並んだところで、私は終了としますか。今日のお勘定は6,080円。1万円札で支払うと4千円のお釣り。端数部分を負けてくれたんですね。ありがとうございます。

「どうもありがとうございます。またいらして下さい」

 と店の出口まで出てきてくれた女将さんに見送られながら、静かなるくつろぎの店を後にしたのでした。

店情報(1)前回

《平成19(2007)年9月19日(水)の記録》

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