« トマトの漬物でトモ酒 … 居酒屋「トモ(とも)」(横浜・桜木町) | トップページ | 秋鮭ときのこの包み焼 … 小料理「燗酒屋(かんざけや)」(阿佐ヶ谷) »

初めての、ひとり串元 … やきとん「串元(くしげん)」(新宿)

071005x

「一見(いちげん)さんは入れないんじゃないの?」

「この前、行ったら、入口で断られたよ」

 そんな話も聞こえてくる「串元」。私自身、常連さんのグループに混ざって行ってるので、ひとりだとどんな感じなのか知りません。金曜日の会社帰りの今日、そんな「串元」に、はじめて、ひとりで行ってみることにしました。

 いつものように半分シャッターが降りていて、やっているのか、いないのかも、よくわからない「串元」。それでも、入口から垣間見える店内カウンターには、背広の背中がずらりと並んでいて、今日も盛況な様子がうかがえます。

 入口のすぐ左手で、名物のもつ焼きを焼いているのが、ギョロリと、ものすごい目力(めぢから)の店主(マスター)です。この店に入るには、まずこの最大の関門を通過する必要があるのです。ドキドキ。

「ひとりですけど、入れますか?」

 「ん?」という表情で、大きな目をギロリと、こちらに向けた店主、振り返ってカウンター席を確認すると、

「そこに入って」

 と、かろうじて空いていた2席の内のひとつを指し示してくれます。

 よしっ。これで第一関門はクリアだ!

 次の関門は、注文だな。この店は、件の目力店主と、その奥さん、そして息子さんという、家族3人で切り盛りしています。店主は入口にある、もつ焼きコーナーに陣取り、息子さんは奥の厨房で、もつ焼き以外の料理を担当しているので、ホール内を動きまわるのは、基本的には、おかみさんひとりなのです。これだけ大勢のお客さんの中で、タイミング良く注文を繰り出さなければなりません。

 まずはビールを注文して、もつ焼きはレバーとタンかな……、なんて心の中で算段していると、

「飲み物は?」

 という、おかみさんの声。えっ、と思って振り返ると、おかみさんが注文を取りに来てくれてました。大勢お客さんがいても、新しく入ってきた客は見てるんですね。

「瓶ビールをお願いします」

 この店の瓶ビールは、店の入口横にある水冷の冷蔵庫で冷やされているのが大きな特長。そのため、ビールが冷えすぎることもなく、年中安定した温度でビールを楽しむことができるのです。ちなみにホッピー(外)も、こちらは店の奥の冷蔵庫で、同じように水冷で冷やされています。

 瓶ビールを持ってきてくれた、おかみさんに、

「レバとタンをお願いします」

 と、元気よく注文したところ、

「うちのは串焼きではなくて、お皿で出すんですよ。一人前が多いので、まず1つ食べてから、次にされたほうがいいと思いますよ」

 と、おかみさん。

「なるほど。それじゃ、レバをお願いします」

 注文も関門のひとつだと、かなり力が入っていたのに、おかみさんの優しい気遣いで、肩の力もすっかり抜けて、ゆったりと1杯目のビールを飲み干します。

 そして出てきたレバは、オニオン・スライスとともに皿に盛られた10切れほど。ひと切れ、ひと切れがけっこう大きいので、普通の串焼きに換算すると4本分程度あるでしょうか。

 さっそく、その熱々のを1個。プリップリのレバーの食感とともに、口の中に広がるタレの味と香り。ここのタレは、独特の中華風で、どのモツにもよく合うのです。

 となりのお客さんの前には、徳利(とっくり)と猪口(ちょこ)が置かれてる。へぇ、この店にも日本酒があるんだ。ビールの次は私も日本酒にしてみましょう。もつ焼きを1皿にしたから、もつ焼き以外のメニューも食べられそうですしね。ここは、もつ焼きもさることながら、それ以外の料理もおいしいのです。ちょうど後ろを通りかかった、おかみさんに、

「イワシの一夜干し(400円)と、お酒を燗でお願いします」

 と注文すると、

「お酒は常温しかないんですよ」

 と申し訳なさそうな表情の、おかみさん。

「じゃ、常温でお願いします」

「すみません。燗酒の注文が少ないもので……」

 なるほど、そうかもなぁ。さっきも書いたとおり、この店で、徳利が並んでいるところは、あまり見たことありませんもんねぇ。

 イワシは、メニューにも「特大」と注記されているとおり、長方形皿からはみ出すほどの大きさで、胴体もぷっくりと丸い。カリッと香ばしく焼けた頭のところから、バクッと丸かじりでいただきます。

 いやっ、これはうまい。

 こうなると、もう止まりません。焼きたての熱々の間に食べなきゃ。お酒もそっちのけで、一所懸命、イワシに取り組みます。いやいや、これじゃ、美味しすぎて、つまみになりませんなぁ。酒いらずです。

 そんなわけで、あっという間にイワシを食べ終えて、もう1品、今度は完全につまみになるようにと注文したのは、長芋千切り(350円)です。

 最近、なんだか山芋、長芋のたぐいで酒を飲むのが、すっかりお気に入りになっていて、そういうのがあると、ついたのんでしまうことが多いんですよねぇ。若いころは、腹の足しにならないようなつまみは、あまり注文しなかったのですが、年とともに、むしろ腹の足しにならないつまみのほうが、ありがたくなってきた。肉より魚。魚より野菜と、好みの幅が広がってきているように思います。

 出された長芋千切りは、てっぺんに紫蘇(しそ)漬けがトッピングされた珍しいタイプ。生卵(黄身)が乗ってるのは、よく見かけるんですが、これは珍しいですよね。

 紫蘇漬けの味わいに期待して、醤油をかけずに、そのままグリグリと混ぜ、まずひと口、ズズッとすすり込みます。おぉ。紫蘇漬けのしょっぱさに、全体のふんわり、ねっとりとした味わいが膨らんだあと、噛めば千切りのシャキシャキ感。日本酒(残念ながら常温)が、進むこと進むこと。

 この店のカウンターは、壁に向かって作りつけられていて、客はたくさんのメニューが張り出された壁と対峙して飲むことになります。ひとりで飲んでるときは、店の人が働いている様子や、他の人たちが飲んでる様子などを眺めたり、他の人たちの会話を聞くともなしに聞いたりしながら飲むことが多いのですが、こうやって壁に向かうタイプは、視覚的な情報がない状態になってしまいます。ひとり飲みに慣れていない頃は、ちょっと苦手だったタイプです。

 しかしながら、ものは考え様で、自分が見えないということは、人からも見られない。まったく無防備にボォーッとした表情でくつろぐことができるのです。それがわかってからは、このタイプも、それほど苦手ではなくなってきました。

 ゆっくりと1時間半の滞在は、ビール(大瓶)とお酒に、料理が3品で、2,300円。ドキドキしながら臨んだ、はじめてのひとり「串元」でしたが、拍子抜けがするほど普通に楽しむことができました。また来ようっと。

071005a 071005b 071005c
イワシの一夜干し / 長芋千切り / トロトロに混ぜて

店情報前回

《平成19(2007)年10月5日(金)の記録》

| |

« トマトの漬物でトモ酒 … 居酒屋「トモ(とも)」(横浜・桜木町) | トップページ | 秋鮭ときのこの包み焼 … 小料理「燗酒屋(かんざけや)」(阿佐ヶ谷) »

コメント

新宿近辺ウロウロの際は、
ぜひぜひ声をかけてください!!
飛んでいきます(笑)

投稿: いずへい | 2007.10.25 17:10

はじめまして、いつも楽しく読ませてもらっています。

レバ焼き(炒め?)、本当に美味しそうですね~。

自分は20代の若造な上に、
周囲もこの店を知っている者はおらず、
いつも入ってみたいな~と思いつつ、通り過ぎています。

いつか機会があれば入店してみたいものです・・。


投稿: k.m | 2007.10.29 11:46

>いずへいさま
先日もどうも!(^^)
新宿界隈への出没が予定できる場合には、ご連絡させていただきますので、ぜひ!

>k.mさま
さすがに、チェーン居酒屋のような店員さんの応対はないものの、普通に楽しめるお店だと思います。いつも込み合っているので、1~2名じゃないと入れないかもしれません。

投稿: hamada | 2007.11.24 14:15

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 初めての、ひとり串元 … やきとん「串元(くしげん)」(新宿):

« トマトの漬物でトモ酒 … 居酒屋「トモ(とも)」(横浜・桜木町) | トップページ | 秋鮭ときのこの包み焼 … 小料理「燗酒屋(かんざけや)」(阿佐ヶ谷) »