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万古不易にくつろいで … 酒亭「武蔵屋(むさしや)」(横浜・桜木町)

武蔵屋にて


 「万古不易(ばんこふえき)」。ずっと変わらないことを示す四文字熟語です。その対義語で、その時々に合わせて変化を重ねていくのが「一時流行(いちじりゅうこう)」と言えば、両者の違いが際立つでしょうか。

 そんな「万古不易」を具現化した酒場が、横浜・野毛にある酒亭「武蔵屋」です。

 酒飲みというのは勝手なもので、自分自身は会社の中で、日々これ改善・改革という変化に追いまくられているにも関わらず、同じように経営努力がいるはずの酒場には、ガンとして不変を求めるようなところがあります。いやむしろ、日々、変化の波にさらされているからこそ、ゆっくりとくつろぐことのできる酒場には不変を求めてしまうのかもしれませんね。

 私自身も酒場にはできるだけ変わってほしくありません。たとえば、まだ20代だった独身時代(20年ほど前)に、よく通ったおでんの「あわもり」(広島県呉市)。最後に行くことができたのも、東京に転勤してから15年ほど経ち、店に行くのも15年ぶりとなる、平成14年(2002年)のことでした。当時とちっとも変わっていない店主や、出してくれるおでんに、思わずウルウルとなりながら、懐かしさにどっぷりと浸ったものでした。今でも、機会があればぜひ出かけたいお店です。

 さて「武蔵屋」。この店は、どういう経緯からか「いらっしゃいませ」という言葉は、けっして使いません。静かに入って、空いた席があれば、そこにすっと座る。

 店は、お姉さんが85歳、妹さんが83歳と、ともに80歳を越えてお元気な店主姉妹と、それを手伝う若いアルバイト2~3人の、合わせて4~5人で切り盛り中。その若い手伝いのおねえさんから、

「お酒ですか?」

 と問いかけがきます。だまって座れば、お酒3杯に、決まった料理が5品。これが飲むに連れて出されて、ひとり2千円というのが、まさに万古不易のこの店のルール。それなのに、なぜ「お酒ですか?」の問い合わせがくるかというと、これら定番の3杯・5品のほかに瓶ビールをもらうこともできるのです。

「はじめに小瓶のビールをください」

 ビールは、ビール用の料理1品(たいてい豆菓子)とともに出され、大瓶が700円、小瓶は500円です。

 最初に出される料理は、玉ねぎの酢漬けと、おから。そして、お客の顔を見て作り始めるタラ豆腐の3品。あぁ、「武蔵屋」に来たなぁ、と実に安心する瞬間でもあります。

 お酒をおかわりして2杯目になると、小皿の納豆が出されます。この店の特徴は、カウンターやテーブルの上に、調味料などがいっさい置かれていないこと。みんなの酒と肴だけがずらりと並んでいるだけなので、景色がいいのです。そうやって、調味料要らずの状態に味つけされているのに、だれからも味が薄いだとか、濃いといった文句が出ないのがまた素晴らしいところ。これも長年の積み重ねがあってこそなんでしょうね。

 この店の別名は「三杯屋」。お酒が3杯きりしか飲めないからです。「このくらいの量がちょうどいい。これだけ飲んだら、あとはまっすぐ家に帰ること」というのが、先代の木村銀蔵さん(店主姉妹のお父さん)のときからの、この店のルールなのです。

 その3杯目に合わされる肴は、小皿のお新香盛り合わせ。こうやって並べると、すべてご飯のおかずにもなるような品ばかりですね。ご飯に合うものは、日本酒にもピタリと合うのです。

 いつも変わらぬ、「万古不易」の店、酒、肴で、1時間半ほどくつろいで、今日は(というか、“今日も”)2,500円でした。

「なるべく、まっすぐ帰ってくださいね」(姉)

「わざわざ、ありがとうございます」(妹)

 という見送りの言葉もまた、いつもと変わらぬ安心感です。どうもごちそうさま。

店情報前回

《平成19(2007)年10月25日(木)の記録》

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» 竜宮城めぐり(上) … 「武蔵屋」~「ホッピー仙人」(横浜・桜木町) [居酒屋礼賛]
 仕事で都内から横浜にやって来たNさん。横浜にはほとんど来たことがないというお話だったので、夜は野毛の町に出かけます。  まず向かったのは、野毛の繁華街(?)からはポツンと離れた一軒家、酒亭「武蔵屋」です。ここは酔ってると入れませんもんね。1軒目で行かなくてはなりません。  水曜午後7時の店内は、開店直後から入っていた人たちが、ちょうど一段落した頃合いなのか、比較的ゆったりとしていて、右手6人掛け... [続きを読む]

受信: 2008.01.06 12:18

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