路地の奥の日本酒バー … 酒亭「善知鳥(うとう)」(阿佐ヶ谷)
バーは、お酒そのものをおいしく飲ませてくれるお店。ホステスさんのように、接客を主たる業務とするおねえさんはいませんし、カラオケや、テレビなどもない。BGMは、流れているお店もあるかな。
おいしいお酒は必ずありますが、料理は店によって、あったり、なかったり。カウンター席も必ずありますが、テーブル席は店によって、あったり、なかったり。
ひるがえって、阿佐ヶ谷駅北口の小さな路地にたたずむ、「善知鳥」。
「うちには日本酒しかありませんが、よろしいでしょうか?」
はじめてのお客さんには、店主が必ずそう確認する、日本酒だけの店。つまみも、莫久来(ばくらい)や、くちこ、海鼠腸(このわた)、ズワイ内子、鯛腸塩辛といった、呑ん兵衛好みする品々が、ずらりと並びます。
「どう考えても、ここはバーだ。日本酒を徹底的にうまく飲ませてくれるバーそのものなんだ」
ここに来るたびに、だんだんとそんな思いが強くなってきます。飲み物が洋酒ではなくて、日本酒を扱っているというだけで、ここ以上にバーらしい雰囲気をもったバーがあるでしょうか。
そんな「善知鳥」に、今日は会社の後輩Aを連れてやってきました。後輩Aも、昔から相当な酒好きで、連れ合いとも、飲み歩き・食べ歩きがきっかけで結婚に至ったような人物なのです。
店に着いたのは午後9時過ぎ。店内には5~6人の先客がいて、我われ2人は、カウンターの一番奥のほうに陣取ります。
実は今日は会社の関係の飲み会で、昼過ぎから飲んでいたので、もうけっこうヘロヘロになりながら、同じ中央線仲間でもある後輩Aと、やっと阿佐ヶ谷までたどり着いたような次第。日本酒の店と知りながら、まずは1本、ビール(ハートランド)を出してもらいます。
「あぁーっ。ビールを飲んで、やっと落ち着いたね。長い道のりだったよ」
と人心地。ゆっくりと、店主の今(こん)さんに、おすすめの日本酒を出してもらいます。
「これなんかどうでしょう」
と出してくれたお酒は、「生もとのどぶ」という、奈良で造られた純米にごり酒。これがまた、にごり酒らしいコクがあるのに、味わいはしっかりとしていて、甘くないのです。
一升瓶に「19号 +13.5」と書かれているのは、「19号タンクで作られていて、日本酒度が+13.5」ということを示しているんだそうです。仕込みのタンクまで表示されているとは、まるでカスクですね!
合わせる肴(さかな)は、海鼠腸(このわた)です。
「ぜひ、くちこを」
と、珍味好きの後輩Aが、酔った勢いで注文したのですが、
「これは、1枚が7千円ほどしますから……」
と、やんわりと断ってくれて、「その代わり」と、この海鼠腸をすすめてくれたのでした。
くちこは、海鼠(なまこ)の卵巣を大量に重ね合わせて干した高級珍味。もう少し大人数でやって来たときに、1枚炙ってもらって分け合うくらいがいいかもね。いずれにしても、今日のように、すでに酔ってる状態のときは、ちょっともったいない。
しかしながら、代わりにいただいた海鼠腸もまた、呑ん兵衛にはたまらない肴のひとつ。つるりと含むと、えもいわれぬ海の香りが、口の中いっぱいにふくらみます。
「次のお酒を!」
と注文すると、出してくれたのが、先ほどの「どぶ」と同じ奈良の酒、「篠峯(しのみね)」(純米吟醸無濾過)。酔ったノドにも、すっきりと心地よい日本酒です。
つまみに、クリーム帆立を注文すると、小皿にのせられて出てきたのは、ドロリとしたかたまり。これは陸奥湾でとれた帆立を、卵黄と油に浸け込んで、4週間ほど寝かしたものなんだそうです。こいつがまた、ことのほか旨くて!!
ゆっくりと過ごすうちに、気がつけば日付けが変わる時刻です。後輩Aは、このあと、さらに中央線で西に帰らないといけないので、ボチボチとお開きにしますか。
「今日はちょっと高いですよー」
と言いながら計算してくれたお勘定は、ふたりで8千円(ひとりあたり4千円)と、びっくりするほどではありませんでした。
美味しい日本酒と、その日本酒を盛りたてる珍味に大満足しながら、店を後にしたのでした。ぜったいにバーだよなぁ、この店は!
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