脂がのった寒ブリ刺身 … 魚河岸料理「初恋屋(はつこいや)」(田端)
横浜から京浜東北線1本でやってきたのは田端です。山手線内にある唯一の北区が、ここ田端駅。赤羽、十条、王子などの呑ん兵衛タウンを有する北区だけに、田端駅周辺にもいい酒場が何軒もあるのです。
そんな中、今日やってきたのは駅のすぐ東側(山手線の外側)にある魚河岸料理の「初恋屋」です。
この店には以前一度グループで来たことがあって、また今度、ひとりでじっくりと来てみたいと思いながら、なかなかやって来ることができなかったのでした。
交差点の角に建っている「初恋屋」は、ちょうどその角を斜めに切り落としたところが入口で、そこから店内に入ると、正面にやわらかく「く」の字に曲がったカウンターがあり、入口から見て右側に小上がりの座敷席が、左側に何卓かのテーブル席が並んでします。
火曜日、午後9時の店内はゆるやかに満席状態。しかし「く」の字カウンターは、上の辺にふたり、下の辺にふたりが座り、ちょうど角のところが空いていて、そこに案内されます。
総席数30席あまりの店内を切り盛りしているのは店主夫妻。お互いのことを「パパ」「ママ」と呼び合うお二人が初恋で結ばれたから、この店は「初恋屋」というロマンチックな店名なんだそうです。パパはカウンター内の厨房で調理を担当しており、ママはホール全般を受け持ちます。
まずおしぼりが出され、割り箸とお通しの小鉢が用意されます。今日のお通しはなんとイカゲソの塩辛です。
食文化史研究家の永山久夫(ながやま・ひさお)さんが書かれた「酒の肴雑学百科」によると、酒の料理のはじまりはわたもの、つまり塩辛がいいのだそうです。2千年も大豆醗酵食品を取り続けてきた日本人の舌は、塩辛のようなグルタミン酸系の食べ物をのせると、感覚がシャープになる。さらにタンパク質がアミノ酸に分解されて消化酵素も多いので、消化薬を飲むような働きもあるというから、ありがたいではありませんか。
こうなると、はなから日本酒がいいですね。ここの標準的な日本酒、つまり銘柄の指定をしないで「お酒」とたのんだら出てくる日本酒は、「奥の松」本醸造が大徳利(二合)で500円。普通に本醸造酒を出してくれるというのがうれしいですねぇ。さっそくその「奥の松」を燗でいただきます。
前に来たときにすごくおいしかったアラ大根煮(300円)を注文すると、すぐに出されるアラ大根煮は、大きく切られた大根が3切れに、いろんな魚やイカなどのアラがたっぷりです。黒々と色艶よく煮込まれた大根からほっくり、ハフハフといただきます。うーん。これはうまいっ!
「どう。美味しいでしょう。それでも今日から煮込みはじめたものだからねぇ。明日になると、もっとうまいよ」
とカウンターの中から笑顔で声をかけてくれるパパ。ねじり鉢巻をキリリと締めた姿は、魚河岸の親父風でちょっと強面(こわもて)なんだけど、ニコッと笑うと、とても優しそうな表情になるのです。
たっぷりのアラ大根煮で大徳利を飲み干して、燗酒をおかわりするとともに、料理のほうは、今度は寒ブリの刺身(480円)を注文。出されたのはつややかに輝く、大きな刺身が8切れほど。プリプリと脂ののり切った寒ブリのうまいことといったら! うー、お酒、お酒。
カウンター上のネタケースには、寒ブリ以外にも旬の魚介類がずらりとならんでいて、最高値の釣りアジ(豊後アジ)刺身でも680円、大トロや、カマ中トロなどが500円、クジラやエンガワなどが480円と、とにかく安いのです。
「うちは関サバだって980円で出すからねぇ」とパパ。
関サバは仕入れがキロ5,500円くらいなので、刺身に造ると半分くらいになって、キロ1万円を超える品物になるんだそうです。
「それを1人前100グラムぐらいずつ出すから、ほとんど儲けはないんだよ。それでも回転良く出てもらって、明日もまた新しい魚を仕入れられたほうがいいからね。寒ブリも、明日もまた仕入れるよ!」と元気に笑います。
となりに座っている女性ふたり連れが食べているのはネギマ鍋(900円)。このネギマ鍋も、この店の冬場の名物なんだそうです。
1時間半ほどの滞在は、ちょうど2千円。お通しは220円だったんですね。どうもごちそうさま。
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