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店中がまるで親戚同士 … 大衆酒場「山城屋(やましろや)」(南砂)

カブのぬか漬(手前)とイワシ丸干


 地下鉄が通ってなかったころ(1988年以前)の豊洲(江東区)は、一番近い駅が、歩いて30分ほどかかる地下鉄東西線・門前仲町駅という交通の便の悪い土地でした。

 そんな不便な土地であったにもかかわらず、あるいは不便な土地であったからこそ、豊洲交差点の近くには、古い小さな酒場がたくさん並んでいて、夜な夜な、近くの工場での仕事を終えたおじさんたちが、煮込みやレバ刺しをつまみながら、ホッピーを飲んでいたものでした。

 開けっ放しの入口越しに見えるその様子が、ものすごく美味しそうに感じたのですが、当時はまだ、ひとりでそういう酒場に突入するほどの勇気もなく、うらやましく眺めるばかりだったことを思い出します。

 しかしながら、地下鉄有楽町線・豊洲駅が開業するや、豊洲界隈は急激に都会化。古い小さな酒場群はあっという間になくなり、その後しばらくすると周りの工場群までなくなって、再開発が進む街(商業地)になってしまったのでした。往時を偲ぶことができる酒場は、もはや「山本」くらいしかないのかも。そういえば「山本」にも、ずいぶん行ってないなぁ。

 そんなわけで、本格的な下町酒場は、多少交通の便の悪いところにあるんじゃなかろうかと思い立って、やってきたのは江東区南砂にある大衆酒場「山城屋」です。

 今日は地下鉄東西線・東陽町駅から、トコトコと30分ばかり歩いてやってきましたが、この店は、都営新宿線の住吉駅、西大島駅、そして地下鉄東西線の東陽町駅、南砂駅という4つの駅を結んでできる長方形の、ちょうどまん中あたり。どの駅からも歩くと20分以上かかるという、まさに不便な立地条件(失礼!)なのです。

 来てみて初めて気がついたのですが、店のすぐ目の前に都バスの「北砂一丁目」バス停があります。後日調べてみたところ、秋葉原駅前が始発で、神田駅前、岩本町駅前、東日本橋駅前、水天宮前、清澄白川駅前などを経由して、このバス停を通り、最終的には葛西駅まで行く、都バス・秋26系統(1時間に3本程度)が通っているようです。これに乗ってくれば、もっと楽にやって来ることができたんですね。今度からはそうしましょう。

 で、「山城屋」。土曜日、午後4時20分の店内は、開店から20分しか経ってないにもかかわらず、奥の座敷は団体客でいっぱい。手前右手にある9人分ほどの直線カウンター席では、中年のご夫婦が仲良く談笑しており、左手に3つ並ぶ4人掛けテーブル席の一番奥には、2人連れの年配男性客がいて、盃を傾けています。

 私もカウンターのまん中付近に座り、まずはホッピー(320円)と煮込み(370円)をもらってスタートです。

 同じ下町でも、京成線沿線あたりはハイボール(チューハイ)文化で、江東区あたりはホッピー文化という感じがするんですが、どうなんでしょう?

 この店のホッピーは、生ビール中ジョッキに氷入りの焼酎が出され、それとは別に瓶入りホッピー(ソト)が出されるタイプ。カウンターの夫婦連れも「ナカください」と、ちょうどナカ(ホッピーの焼酎部分)のおかわりをしたところです。

 長方形っぽい平皿に盛られた煮込みは、ほとんどシロで、白いコンニャクもちょっと入っていて、刻みねぎをトッピング。外は寒いこともあって、カウンター内に置かれた鍋でクツクツ煮込まれている煮込みは大人気です。

 奥の座敷は、まず小上がりの座敷席があって、その奥に一般家庭の茶の間のような和室もある変わった造り。不思議そうに眺めていると、

「ふだんは手前側しか使わないんだけど、今日はお客さんが多いので、奥の間まで開けてるのよ」

 と、ホールを担当しているおねえさん。店はこのおねえさんを中心に、お父さん、お母さん、弟さん、甥っ子という5人で切り盛りしているようです。切り盛りも家族なら、お客さんたちもみんな含めて親戚同士のような雰囲気で、店全体にほんわかムードが漂います。今入ってきたお客さんも、

「いやいや、久しぶり。先週の土曜日以来だからなぁ。1週間も来れなかったよ」

 なんて言いながら、テーブル席の先客と合流しています。このテーブル席の人たちは、グループ客ではなくて、それぞれひとり客として入ってきた常連さんたちのようです。まわりに小さな町工場みたいなのも多く、交通の便もそんなによくないこの地域。この酒場が地域のコミュニケーションの場にもなってるんでしょうね。

「はい。ぬか漬、お待たせー」

 カウンターの夫婦連れのところに出されたのは、カブ1個分をきれいにスライスして盛りつけた、カブのぬか漬(210円)。カブそのものもそうですが、緑の茎の部分も刻んで入っているのが、いかにも美味しそう。

「すみません。私もカブのぬか漬をください。あと、『今日のお酒』は、燗(かん)をつけてもらうこともできるんですか?」

「はいはい、できますよ」

「じゃ、燗でお願いします」

 典型的な下町酒場といった雰囲気の「山城屋」なのに、飲み物メニューには「越乃寒梅」(630円)、「久保田・千寿」(580円)、「八海山」(530円)といった地酒が比較的安価に並んでいるほか、『今日のお酒』と書かれた張り紙に、新潟の「荒澤岳」(420円)という銘柄が書き出されていたので、それを注文したような次第です。

 ちなみに、普通に「お酒!」と注文すると、「白馬の雪」(270円)が出されるようですが、奥の座敷にも日本酒ファンのお客さんがいるようで、「荒澤岳」の売れ行きがよくて、すぐに一升瓶が空いてしまいます。

 おねえさんが、カウンター奥の壁にずらりと並ぶ短冊メニューをかき分けると、そこには棚があって、新品の各種地酒がずらりと並んでいます。その中から1~2本を取り出して、厨房の弟さんと相談。結果、次なる『今日のお酒』として選ばれたのは、山形の「米の力」(「亀の尾」の純米酒)です。値段は450円と設定されました。

 これはいい仕組みですねぇ。一升瓶の地酒を1本ずつ、『今日のお酒』として設定し、なくなったら次なる1本がまた出される。このやり方だと、あれもこれもが抜栓(ばっせん)された状態で長く置いておかれることが少なそうです。

 さっそくその「米の力」を、またまた燗でいただいて、つまみにはイワシ丸干(300円)をもらうと、出されたのは見るからにおいしそうに焼けたイワシが3尾。煮込みといい、カブぬか漬といい、イワシ丸干といい、それぞれ呑ん兵衛の琴線に触れる品々でうれしいなぁ。

 料理は、キュウリぬか漬、モロキュウの210円から始まって、らっきょう、キムチ、冷奴、めかぶとろろ、アジじゃこ天などの270円と続き、高くても磯ツブ貝(470円)、トラフグ皮(580円)、カキフライ(680円)、鯨刺身(740円)、生うに(780円)、金目鯛刺身(800円)、鯨ベーコン(840円)と、すべて3桁台(千円未満)です。

 それらの料理とは別の一角に並んでいる鍋物も、一人分から注文可能なようで、カキ鍋(1,050円)、白子鍋(1,050円)、豚鍋(980円)、鳥鍋(850円)、湯豆腐(680円)と、これまたそれほど高くない。冬場は、鍋をひとつ注文すると、あとはもう何もいらないくらいの肴になっちゃいますもんね。

 最後にトマトハイ(320円)と目玉焼(270円)をいただいて、2時間ちょっとの滞在は2,660円。外は、みぞれ混じりの雨が降るあいにくの天候ですが、店内は下町酒場らしいアットホームなあたたかさで満ちあふれるお店でした。どうもごちそうさま。

店情報

《平成20(2008)年2月9日(土)の記録》

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