沸いて出る酒、金の色 … 酒亭「ふくべ」(日本橋)
「ふくべから 沸いて出る酒 金の色」
酒場としては昭和14(1939)年創業という老舗「ふくべ」の、カウンター席と厨房とを仕切る暖簾(のれん)に書かれている句です。「ふくべ」というのは瓢箪(ひょうたん)のこと。瓢箪は昔、酒器としても使われていたので、それを店名にしたんだろうと思います。
土曜日、午後6時前の「ふくべ」は、先客は、カウンターに二人ほど。八重洲という土地柄もあってか、平日ほどは混雑しないんでしょうね。
「ふくべ」は、入口を入ると、すぐ目の前が12人ほど掛けられるL字のカウンター席で、そのカウンター席手前を右に抜けて別の間に入ると、そこにテーブル席が並ぶという造り。ひとり客はカウンター席に、グループ客はテーブル席にというのが基本的な流れです。そのカウンター席に座ると、すぐにお絞りと、木製のお盆にのった、お通しの昆布佃煮が出されます。
「ふくべ」は、日本各地の日本酒がそろっていることでも知られていますが、その日本酒は最新流行の地酒ではなくて、古くから続く、いわゆる有名酒(ナショナル・ブランド)のものが多いのです。
東京駅に近いということもあるのでしょうか。日本中どこの人が来ても、ほぼ自分の出身地近くのお酒を飲むことができます。たとえば、愛媛出身の私から見ると、梅錦(うめにしき)があるほか、高知の司牡丹(つかさぼたん)や土佐鶴、広島の千福や賀茂泉といったお酒に巡り合えるのです。
しかしながら、この店に来たらぜひ飲みたいのが、カウンターの奥にデンと鎮座している四斗樽の菊正宗。今日はこれを燗(かん)でお願いすると、一合升が入った漏斗(じょうご)を徳利の上にのせて、樽の栓を抜きます。トックトックトックとお酒が入り、一合升からあふれたところでキュッと栓を閉めて、くるりと一合升をひっくり返すと、徳利の中には正一合+あふれた分の樽酒が入ります。これをカウンター内の湯煎式燗付け器で、じっくりと温めてくれるのです。
それにしても、この一合升。漏斗の上で、くるり、くるりとひっくり返されてるうちに、見事に底の角がとれて、丸くなっています。「この升で、9年ほど使ってます」と店主。9年間、毎日、毎日の積み重ねが、この升の形になったんですねぇ。すごいっ。
小さな紙に印刷された料理メニューは、あじ、かます、いか焼き、板わさ、キンピラ、エイヒレ、しらすおろし、マグロぶつ、くさや、さつま揚げ、しめ鯖、塩辛、冷奴、たらこ、タコ刺し、月見、たたみいわし、うるめいわし、納豆スペシャル(鮪、いか入り)、いか納豆、マグロ納豆、玉子納豆、トマト・玉子つきサラダ、はんぺん、生揚げ、玉子焼き、ぬた、もろきゅう、やまかけ、とろろいも、お茶漬け(たらこ、梅、海苔)、おにぎり、お新香、わかめのお吸い物という全34品。その他に、年中食べることができる、この店の名物でもあるおでんなどもあるようです。数はそれほど多くないものの、呑ん兵衛好みのする品々がそろっています。メニューには価格表記はないのですが、350~550円程度のものが多いようで、かますなどの魚類が900円ほどするようです。
そんな中から、冷奴(400円)を注文します。
それにしても、こんな大きな四斗樽をどうやってあそこに置くんでしょうねぇ。
「入口から店の奥までは台車で運んできて、そこからはカウンターの端のところをテコのように使って上にあげるんですよ」
と、スキンヘッドで一見(いっけん)怖そうに見えるんだけど、話はじめるとすぐに優しいことがわかる店主が教えてくれます。この店主がお酒の支度をし、奥の厨房で女性ふたりが料理などを担当している様子です。
2杯目も「菊正宗」の樽酒を燗でもらい、つまみには、くさや(500円)です。炙ったあと、ざっくりと割かれたくさやは、噛みしめると旨みがたっぷり。これが燗酒にピタリと合います。この店のくさやは、それほど臭いがきつくないので、初心者(?)でも大丈夫じゃないでしょうか。量もけっこうあるので、これだけで2~3本はいけそうです。
午後7時前まで、1時間ちょっとの滞在は、ちょうど2,000円でした。どうもごちそうさま。
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