グツグツと沸く煮込鍋 … 牛にこみ「大坂屋(おおさかや)」(門前仲町)
ゆるやかに弧(こ)を描くカウンターの真ん中に据えられた丸い煮込み鍋。黒々とした煮汁がグツグツ、グツグツと沸き立ち、湯気がもうもうと上がっています。この煮えたぎる煮込み鍋が、ここ「大坂屋」の大きな特徴なのです。
引戸を開けた瞬間は、「ありゃ、今日は入れないかな」と思うくらい人がいっぱいだったのに、カウンターに並ぶお客さんたちにキュキュキュッと詰めてもらったところ、なんと煮込み鍋のすぐ近くに空席が出現。鍋近くに座ることができたのでした。
鍋近くに座れると、なにがいいかというと、鍋の横に置かれた菜箸(さいばし)で自分の好きな煮込みを取ることができるのです。
そのかわり、遠くにいるときは女将さんに「シロのよく煮えたのと、ナンコツの硬いの」なんてお願いしておけば、その注文に応じた串を、鍋の中から女将さんが拾い出してきてくれるのですが、自分で取るときは、そのあたりも見極めないといけません。もちろん、鍋のすぐ前に座っていても、女将さんにお願いすることはできますので、よくわからないときは、そうするのがいいんじゃないかと思います。
この店の煮込みは、串に刺された状態で煮込まれていて、フワ(肺)、シロ(腸)、ナンコツ(喉)の3種類。フワの串はフワだけ、シロの串はシロだけと、1本の串には同じ部位だけが刺されています。(1本120円)
煮込み鍋はそれほど大きくなくて、煮込みが減ってくると、下ごしらえを終えて冷蔵庫にスタンバイされている新たな串が、どんどん投入されます。これがグラグラと煮える鍋の中で煮込まれるのですが、前から入ってたものと、新しく入れたものでは歯応えや、味の染み込み具合が違うため、常連さんたちはそれぞれ自分の好みで「硬いの」や、「軟らかいの」などの注文をするのでした。
まずはさっそく焼酎(390円)をもらうと「氷も付ける?」と聞いてくれる女将さん。「はい」と答えると、普通にグラス1杯の焼酎の梅割りを作ってくれたあと、それとは別に氷を入れたロックグラスを出してくれます。このロックグラスに焼酎を移して飲めば、焼酎がキュンと冷えて、飲みやすくなるとともに、熱々の煮込みともよく合うようになるんですね。
焼酎と一緒に出されるのは定番のお通し、大根とキュウリの漬物です。この店では、基本的に箸を使わないので、漬物は添えられた小さなフォークでいただきます。
「煮込みは?」と聞いてくれる女将さんに、「まず3本。それと玉子入りスープ」と注文すると、女将さんが煮込み鍋の中からおいしそうなところを3本選んで、白いお皿によそってくれます。ここで「自分で取る」と返事すると、取り皿だけ出してくれるんでしょうね。
玉子入りスープ(320円)の注文が入ると、それから殻付きの生卵を煮込み鍋に投入します。これから半熟玉子の状態まで仕上げていくのです。待つこと数分。鍋の中から取り出したゆで玉子の殻を、女将さんはその場で剥き始めます。「熱くないんですか?」という聞かずもがなの質問に「ふふふっ」と笑いながら、他から注文が入っていたものも含めて3個ほどのゆで玉子の殻を、あっという間に剥き終わります。できたて熱々のゆで玉子を小鉢に1個入れて、ツイツイと包丁で十文字に切り目を入れます。煮込みの汁をたっぷりとかけたら玉子入りスープのできあがりです。
この玉子入りスープ。そのまま食べてももちろんおいしいのですが、吉田類(よしだ・るい)さんの「酒場歳時記」によると、この中に串からはずした煮込みを入れて、一緒に食べるのがまたいいのだそうです。今日はぜひその食べ方をしてみようと、最初から玉子入りスープをたのんだのでした。
半熟玉子をグチャっと崩して、煮込み汁とさっとかき混ぜておいて、菜箸で鍋の中から煮込みを1本取り出します。この煮込みを、玉子入りスープに付いてくるスプーンを使って抜き取り、玉子入りスープと一緒にスプーンでいただくと……。うまぁーっ。煮込みのちょっと甘いところがマイルドになるとともに、玉子の黄身のコクがからまって、そのままでも十分おいしい「大坂屋」の煮込みが、さらなる高みへと進化します。
焼酎をおかわりして、煮込みもさらに1~2本、玉子入りスープの中に取り出して食べ進み、今日のお勘定は2,330円でした。
女将さんが「何十年たっても変わらぬ味と言ってくれるお客さんがいてうれしい」と話してくれましたが、本当にここの牛もつ煮込みはクセになる味ですよね。どうもごちそうさま。
なお、5月17日(土)から25日(日)までは、所用のため9日間のお休みだそうです。出かける方はご注意のほど!
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