〔コラム〕 酒場のローカル・ルール
「写真撮りまーす。ブログにも載せてもいいですかー?」
「いいよー」「載せて載せて。楽しみぃ!」
「じゃぁ撮りまーす。はいっ、ポーズっ」
野毛にあるホッピー専門のバー、「ホッピー仙人」では、新しいお客さんが入ってくると、その人が一見(いちげん)さんであろうと、常連さんであろうと、まったく関係なく、その人の1杯目のホッピーに対して店中で乾杯するというのが、なんとはなしに店の決まり(ローカル・ルール)として定着しています。
この乾杯ひとつで、アッという間に、みんなの輪(店の雰囲気)の中に溶け込めるし、お客さんがやってくるたびにその乾杯を何度も繰り返すうちに、知らない人同士であっても一緒に写真を撮っても平気なほどの連帯感が生まれてくるのです。
他の店がマネしようと思っても、すぐにはマネすることができないこのローカル・ルール。じわりじわりと時間を掛けて、ここまでのローカル・ルールを確立してきたんでしょうねぇ。
各家庭や各職場にそれぞれローカル・ルールがあるのと同じように、どの酒場にも必ず、その店だけの決まりごと、ローカル・ルールが存在しています。それを明示的に張り紙などで示してくれたりする店もたまにはありますが、ほとんどの場合は不文律として存在するだけで、どこにも書き出されたりはしていないのです。
有名なところでは、野毛「武蔵屋」の「酒は3杯まで」というルール。ほとんどの人が知っているこのルールも、実は店内のどこにも書かれていないのです。お客さんが書いた色紙の句に、その片鱗をうかがうことができる程度です。
門前仲町「魚三酒場」には「注文は、まず生ものから」というローカル・ルールがあり、いきなり煮物や焼き物などを注文すると「生からっ!」と、短く鋭く指摘されたりします。
荻窪「やき屋」では、大人気のイカ大根や珍味わた和えは、ひとり1回しか注文することができません。そうしないと、それを食べたくてやってくる大勢のお客さんに行き渡りませんもんね。それでも途中で売り切れることが多いのです。
立石「宇ち多゛」のもつ焼きの注文方法などもローカル・ルールと言えますよね。
そのローカル・ルールがどうやって作られてきたんだろうなぁ、ということを考えながら飲んだりするのもまた楽しいものなのですが、はじめて行く店では、その店のローカル・ルールがよく分からなくて戸惑うこともあります。そんなときは素直に分からないという顔をしていれば、お店の人が教えてくれたり、まわりの常連さんが教えてくれたりします。
最初に横浜の「豚の味珍」に行ったときには、注文をしたあと、ひとり、カウンターでボォーッとしていると、カウンターの中の店長と、横に座っている常連さんが「待ってる間にタレを作るんだよ」と、まさに手取り足取りといった感じでタレの作り方を教えてくれたのでした。
ローカル・ルールを知っててそれを守らないお客には厳しいけれど、ローカル・ルールそのものを知らない人に対しては、たいていの店は寛容ですので、安心して出かけてください。事前にちょっとだけ調べて、中途半端に通ぶったりするほうが、むしろ嫌(いや)がられますのでご注意を!
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コメント
面白いルールがあるんですね。
その取材力も凄いですが・・・。
またまた楽しみにしてます!!
投稿: jiro | 2008.10.01 09:23
>jiroさま
コメントをいただき、ありがとうございます。
個人経営の酒場には、酒場の数だけローカルルールがあると言っても過言でないほどローカルルールがあって、それを知るのもまた楽しみです。
投稿: 浜田信郎 | 2008.10.05 11:47
いつも楽しく読ませていただいております。
2回目、3回目に行くのが楽しみになってくるローカルルールってのが良いですね。
何だかスーッとその雰囲気に入っていけるような。
投稿: 小林麦酒 | 2008.10.05 21:27
小林麦酒さま
最初はちょっと敷居が高く感じるくらいのローカルルールのほうが、2回目、3回目でなじんでくると、なんだかそれが普通に感じてくるとともに、自分も常連さんの仲間入りをしてきたような気がして嬉しかったりしますよねぇ。
投稿: 浜田信郎 | 2008.11.02 11:21