老舗そば屋で蕎麦屋酒 … そば「泰明庵(たいめいあん)」(銀座)
普段は新橋あたりで飲むことが多いという酒友・Oさんと共に、銀座の老舗そば屋、「泰明庵」にやってきました。
以前、銀座で働いていたこともある太田和彦(おおた・かずひこ)さんが、その著書「ひとりで、居酒屋の旅へ」の中で、『ここは銀座の老舗蕎麦屋だが居酒屋としてもたいへん優れ、私が銀座でもっとも好きな居酒屋のひとつはここだ。蕎麦屋の酒の肴は板わさかせいぜい卵焼だが、ここは刺身、煮魚、焼魚、青物、珍味となんでも来いだ。酒も数種がそろう。蕎麦屋ゆえ昼から休みなく営業し、昼下がりに一杯ができる。蕎麦屋酒の妙味は最後にどの蕎麦を食べようかと考えながら飲む楽しみだ。豊富な種物がそれに応える。私のおすすめは「舞茸カレーそば」。まあ食べてみてくだされ。』と絶賛されている「泰明庵」。ぜひ一度行ってみなくてはと思いながらも、なかなか機会を作ることができず、やっと今日、念願がかなったのでした。
しかしながら、横浜での仕事を終えてから、こちらに出てきたので、「泰明庵」に到着したのは午後8時。この店は8時半ラストオーダー、9時閉店なので、もうほとんど時間が残っていません。
白地に「生蕎麦」と染め抜かれた暖簾(のれん)をくぐり、曇りガラスの引き戸を引いて店内に入ると、4人掛けのテーブル席が4卓、2人掛けのテーブル席が1卓という思っていたよりも狭い店内には先客はなく、ガラーンとした状態です。
「いらっしゃいませ」と迎えてくれる女店員さんに、
「ふたりですけど、まだいいですか」と、オズオズとたずねると、
「どうぞどうぞ」という快い返事。さっそく4人掛けのテーブル席のひとつに座り、まずはとりあえず瓶ビールを注文します。
「瓶ビールはアサヒ、キリン、サッポロとございますが」
「じゃ、サッポロをお願いします」とOさん。出されたのはサッポロ黒ラベル中瓶(550円)です。
噂どおり、メニューの数はものすごく多くて、正面の壁一面を短冊が埋めつくすほど。全体に目を通すだけでも、かなりの時間がかかりそうです。しかも、そばのメニューと、その他の一品料理のメニューが渾然一体(こんぜんいったい)となって並んでいるので、どれがそばで、どれが一品料理か、我われのような「泰明庵」初心者には分かりにくいのです。Oさんとふたりで、「うーむ」と悩みながら、枝豆(580円)と小柱の佃煮(380円)を選びます。
それらのつまみをつつきつつ、ビールを飲むうちに、実は2階にも座敷席があって、そちらにはグループ客がたくさん入っていそうなことが判明しました。会社帰りに立ち寄る飲み主体のみなさんは、はじめから2階に上がっちゃうんですね。
1階にも、我われの後から、ひとり、またひとりと、いかにも常連さんらしき男性ひとり客がやってきて、かなり盛況な状態になってきました。なぜ常連さんらしいことがわかるかというと、お店の女店員さんたちから名前で呼ばれているからです。これだけ人が多い銀座の地にあって、名前を覚えられるほどの常連さんというのもすごいですよね。
「今日はもう遅いから、焼酎と、かしわせいろもすぐに出して」
なんて注文をしています。我われも瓶ビールをもう1本もらって飲むうちに8時半になり、女店員さんが、
「お料理はラストオーダーになりますが…」
と聞きに来てくれます。太田さんおすすめの舞茸カレーそばにも引かれますが、初回なので、もりそば(500円)を1枚だけもらうことにします。
出されたもりそばは、きちんと作られた町場のもりそばって感じ。この店は、雰囲気全体が、きちんとした町場のそば屋さんという感じで、とても居心地がいいのです。悪い意味での銀座らしい風格とか、老舗らしい慇懃無礼(いんぎんぶれい)さのようなものは、まったくありません。
そのもりそばを、ズズッ、ズズッと一気にいただいて、そば汁(つゆ)をそば湯で割って仕上げます。
1時間弱の滞在は、ふたりで2,560円(ひとりあたり1,280円)でした。どうもごちそうさま。
・店情報
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