うるめいわしで虎ノ門 … 居酒屋「升本(ますもと)」(虎ノ門)
都内での仕事を終えて、虎ノ門の老舗大衆酒場「升本」にやってきたのは午後6時前。金曜日とあって、すでにテーブル席だけの1階店内にはお客さんがたくさん入っています。
「いらっしゃいませ。おひとりさん? こちらにどうぞ」
そう言いながら、入口から二つ目のテーブルの一角に案内してくれるのは年配の男性店員さん。雰囲気からして、もしかするとこの人が、この店の主(あるじ)なのかもしれません。
席に座るのと同時に、女店員さんがお手ふきと割り箸、そして取り皿を出してくれて、レシートを持ってスタンバイです。
「小瓶のビールをお願いします。あと、たこのぶつ切り」
「はーい」と2枚1シートのレシートに注文を書いて、上側の用紙をピッと切り取って、厨房との間にある注文票置き場において、すぐにビール(サッポロ黒ラベル小瓶、400円)を出してくれます。
今日は燗酒をいただこうと思っているのですが、仕事終わりにはやっぱりビールもかかせません。小瓶のビールは350mlで、グラスに軽く3杯程度。最初に喉を潤すのにちょうどいい量なのです。
たこのぶつ切り(550円)が出たところで、最後の1杯のビールを飲み干して、オリジナルブランドの日本酒「虎ノ門」(300円)を燗でもらいます。
ここ「升本」は、たこおでんが名物で年中食べることができます。普通(足1本分程度)のたこおでんが650円で、壷に入った2~3人前のジャンボたこおでんなら1,600円。そんな店なので、きっとたこのぶつ切りも美味いに違いないと思って注文したような次第で、予想どおりのいい味です。
私の向かい側に案内されてきたスーツ姿の男性ひとり客は、とても慣れた風情で「カスミの冷やに、まぐろ納豆(450円)、辛子れんこん(400円)」と、席に腰を下ろすまでの間に注文を済ませてしまいます。
カスミの冷やってなんだろうなぁ、と思いながら見ていると、「霞ヶ関の冷やです」とグラスと一升瓶を持ったおねえさんがやってきました。なるほど。この店のもうひとつのオリジナルブランドの日本酒「霞ヶ関」(350円)のことを「カスミ」と呼ぶんですね。ツウっぽいなぁ。
その「霞ヶ関」。オリジナルブランドかと思いきや、一升瓶はしっかりと「名誉冠」(本醸造)そのものです。「名誉冠」が、この店の「霞ヶ関」でしたか。それとも週替りなどで銘柄を変えて、本醸造酒を出しているのかもしれませんね。
このおじさんの常連さんぶりに感心していたら、6時を回ると、もっとすごい常連さんたちが現れ始めました。ふらりと、まるで我が家に帰ってきたかのような雰囲気で店に入ってきて、そのまま入口に一番近いテーブル席にストンと座るのです。
すると、何も注文していないのに、大瓶のビールがすっと出されて、おじさんは新聞を広げながら、そのビールをゴクゴクと飲み始めるのです。
この店のテーブル席は、通常は8人分の席が用意されているのですが、一番入口側のテーブル席だけが、同じ大きさのテーブルながら6人分の椅子しかセットされていなくて、ゆったりと座ることができるようになっています。そして、テーブルの上には「予約席」の札が載っています。
また、ふらりとおじさんが入ってきて、そのテーブルにストン。お店の人も「いらっしゃいませ」とも言わないまま、フッと冷や酒を出して、ひと言ふた言、言葉を交わしています。そこへ、さらにまたひとり。みんな、自分の席が決まっているのか、入口からまっすぐにその席に向かい、迷うことなくストンと座るのがおもしろい。ほとんど毎日来ているのに違いありません。
私も「虎ノ門」の燗酒(300円)をおかわりし、つまみには、うるめいわし(300円)をもらうと、炙ったうるめいわしが4尾です。ハラワタ辺りのほろ苦いところが好きなんですよねぇ。口の中がまだちょっとほろ苦いところに、ふわっと甘い燗酒をキュッ。たまりませんなぁ。
1時間半ほどの滞在は1,850円でした。どうもごちそうさま。
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