〔コラム〕 もつ煮込みの名店を探る
宇ち多゛
東京、特に下町の酒場では、「枝豆にビール」という組み合わせ以上に黄金の組み合わせなのが「煮込みにチューハイ」です。
太田和彦(おおた・かずひこ)さんが、その著書「居酒屋大全」(1990年、講談社、文庫本あり)の中で提唱した、北千住の「大はし」、森下の「山利喜」、月島の「岸田屋」の東京三大煮込み。これに立石の「宇ち多゛」と、門前仲町の「大坂屋」を加えた東京五大煮込みという言葉は、今や呑ん兵衛の間ではすっかり定着した感もあります。
同じ煮込みという名称ながら、「大はし」は牛の頭肉、「山利喜」「岸田屋」「大坂屋」は牛のモツ、「宇ち多゛」は豚のモツと、それぞれ材料も異なり、味付けも異なるのに、それぞれがその店のスーパースター的な肴(さかな)なのがすばらしいですね。
大はし / 山利喜 / 岸田屋
この五大煮込みの中でも、最近、特にはまり気味なのが、門前仲町の「大坂屋」です。大正時代の終わりに創業した「大坂屋」は、串に刺した牛モツを、濃厚な味噌ダレで煮込みます。これを半熟の玉子にからめて食べると、うまいこと、うまいこと。必ずクセになってしまう煮込みなのです。
北千住の「藤や」や三ノ輪の「弁慶」なども、「大坂屋」と同じく串に刺したスタイルの煮込みを食べらることができる酒場です。
私が個人的に一番好きなのは、木場の「河本」の煮込みです。「河本」の煮込みは、裏に脂肪分がたっぷりと付いた牛の腸が材料。まさに「こってりと」という言葉を、そのまま具現化したような煮込みなのです。これに合わせるのが「河本」のもう一つの名物、ホッピーです。この店ではホッピーの販売が始まった昭和23年からホッピーを出しているのです。すっきりとしたホッピーと、もっとも相性のいい煮込みなのではないかと私は思っています。
ここまでに登場した店は、すべて東京の東側、いわゆる下町エリアのお店ですが、西側エリアにも、下町と比べると歴史は浅いながらも、特徴的な煮込みがいろいろと存在しています。
非常に個性があって大好きなのが、阿佐ヶ谷の「川名」の煮込みです。これは豚軟骨を、たっぷりの野菜類と一緒に煮たもので、軟骨のコリコリとした食感と、野菜の自然な甘みが味わえる、絶妙なスープとも言える一品なのです。
高田馬場の「鳥やす本店」の煮込みも、鳥ガラと根菜類のスープに、具として手羽が入ったもので、モツ煮込みとは言えない一品ですが、「川名」と同じく、とても美味しいスープに仕上がっています。
中野の「石松」の煮込みは、めったにメニューに登場することがないので「幻の煮込み」と呼ばれています。とろりと柔らかいのが特徴です。
池袋の「千登利」は、昭和24(1949)年創業のやきとんの老舗。ほとんどの人が注文する名物の牛肉豆腐は、大きな鍋でグツグツと煮込まれている牛スジ肉と豆腐で、闇市の昔を彷彿とさせる甘さの強い醤油味が特徴です。
これら以外にも特徴的な煮込みは数多くあって、たとえば浅草の「正ちゃん」は、大きな鍋で煮込まれる牛筋の煮込み。そのまま煮込みとしても食べられますが、ご飯にかけて牛丼にしたり、うどんにトッピングして肉うどんとして食べたりできるのが、昔からの浅草流なのかもしれません。
千登利 / 正ちゃん / 大統領
上野の「大統領」の煮込みは、他ではあまりお目にかからない、馬の腸を煮込んだもの。神田の「みますや」は牛肉の煮込みです。赤羽「米山」の透明スープのあっさり煮込みや、新橋「ぼんそわ」のカレー煮込みもいいですよねぇ。
パッと思いつくだけでも、これだけの店が挙げられるのが煮込みのすごいところ。他にもまだまだ私が行ったことがない煮込みの名店が多そうなので、今後がますます楽しみです。
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コメント
はじめまして、いつも楽しく拝見させて頂いております。私も船に関わる仕事をしており、呉などをはじめ出張が多く、大変活用させて頂いてます。
煮込みのお話をされましたので、僭越ながら私の好きなお店を紹介させてください。渋谷道玄坂交番を少し上がったところにある「もつ八」は、牛モツの各部位をキャベツとともに塩味で仕上げ、黒胡椒で仕上げた洋テイストの煮込みです。個人的には他の名店に負けない味と思っています。他にも内臓刺身類やその日のお薦めなど、名料理がたくさん。宇田川町から移転して雰囲気が変わりあまり流行ってないのが残念です。渋谷に立ち寄られた際は是非如何でしょうか。
投稿: hideboo | 2008.10.18 22:17
はじめまして。煮込みのお話を見ながら、もつ八の煮込みも、きゃぺつの甘さとスープの味があいまってこれまたなかなかだが、あまり取り上げられないなあ、と思っていたらhidebooさんのコメントを見て、わが意を得たりということでコメントしました。新店舗になってからは行っていないのですが、ポテサラもからしがきいてなかなかの一品です。
投稿: NT | 2008.10.20 21:24
こんにちは。子供が産まれる前はしょっちゅう呑みに行っていたのですが、近頃は本当にたまに行く程度。
でも、このお店は持ち帰りも出来るので息子と一緒に買いにいったりしています。
赤羽駅と東十条駅の中間くらいの場所に「みっちゃん」というもつ焼き屋さんがあります。10人も入ればいっぱいのお店です。「もつ焼き」「レバー刺し」も絶品ですが、「煮込み」が本当に美味しいのです。いろいろなお店で「煮込み」を食べている「煮込みフリーク」の人にも「絶品!」と言わしめた一品です。東十条「埼玉屋」、赤羽「米山」まで足を伸ばす機会がありましたら是非一度味わっていただきたい一品です。
投稿: ゆう | 2008.10.21 16:58
こんにちは。はじめまして。いつもうらやましく拝読させており、大変参考にさせていただいております。煮込みですが、私のおすすめ煮込みを書かせていただきます。すいません。それは2店舗ございまして、まずは新宿しょんべん横丁の「第一宝来家」のもつ煮込み。ここのは味噌仕立てなのかどうなのかわからないくらいあっさりとしつつもダシが効いた汁仕立ての煮込みで大ぶりの大根に上品なダシが染みていてなかなかのものです。残ったお汁も「蕎麦の抜き」感覚で肴になります。もう1店舗は浜松町のもつ焼き「てっちゃん」です。場所柄、秋田屋以外ほとんど情報がないところですが、品質は比較に値しません。そこももつ煮ですが、上質なシロに程よく(またはたっぷり)脂がついており、濃厚な味噌で煮込まれてドロドロ。それに焼き豆腐が入っており、ネギがちらしてあるシンプルさですが、この濃厚さ加減は都内随一かなと。ついついホッピーを連射してしまう、行き着けの一品です。長文御免。
投稿: tycoon | 2008.10.22 00:30
たまたま目にはいってアクセスしたらあんまり面白いので最後まで読んでしまいました。凄いですね。皆初めて聞くことばかり。まあ、女なので居酒屋さんにはほとんど行く機会がないし、飲める方でもないから、縁が薄いのでしょ。でも煮込みは好き!読んでいて行きた~い!と思いました。みな東京ばかり、どなたか横浜あたりのいいお店を書いてください。また読ませていただきます。楽しみです。近かったら行きたいもの。新宿ならいけるけど、他は渋谷位で、後はなかなかね~。
投稿: yuu | 2008.10.24 15:51
hidebooさま、NTさま
渋谷「もつ八」をご紹介いただき、ありがとうございます。渋谷に出る機会を見つけて、ぜひ行ってみたいと思います。
ゆうさま
東十条「みっちゃん」のご紹介、ありがとうございます。赤羽、十条、東十条あたりも、まだまだみんなが気がついていない名店が多そうですねぇ。
tycoonさま
新宿「宝来家」、さっそく行ってまいりました。煮込みもそうですが、コブクロ刺身もまた絶品の美味さでした。浜松町の「てっちゃん」の『濃厚さ加減は都内随一』の煮込みも気になります!
yuuさま
横浜では、横浜駅近くの「豚の味珍」や、東神奈川「みのかん」、西横浜「加一」、保土ヶ谷「三河屋」、上大岡の「鳥佳」「一火」、車橋の「車橋もつ肉店」などの煮込みがおすすめです。個人的には横須賀「鳥好」の鳥皮みそ煮も好きです。
投稿: 浜田信郎 | 2008.11.02 13:53
御茶ノ水にある「ちょっぺん」という居酒屋のもつ焼き、もつ煮込みは最高とのことですよ!!!
http://r.tabelog.com/tokyo/A1310/A131002/13131989/
投稿: 花子 | 2012.04.15 21:09