都内のホルモン焼原点 … 大衆酒場「やまや」(泉岳寺)
うーむ。実に怪しい。川の中に突き出すように建ち並ぶ小さな家々。川面からたくさんの柱が突き出して、まるで高床式住居のようですもんねぇ。
ここは港区芝浦にある高浜橋(たかはまばし)という橋のたもと。JRの品川駅と田町駅のちょうど中間あたりにあって、どちらからも歩くと20分以上はかかりそうなこの場所に、ポツンと終戦直後の風景が残る一角があるのです。
今から6年ほど前の「散歩の達人」(2003年3月号、品川・大井町・大崎)に「高浜橋袂のよもやま話」という記事が載って以来、非常に気になっている場所だったのですが、その交通の便の悪さゆえに、なかなかやってくることができなかったのでした。
そのときの記事で、橋のたもとにある「やまや」の女主人、チェ・ジョンジャさんに、開店当時のことを聞いている部分があります。
「終戦後すぐに、おばあちゃん(姑)が始めた店なんです。当時、日本では牛の内臓は食べませんでしたよ。でも、ここは食肉市場が近いから、新しいものが手に入る。で、ホルモンを七輪で焼いて出したら凄い人気。朝から晩までお客さんでワサワサしてました」
この「やまや」の他に、「はるみ」「ふくや」という3軒の焼肉屋が軒を連ね、焼肉長屋としてにぎわっていたのだそうです。
現在は「ふくや」は店を閉め、となりの「はるみ」もラーメン屋さんに転進してしまったようです。今日は残る1軒、看板に「大衆酒場・ホルモン焼」「大衆食堂・ラーメン・ホルモン焼」と書かれた「やまや」に入りました。
店内は、入って右手に4~5人ほど座れる直線カウンターがあり、その中の厨房スペースに女性がひとり。この方が女将のチェ・ジョンジャさんなんですね。左手には4人掛けのテーブルが3つ並んでいます。
火曜日、午後5時半のこの時間帯、先客は2人。それぞれ男性ひとり客で、ひとりはカウンター席の奥のほうに、もうひとりは一番手前のテーブル席に座って、ふたりともチビチビと飲んでいます。
私もカウンター席の手前側に座り、ビール(キリンラガービール大瓶、550円)とモツ煮込み(400円)を注文すると、すぐに出される瓶ビールとお通しの味付けモヤシ。
あとで他のお客さんたちが続々と入り始めてからわかったのですが、常連さんたちは入口右手の飲み物用の冷蔵庫から、かってに瓶ビールなどを取り出して自分の席に持っていっています。女将がひとりで切り盛りしているので、自分たちでできることは自分たちでやる、という気遣いがされているんですね。
注文してからレンジで温めてくれたモツ煮込みは、牛シロ、牛スジのほか、大根、ニンジン、コンニャクなどが一緒に煮込まれ、仕上げに刻みネギがトッピングされたもの。トロリと煮込まれたシロには、適度な弾力感が残り、裏側には脂肪分もたっぷり。けっこうコッテリのはずなのに、野菜が多いことなどもあって、いくらでも食べられそうな優しい味わいです。
ここ「やまや」は、焼肉屋と言いつつも、昔から焼肉メニューはホルモン焼(牛腸、750円)と、ハラミ焼(牛横隔膜、1,000円)の2種類だけだったそうで、今もその2品がメニューに並びます。
せんまい鍋(750円)、キムチ鍋(750円)、ホルモン鍋(1,200円)というのも、なにやら心引かれるメニューですねぇ。ホワイトボードにはレバ刺し(600円)、センマイ刺し(400円)といった刺身メニューも並んでいます。
カウンターのおじさんは、3杯目となる燗酒(300円)に突入し、つまみにはナット汁(400円)を注文しています。
午後6時を回ると、比較的若いサラリーマンや、中年の男性、女性のそれぞれひとり客などが次々と来店し、徐々にテーブル席が埋まっていきます。みなさん、それぞれ常連さんの様子で、入ってくるなり共通の話題が飛び交います。かといって、一見の私も、疎外感は感じません。女将を中心に、みんなが家に集っているような温かい感じです。
となりのおじさんとの話も弾んで、1時間ほどの滞在は、ちょうど千円でした。(ということは、お通しは50円だったのかな。)
「またお待ちしてま~す」という女将の笑顔に見送られながら、昭和風情に溢れる「やまや」を後にしたのでした。
・店情報
| 固定リンク | 0
コメント