サイデンさんは隔週で … 居酒屋「鍵屋(かぎや)」(鶯谷)
鶯谷駅の東側、言問通りを渡った先、台東区根岸にあるのが、昭和24(1949)年に居酒屋として創業した老舗「鍵屋」です。
開店30分後(午後5時半)の「鍵屋」は、L字カウンター長辺に4人ほど先客が座っている状態。私は空いていた短辺のところに腰を下ろします。前回とまったく同じ席ですねぇ。ここはカウンターの中にある焼き台の目の前で、焼き物の注文が入ると店主が目の前に来る場所です。
まずは菊正宗の燗酒(530円)と、うなぎのくりから焼き(640円)を注文すると、すぐに出されるお通し(サービス)は、定番の煮豆です。これは大豆を醤油味で煮たもので、ピリッと辛みを感じるのは辛子も入ってるんでしょうね。
ほとんどの人が注文する名物のうなぎのくりから焼きは、うなぎの身をくねらせるように串に打って、タレ焼きしたもの。カウンター上段に置かれた山椒粉をパラリと振りかけていただきます。
この店の店主は、いっけん寡黙そうに見えますが、しゃべり始めるといろんなことを語ってくれて、むしろ雄弁ともいっていいタイプかもしれません。
細長い徳利の方のところを握るように持ち上げて、グルグルっと回す店主に聞いてみると、
「こうするのが、一番お燗の温度がわかりやすいんですよ」とのこと。1本1本、きちんとそうやって確認しています。
「江戸東京たてもの園で、昔の「鍵屋」を見て来るようになったんですよ」
「そうでしたか。毎年夏に1日だけ、たてもの園内の「鍵屋」で営業するんですよ」
と言いながら、ロングピースのフィルター部分をポキンと折って、口にくわえる店主。
「フィルターを折るんなら、最初からショートピースにすればいいのに」と余計な口出しをしてみると、
「いや、……(と奥の厨房にいる奥さんのことを、背中越しにチラッと指差して)がうるさいんですよ」と小声で説明してくれる店主。なるほど。奥さんも店主の体調に気を使ってくれているんですね。
菊正宗(530円)をおかわりして、つまみには初めて注文するお新香(470円)をもらってみると、このお新香がカブ、キュウリ、ナス、ニンジン、野沢菜、タクアンの6点盛り。味もいいですねぇ。この店の料理は、調理法なども含めて、昔からちっとも変えていないんだそうです。古いお客さんたちも同じものを、同じように味わってたんでしょうね。
「サイデンステッカーさんもいらしてたんですよね。一度、一緒に飲みたかったなぁ」とカウンター中央部に座っているお客さん。
「そうなんですよ。2週間に1回くらいは来られてましたねぇ。本当に日本の文化を愛している方でした。ああいう人が英文への翻訳をしたから「雪国」もノーベル賞を受賞できたんだと思います。著者の川端康成さんご自身が、ノーベル賞の半分は、サイデンステッカーさんのものだとおっしゃってたそうです」
2週間に1回かぁ。本当に常連さんだったんですね。
3本目のお酒として、甘口の桜正宗(530円)をもらって、これまた初めての大根おろし(440円)を注文すると、これがチリメンジャコもたっぷりと入った、いわゆるジャコおろし。一緒に出された小瓶入りのお酢をちょっとかけて、醤油もかけて、さっぱりといただきます。
ゆっくりと2時間強の滞在は3,140円でした。どうもごちそうさま。
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コメント
エドワード・サイデンステッカーと言えば、彼が大変に敬愛していた断腸亭こと永井荷風散人が戦後旧鍵屋を何回か訪れたことが有るという事を、現当主か先代がなにかの書物に記載していたのを読んだことが有ります。
投稿: 東京居酒屋漂人 | 2009.01.12 21:44