いつまでも最年少なり … 酒房「北国(きたぐに)」(中野)
「あら? 今年初めてじゃない?」
「そうなんです。なかなか来れずにすみません」
「毎年、その年の干支の爪楊枝入れをお年賀に配ってるのよ。はい、どうぞ」
そう言いながら、小さな箱を手渡してくれるママさん。中には丑(うし)をかたどった陶器の爪楊枝入れが入っています。
「おぉ。よかったですねぇ。このお年賀をもらえるには、何年も通わないといけないんですよ」
となりのお客さんがそう教えてくれます。
今夜、この店にやって来たのは午後8時前。平日でもそうですうが、今日は金曜日なので、店内のカウンター席はこの店でよく拝見する常連のお客さんたちでいっぱいです。右手のテーブル席は空いているので、遠慮してそこに座ろうとすると、
「そこじゃ寂しいから、こっちに座りなさいよ。ちょっと寄ってもらって」
とママさんが声をかけてくれて、常連さんたちがちょっとずつ寄ってくれて、空いた席は、なんとカウンター中央部の柱前。この席だけが、後ろにもたれることができる特等席です。この店の常連さんだった作家の井伏鱒二(いぶせ・ますじ)さんの定席であったという噂も聞いたことがある席です。
ひぇ~~っ。なんという席に……。
と、内心ビクビクしながら座ったところへ、冒頭のやり取りがあって、「北国」のお年賀までいただけたのでした。感涙!
まずは瓶ビールを注文すると、キリンラガーとキリン一番搾りがある中から、いつも一番搾りを出してくれます。以前、「どっちにする?」と聞かれて、一度、一番搾りをもらって以来、その後は何も言わないでも一番搾りを出し続けてくれているのです。
ここのママさんは、誰が何を飲むかよく覚えていて、日本酒も5種類くらいある中から、銘柄を指定しないでもその人の好みのお酒を出してくれるのです。
お通しは大きく切った豆腐の入ったお吸い物。このお通しで身体があったまります。
飲み物を燗酒(私はこのところ、この店定番の「八鶴」)に切り換えたら、冬場の名物、おでんをもらいます。内容は玉子に大根、そしてちくわぶ。最後に昆布をサービスで入れてくれます。特徴的なのは玉子。殻付きのままおでん鍋で煮込まれていて、これを自分でアッチッチ、アッチッチとむいていただくのです。
ガラリと入口引き戸が開いて入ってこられたのは、8年前にこの店をご紹介いただいたNさんです。ちょうど先ほど帰られた常連さんのあとの、入口横のカウンター席に座って、いつものように豪快に飲み始めます。
Nさんは、田舎から出てきてすぐに中野に住んでいて、そのころから「北国」に通っていたんだそうです。現在は千葉方面にお住まいですが、ときどき中野まで飲みにいらっしゃるのです。千葉方面とはいえ、総武線沿線なので、中野から電車1本で帰れますもんね。
私も燗酒をおかわりし、おでんはコンニャクとガンモドキをいただきます。
Nさんの焼酎もご馳走になって、ゆっくりと2時間ほどの滞在は2,350円。この店に来るようになって8年になるのに、いつまで経っても店内では最年少の状況が続いているのでした。
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コメント
毎日、楽しみながら読まして頂いています。
浜田さんや、他のブログを書かれている人も
酒がお強いですね
いい店を紹介して頂いて、参考にしています。
門仲の「大坂屋」は、一人で飲む時、行っています。
それから、最終行の年月日ですが
2009年は平成21年です。20年になっていますよ
投稿: でん爺 | 2009.03.10 10:02
年号の間違い、まったく気づいていませんでした。ご指摘ありがとうございます。>でん爺さま
週末などを利用して、ちょっとずつ直していこうと思います。
投稿: 浜田信郎 | 2009.03.11 23:32