ホルモン鍋と仲間たち … 焼肉居酒屋「富吉(とみきち)」(堀切菖蒲園)
「ホルモン鍋とウルテ、あとミノサンド。モヤシとゼンマイもね」
ものすごい泡立ちの琥珀(こはく)色のボール(270円、以下、価格はすべて税抜き表記)で乾杯するとすぐに、「酔わせて下町」のFさんが料理の注文をしてくれます。
ここは堀切菖蒲園(ほりきりしょうぶえん)の焼肉居酒屋「富吉」。“焼肉居酒屋”というのはあまり聞かない業態ですが、この店は2階は普通の焼肉屋。1階は変形コの字カウンター22席の普通の居酒屋風ながら、メニューは2階と同じく焼肉主体なのです。
「1階で焼肉をたのむと、焼いたものを出してくれるので、ボールに集中できるんですよ。それがこの店のいいところ。ひとりで来ても大丈夫です」とFさん。
ほとんど待つこともなくモヤシ(200円)とゼンマイ味付(200円)が出されます。
「このモヤシとゼンマイは、あとで鍋にも入れるので、半分くらいは残しておいてくださいね」
Fさんは「この店ではこれ!」と気に入ったものができたら、あまり浮気することなくずっとそれを注文するタイプ。この店の場合は、冒頭で注文した5品がそのお気に入りらしく、しかも出される順序もすでに計算済みのご様子。まず出されるモヤシとゼンマイをお通し代わりにつまみつつ、料理のできあがりを待とうというわけですね。
焼肉は、カウンター内の厨房の一番奥にあるコンロのところで、おばちゃんがチャチャッと焼き上げて、銀色の楕円皿で出してくれます。
先に出てきたのはミノサンド(650円)。ミノサンドというのは、ミノ(牛の第1胃袋)の脂の多い部分で、一頭からわずかしか取れない希少な部位なんだそうです。壁に張り出されたミノサンドのメニューにも『富吉のおすすめ!』『口の中でとろける美味しさ』『焼き方注意。焼き過ぎるとお肉の間の脂が落ちてしまい、美味しさ半減。しっかり焼けて脂が落ちる直前がGood!』などの文字が並んでいます。とは言うものの、ミノらしい弾力感もあって、なかなかいい食感です。
ウルテ(600円)は、牛の気管部分の軟骨で、コリコリ感が強烈です。いい焼き加減ですねぇ。ピリ辛のタレとの相性も抜群です。
もうちょっと焼肉を食べてもいいかな、という腹具合のところでカウンター上にコンロがセットされ、生の状態で準備されたホルモン鍋がのせられます。
「最後に入れるうどんが美味いので、その分も考えて注文しないといけないんですよ」
とFさん。なるほど。たしかにこの鍋だって、1人前なのに、3人で食べても大丈夫なくらいの量がありますもんね。逆にFさんがひとりで来たときは多すぎるくらいなんじゃないですか?
「いやー、ひとりのときも、自分の周りがたくさんの食べ物で囲まれているという状態が好きなんですよ」
そう言いながら、残しておいたモヤシとゼンマイの一部を鍋に投入するFさん。
鍋の中身は、シロを中心としたもつに、キムチ、豆腐、ニラ、シイタケ、春菊、白ネギ、キャベツなど。クツクツ、クツクツと沸きはじめました。
「そうだ。並豚タン塩(400円)も美味しいんですよ。これももらいましょう」
鍋のできあがりを待つ間に、Fさんが焼肉をもう1品注文してくれます。上豚タン塩(550円)というのもあるんだけど、並豚タン塩で十分に美味しいんだそうです。
さぁ、ホルモン鍋もできあがりました。どーれどれ。
や! もつもさることながら、スープが爆発的に美味いですねぇ。キムチのやわらかい辛味も効いていて、旨味の中にちょっとピリ辛感があるのがまたいい。スープだけでもボールが進みます。
あっという間に鍋も食べ終えて、うどん玉(300円)をお願いすると、鍋の汁(つゆ)も足してくれます。うどんができてきた頃合いを見計らって、Fさんが最後に残しておいたモヤシとゼンマイを投入します。なーるほど。さっき全部入れなかったのは、ここでも使うからだったんですね。
Fさんが「これが絶品なんです!」とすすめてくれたとおり、うどんは腰もしっかりとしていて美味しい。モヤシとゼンマイが実にいい相性ですねぇ!
「1軒目でガッツリと飲んだあと、この店には2軒目でやってきて、腹を仕上げるんです」
と聞かせてくれたとおり、Fさんが注文してくれた「ホルモン鍋とその仲間たち」といった感じの料理にすっかり満腹になって店を後にしたのでした。
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