おでんと泡盛で半世紀 … おでん「あわもり」(呉市・広)
大学を卒業して、現在の会社に就職し、最初に赴任したのが広島県は呉の町。今から25年ほど前のことでした。
呉は、目の前の瀬戸内海からの海の幸、背後の中国山地からの山の幸、そして酒都とも呼ばれる西条や、竹原などの酒所も近くに控えている上に、昔から海軍さんや造船所の職工さんが大勢いたこともあって酒場の数も多く、呑ん兵衛にとってはとてもありがたい町なのです。(飲み代もけっこう使いましたが。。。(泣))
学生時代のガンガン飲んで騒げばいいような飲み方から、じっくりと酒や肴、そして酒場そのものを楽しめるようになってきたのも、この頃からで、何軒かの行きつけの店もできました。
呉市中央部からはちょっと離れた郊外、広(ひろ)交差点の近くにある、おでんの「あわもり」も、その頃に行きつけだった店の1軒。
我われの住んでいた独身寮は、この交差点から少し山側に入ったところにあって、直行便のバスは本数が少ないのです。そこで、本数の多い、この交差点まで来るバスに乗ってここまでやってきて、「あわもり」でちょいと飲んでから帰ったりしていたのでした。
毎日新聞呉支局が昭和49(1974)年に出版した「呉うまいもん」によると、もとは沖縄の酒、泡盛(あわもり)の取次ぎ店だったのが、昭和28(1953)年におでん屋に転向したのだそうで、以来、56年間、地元の人たちに愛され続けている人気店。現在は、二代目となる店主夫妻が、お二人で切り盛りされています。
「先代がやってたときは、ぜんぜん手伝ったこともなかったので、跡を継いでから二人で手探りでやってきました」と話してくれる店主。
昔は、おでん鍋もカウンターの手前側と奥側の2箇所に置かれていたのですが、現在は手前側、ちょうどL字カウンターの角の内側にある1個のみです。この鍋に、おでんが80本入るんだそうです。
すじにく、かわ、あつあげ、こんにゃく、ひらてん、ぼうてん、じゃがいも、かまぼこ、きも、たまご、あいがも、たまねぎ、ねぎま、ウインナー、いわしだんごと15種類書き出されたおでんは、どれでも1本90円。つまみはこのおでんのみと潔いのです。
飲み物は、店名のとおり、アルコール度数35%の泡盛(160円)のほかに、ビールが大瓶(500円)と小瓶(350円)、それに御酒(日本酒、200円)と、こちらも少数精鋭です。
まずは喉潤しに小瓶のビール(キリンラガービール)をもらって、おでんは、この店に着たら必ず注文する〔かわ〕と〔きも〕からスタートです。
おでんなべから平皿に盛られるおでんは、スープは入れないのが特徴的。これにカウンター上に置かれた、ゆる~く溶かれた練り辛子をちょいとつけていただくのです。
〔かわ〕は、他では食べることができない豚の皮のおでん。毛抜きで毛を抜き、剃刀(かみそり)でうぶ毛も剃ってと、手間ひまかけて下ごしらえされた皮を、ひと口大に四角に切り分けて、串に4切れずつ刺して、おでん鍋で煮込みます。
〔きも〕もまた、他では見かけたことがない牛の肺(フワ)。これもひと口大にカットして、串に4切れずつです。
「〔きも〕は、レバーかと思ってました」と聞いてみると、
「本肝(ほんぎも=肝臓)は煮込むと小さくなって、固くなってしまう。フワ肝(=肺)は煮汁を吸って美味しくなるんですよ。モツの仕入れは目方(めかた)でなんぼなので、ギシッと重い本肝より、フワ肝の方が安いしね」と教えてくれます。
小瓶のビールを飲み干して、泡盛(160円)を注文すると、泡盛専用の小さなグラスに、冷蔵庫でよく冷えた泡盛が、ほぼグラスいっぱいまで注がれたあと、残りの部分に表面張力になるまで梅酒が加えられます。これを口から迎えにいっていただくわけですね。
つまみには再び〔かわ〕と〔きも〕です。昔と違って、この店にもなかなか来れないので、来たときに〔かわ〕と〔きも〕をたっぷりと堪能しておかないと。
コラーゲンたっぷりで、むっちりとした食感の〔かわ〕を食べて、唇もテカテカになったところを、冷たい泡盛でキュッと洗い流すのがいいんですよねぇ。かわ、泡盛、かわ、泡盛、……と繰り返すうちに、すっかり酔っ払いができあがってしまうのでした。プリップリの〔きも〕も、相変わらずうまいよなぁ。
泡盛をおかわりして、さらに〔たまご〕や、注文を受けてから鍋に入れられる人気の〔たまねぎ〕、好物の〔ひらてん〕、早い時間に売り切れてしまうのでメニューには載せていないという〔あぶら〕(おそらく豚の内臓脂肪)をいただきながら、泡盛も3杯目をおかわりです。
若い頃は粋(いき)がって、「小さいコップじゃおかわりするのが面倒くさいから、ビールのコップでください」なんて言って、ビールグラスで泡盛を飲んでたなぁ、なんてことを思い出しつつ、ゆっくりと1時間半ほど楽しんで、今日のお勘定は1,550円。
新入社員時代に通っていた行きつけの老舗が、四半世紀経った今でも変わらず地元の人気店として愛され続けているというのがうれしい限りですよねぇ。どうもごちそうさま。
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