iiさんはこう楽しむ(前編) … 豚料理「味珍(まいちん)」(横浜)
「まずはヤカンをセットで。あと尻尾をお願いします」
そう注文してくれるのは、濱の酒場通・iiさん。ここ「味珍」には15~6年ほど通っているというiiさんながら、30年、40年と通っている人が多いこの店では、まだまだ新参者なんだそうです。
iiさんがたのんだヤカンというのは焼酎(宝25度、380円)のこと。アラジンの魔法のランプ風のヤカンで注いでくれることから、ヤカンと呼ばれるようになったのです。
普通にヤカンと注文すると、コップに1杯の焼酎を注いでくれます。これにカウンター上、テーブル上に置かれている梅シロップを入れて、梅割り焼酎としていただくのです。
「セットで」と注文した場合には、その焼酎とは別に氷の入ったグラスと、缶入りのウーロン茶(150円)が出されます。この3つを使って、自分でウーロン割りを作ると、グラスに2~3杯分のウーロン割りができるのです。
そのウーロン割りで乾杯して、最初のひと口をいただいたところで、タレ作りです。
この店の常連さんは、店に入って飲み物と豚料理の注文をすると、みなさん、タレ作りに取り組みます。したがって、タレを作らずにボォ~ッと待ってる人を見ると、「あ、彼は初めてきたんだな」とすぐにわかるのです。
タレの基本は、練りガラシとお酢。席に着くなり出される小皿に、まずはテーブル上に置かれた練りガラシを入れ、お酢をかけます。これをよ~くかき混ぜて、練りガラシをお酢に溶かしてしまいます。
基本のタレはこれで完成ですが、好みで醤油やラー油、おろしニンニクなどを加えてもかまいません。これらの調味料は、すべてカウンター上、テーブル上に置かれています。
ちょうどタレを作り終わったところで、豚の尻尾(700円)の登場です。
この店の豚料理は、頭、耳、舌、胃、足、尾の6種類で、それぞれ1人前1皿が700円。ひとりで来ると、1皿は食べられるけど、2皿は健啖家じゃないときびしいかな、というボリュームです。
「豚料理を作るのに2日かかるんですよ。毎朝9時にやってきて、昨日仕込んだ分を今日仕上げて、明日の分を今日から仕込み始めます。定休日(日曜日)にも、社長が出てきて、翌日の分の仕込みをしてるんですよ。午後1時ごろに仕込みを終えて、昼食をとって、ちょっと休憩したら、もう開店時刻です」
そう教えてくれるのは、新店2階の店長・簗瀬敏(やなせ・さとし)さん。ここ「味珍」は、横浜駅西口狸小路の両側で、本店と新店が向かい合って営業しており、さらにそれぞれ1階と2階に店舗があるので、都合4軒の「味珍」があるのです。
昭和31年にオープンした本店は、1階・2階を合わせて25~6人のキャパシティ。昭和53年オープンの新店は、1階が6~7人ほど、2階が35人ほどと、全部あわせると70人ほど入れるお店ながら、いつもお客さんでいっぱいです。
店の公式サイトによると、店の創業はそれより前の昭和20年代後半で、横浜駅西の川淵で、屋台として営業していたのだそうです。昭和30年に狸小路ができ、「味珍」もその中の1軒として、新たなスタートを切ったのでした。
「味珍」ならではの豚料理ができたのは、今から48年前の昭和36年のこと。創業者の弟さんが、中華料理の豚料理を教えてもらってきたものをベースに、あれこれと工夫を加えて、現在の、中華料理でもなく、かといって和風でもなく、沖縄風でもないという、「味珍」ならではの独特の味を作り出したのでした。
中華料理との違いの大きなところは、香辛料をいっさい使わないこと。そのかわりに醤油の味が効いた仕上がりになっています。
さて、豚の尻尾。
豚の尻尾といえば、長くてクルクル巻いているというイメージがありますが、それは昔の話。今は生まれてすぐに尻尾を切り落としてしまうんだそうで、尻尾の根元あたりの太い部分だけしかありません。
そのまま丸々煮込んで仕上げたものを、関節にそってブツブツと一口大に切り分けて出してくれます。なにしろ1本1本が短いので、1人前1皿に、尻尾2~3本分が使われます。
これに、あらかじめ作っておいたタレをちょっと付けていただくのです。
iiさんおすすめのタレは、多めの練りガラシをお酢に溶き、仕上げにちょっとラー油を入れたもの。これを豚の尻尾をちょっとだけつけていただきます。江戸前の蕎麦に、からいツユをちょっとだけからめて食べるのと同じで、「味珍」ならではの豚料理がよく味わえるんだそうです。
この尻尾、とろりとやわらかいコラーゲンのかたまりなのですが、軟らかすぎず、硬すぎず。ちょうといい頃合いなのがいいですねえ。豚足も同じように、コラーゲンたっぷりの人気の一品です。
調味料セット / 練りガラシに酢を入れ / よく混ぜてラー油をたらす
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