〔コラム〕 看板メニューの傍らの名脇役
その店の看板メニューではないんだけど、なぜかいつも注文してしまう料理があります。
下井草「御天」の看板メニューは、言わずと知れた博多長浜ラーメン。店の近くまで行くと、強烈なとんこつスープの香りが漂ってきて、ファンにはたまりません。
私自身、博多で学生時代を過ごしたので、この店にやって来る目的は、締めのラーメンにあります。
しかしながら、その締めのラーメンにいきつく前に必ずいただくのが、せん菜(さい)炒め(550円)なのです。
せん菜というのは、新種のモヤシらしいのですが、普通のモヤシよりも細くて、シャキシャキ感が強いのが特徴です。私自身は、この店以外ではお目にかかったことがありません。
これをチャーシューと一緒に炒めて、仕上げに刻みネギをトッピングして出してくれます。
門前仲町「大坂屋」は、看板にも暖簾(のれん)にも「仲町名物・牛にこみ」と書かれているとおり、牛の串煮込みが名物。フワ、ナンコツ、シロという3種の串煮込み以外の食べ物メニューは、玉子入りスープとオニオンスライスしかありません。
この店で私がはまっているのが玉子入りスープ(330円)です。
注文を受けてから、殻のままの生玉子が煮込み鍋の中に投入され、ちょうど半熟になった頃合いで引き上げられます。熱々の状態の玉子の殻を、女将がくるりと剥(む)いて小鉢の中へ。半熟玉子に十文字に切り目を入れて、煮込み鍋の汁(つゆ)を入れたら、玉子入りスープのできあがりです。
添えられたスプーンで、煮込みの汁とともにいただく半熟玉子も、それはそれでおいしいのですが、もっと美味しい食べ方は、玉子を崩してスープと混ぜ、そこに串から抜いた牛煮込みを入れて、一緒に食べるという方法。特に、ちょっと硬め(=煮込み時間が短め)のシロとの相性が抜群です。
中野の「第二力酒蔵」は魚料理が自慢のお店。店の表からガラス張りで見えるネタケースには、季節ごとの魚介類がずらりと並んでいます。
この店の魚介類の値段は、日本料理屋に比べたら安いのかもしれませんが、居酒屋として考えるとけっこう高め。調子にのってどんどん食べてたら、びっくりするような金額になってしまいます。
そんな「第二力酒蔵」で、あればいつもたのむのが豆腐煮(500円程)です。
豆腐煮は、あら煮と一緒に煮込んだ豆腐4切れに、刻んだ浅葱(あさつき)をトッピングして出してくれるもの。ちょっと甘い醤油味の中に、魚のダシがよく出ていて、魚そのものを食べるより、もっと魚らしい風味が広がって、日本酒(キンシ正宗)がガンガン進みます。
ボリュームもたっぷりなのがうれしいではありませんか。豆腐煮や、あら煮などをつまみながら飲んでる分には、「第二力酒蔵」もリーズナブルに楽しめる酒場です。太田和彦さんも書かれているとおり、「高いものは高く、安いものは安く」と、メリハリのきいた大衆割烹なのです。
看板メニューの傍らの名脇役的メニューの存在。こういう料理があるから、酒場巡りはやめられません。
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